yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第八十九話 誰のための人生か -【日光篇】 建築家 フランク・ロイド・ライト-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第八十九話誰のための人生か

栃木県日光市にある、『日光金谷ホテル』は、1873年開業。
現存する最古のリゾートクラシックホテルと言われています。
そのホテルに宿泊した名立たる有名人は、アインシュタイン、ヘレン・ケラー、そして、建築家・フランク・ロイド・ライト。
再建した本館は、フランク・ロイド・ライトが造った旧帝国ホテルを模したそうです。
ル・コルビジエ、ミース・ファン・デル・ローエとともに、「近代建築の三大巨匠」と呼ばれる、フランク・ロイド・ライト。
彼の92年の生涯は、真実と虚構が入り混じり、スキャンダルにまみれました。
不倫、駆け落ち、殺人、絶望と失墜。
でも、彼が造った建造物は、今もその姿をリアルに留めています。
彼はよく、こんな言葉を口にしていました。
「あなたが本当にそうだと信じることは、必ず、起こります」。
彼の建築スタイルは、型破りでした。
新しく何かを産みだす力は、90歳を超えても、こんこんと湧いていたのです。
新しいものに、ときに人は反感や違和感を覚えます。
ライトは、何度も非難の対象になりました。
でも彼は、どんな苦難に落とされても、そこから這い上がる強さを持っていたのです。
もしかしたら、それは強さではなく、弱さだったのかもしれません。
弱いと自覚しているから、強く願い、懸命に努力する。
類まれなる精神とは、結局のところ、強さに根差すのではなく、弱さの上にたちあがるものなのでしょう。
アウトサイダーであることを厭(いと)わず、いつも境界線上を歩き続けた男、建築家・フランク・ロイド・ライトが、その数奇な人生でつかんだ明日へのyes!とは?

近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトは、1867年アメリカのウィスコンシン州に生まれた。
父・ウィリアムは、芸術を愛する教会の牧師。母・アナは学校の教師だった。
ウィリアムはシングルファザー、連れ子があった。
アナは、自分のお腹を痛めて産んだ息子、ライトを心底可愛がった。
他の子どもとあきらかに差をつけた。
音楽や文学を好むが全く生活能力がない夫、ウィリアムに辟易(へきえき)していたアナは、自分の持てる全ての愛情をライトに注いだ。
「この子を、絶対、有名な建築家にするの」
アナはライトがお腹にいるときから、建築の本を読み、イギリスの大聖堂の絵を額に入れて、育児室に飾った。
いつも貧乏だった。父が家にお金を入れない。
本当は自分も音楽や文学の世界にひたりたいのに、家事育児に翻弄(ほんろう)される母は、ときにヒステリックになったりした。
唯一、幸せな瞬間があったとすれば、19世紀の音楽家、ギルバート・アンド・サリヴァンの楽曲を家族みんなでピアノを囲んで歌うときだった。
楽しかった。ことさら大きな声で歌った。
そこには、父がいて、母がいた。
ピアノがライトにとって、終生手放せない生活の一部になったのは、もしかしたら、この体験があったからかもしれない。
ライトが18のとき、両親は離婚。
父はヴァイオリンと数冊の本だけ持って、家を出ていった。
以来、母アナは、ライトを愛し続けた。
世間がどんなに彼を悪く言っても、そばにいた。
絶対的な愛を手に入れた人間は、奔放になれる。
フランク・ロイド・ライトは、母の愛を盾に、世界に飛び出した。

母の願いどおり世界的な建築家になったフランク・ロイド・ライトは、知っていた。
「全くのゼロから何かを産みだせるやつなんて、いるもんか。全ての芸術は、自分が見たもの聞いたものの、集積、貯えの中から生まれるものなんだ」。
古今東西、過去から全世界まで、あらゆる芸術に興味を持ち、取り入れられるものは全て取り入れた。
中国、日本、東洋の作品には特に心ひかれた。
1893年のシカゴ万博。26歳のときに観た日本の浮世絵に衝撃を覚えた。
「なんだこれは、本質をとらえているのに、簡潔だ。スピリットがあるが、美意識を失っていない」。
初めての海外旅行。多くのアメリカ人がヨーロッパに向かったのに、ライトは日本を訪れた。
日光の金谷ホテルに宿泊。東照宮に心うたれた。
日本を「地球上でもっともロマンティックで芸術的な国」と表現した。
建築物は、評価を得ていく一方で、その浪費癖や女性問題で悪評を得た。
ほしいと思ったものは、金に糸目をつけずに購入。
女性も、好きだと思えば一直線。
妻と子どもを捨て、建築を依頼してきた施主の妻と駆け落ちしてしまう。
無茶苦茶だった。倫理も道徳もない。
でも、どんなに失墜しても、必ず建築界に戻ってきた。
「好きな気持ちに歯止めをかけるのは、感性を鈍らせる」

世界的な建築家、フランク・ロイド・ライトは、家に放火され、家族を殺されるという試練も味わった。
失意と絶望。精神的に追い込まれる。
背中や首に腫物ができて、視力が落ち、失明するのではないかという危機が続く。
そんな彼がやったこと。
それは焼け落ちた家、タリアセンを再建することだった。
石、一個。板、一枚。
灰の中から、少しずつ新しいタリアセンができていった。
でも、本当の意味で、彼を激しいトラウマから救ったのは、日本からの依頼だった。
帝国ホテルの建設。
このプロジェクトのために、ライトはおよそ4年間、東京で過ごした。
ただ、予算がどんどんかさみ、日程も大幅に遅れた。
帝国ホテルの完成を見ることなく、本国に戻った。
フランク・ロイド・ライトの人生には常に欺瞞(ぎまん)がつきまとい、彼が決して褒められた人間ではなかったことがうかがえる。
だが、それらを差し引いても、彼が残した建造物に嘘はない。
遠慮がない男、恥を恥と思わない男。
彼はきっとこんなふうに言うかもしれない。
「自分の人生なんだろ?なんで他人に気をつかってばかりいるんだ。オレは関係ないね。誰に何を言われたって、いいんだ。だっていいものを創ろう、残そうって思ったら、みんなにいい子ではいられないよ」。
フランク・ロイド・ライトの醜聞(しゅうぶん)は消え、今、彼の造った建物に、風が吹き抜けていく。

【ON AIR LIST】
You Belong To Me / Bryan Adams
Butterfly / Corinne Bailey Rae
1979 / The Smashing Pumpkins
Bitter Sweet Symphony / The Verve

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけのしょう油バター炒め

近代建築の巨匠 フランク・ロイド・ライトが生まれたのは、酪農が盛んなアメリカ・ウィスコンシン州。そこで今回は、ウィスコンシン州の特産である、バターを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのしょう油バター炒め
カロリー
388kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • じゃがいも
  • 1個
  • ブロッコリー
  • 30g
  • 人参
  • 1/4本
  • れんこん
  • 30g
  • 豚バラ肉
  • 50g
  • しょう油
  • 大さじ1
  • バター
  • 20g
  • 大さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。じゃがいも、ブロッコリー、れんこん、人参は食べやすい大きさに切り、豚肉は1口大に切る。
  • 2.
  • じゃがいも、人参は600Wのレンジで硬さをみながら3~5分、ブロッコリーは30秒程度加熱する。
  • 3.
  • フライパンに油を熱し、強火ですべての具材をさっと炒める。
  • 4.
  • 最後にしょう油とバターで味を調える。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる