yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百九十二話 自然とつながる -【高知篇】物理学者・随筆家 寺田寅彦-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百九十二話自然とつながる

戦前の高名な物理学者でありながら、夏目漱石 門下生として文学にも造詣が深かった、いわば二刀流の賢人がいます。
寺田寅彦(てらだ・とらひこ)。
高知県高知市にある寺田寅彦記念館の建物は、寅彦が4歳から19歳まで過ごした旧宅を復元したものです。
この記念館は、昭和42年に高知市史跡に指定され、当時のたたずまいを残しています。
最近再び、彼の随筆が脚光を浴びているのをご存知でしょうか。
テーマは、災害。
今からおよそ90年前、寅彦は、こんな文章を書いています。

『津浪と人間』より
・・・「非常時」が到来するはずである。
それは何時だかは分からないが、来ることは来るというだけは確かである。
今からその時に備えるのが、何よりも肝要である。・・・

寺田寅彦のこの一節は、昭和8年、「昭和三陸地震」が東北地方を襲った2か月後に発表されました。
彼はたびたび、災害について、自然とのつき合い方について言及し、近年、『天災と日本人』という随筆集が刊行されました。
彼は、こう主張しています。
「文明が進めば進むほど、天然の暴威による災害がその激烈の度を増す」。
寅彦は、自然と「向き合う」という考え方に疑問を抱いていました。
むしろ自然とどう「つながる」か、そして、我々人間同士の「つながり」にも注目していたのです。
物理学者ゆえの冷静な英知と、名随筆家、俳人としての細やかな機微で、世界のしくみを読み説こうと試みた彼だからこそ、今、再評価されているのでしょう。
寅彦の人生を決定づけたのは、熊本の高校時代に出会った二人の教師でした。
ひとりは、物理学の田丸卓郎(たまる・たくろう)、もうひとりが英語教師だった夏目漱石です。
まさしく、ひととのつながりが、稀代の賢人を産んだのです。
今もファンを魅了する文章の達人・寺田寅彦が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

物理学者で随筆家の寺田寅彦は、1878年11月28日、東京市麹町区、現在の東京都千代田区に生まれた。
父は、土佐の士族。
陸軍会計監督の職についていた。
生まれたのが寅年の寅の日だったので、寅彦と名付けられる。
父が退役し、高知市に移る。
都会から、自然豊かな場所へ。
実家の長屋に、重兵衛さんという老人がいた。
彼は夜な夜な、酒をあおりながら、近所の子どもたちを集めて、化け物の話をした。
「ばけもの、妖怪っていうのはだなあ、いたるところに潜んでいるんだよ」
生のにんにくをボリボリかじりながら話す重兵衛さん。
ろうそくに照らされた顔は、この世のものとは思えなかった。
「特になあ、川の近くはあぶねえぞ。橋のたもと、草むらの陰、おまえらが通り過ぎるのをじぃーーっと待ってるんだ。たまに悪さ、しちまうがな、あはははは」
寅彦は、のちに述懐している。
こうした妖怪話を、非科学的と排除することこそ、科学的ではない。
自分は、最初に自然への畏怖や畏敬の念を持ったからこそ、科学を極めてみたいと興味を持った。
もし、妖怪などこの世にいるはずがないと科学的に言われたら、科学の道に進むことはなかった。
ひとはまず、自然を恐れるべきだ。

寺田寅彦は、体が弱かった。
13歳のとき、肺尖カタルを患い、学校を休学。
想像や妄想にふける時間が増えた。
寅彦は、思う。
頭がいいことと頭が悪いこと、生きていくには、その両方が必要だ。
頭がいいひとは、見通しがきいて、あらゆる道すじの前途の難関がわかってしまう。
だから ともすれば、前に進むのをためらう。
頭が悪いひとは、前途に霧がかかっているので、かえって楽観的。
難関に出会っても、まあ、なんとかなるさとさらに前に進む。
頭がいいひとは、自然が、自分の見識にそぐわないと、自然のほうが間違っていると思ってしまう。
そうなると、自然科学は自然の科学ではなくなってしまう。
頭が悪いひとは、自然とはそういうものだと受け入れる。
たとえどんなに理不尽なことが起こったとしても…。
病床にあって、寅彦は悟った。
山全体が見通せないから、ひとは頂上を目指し、頭で理解できないから、自ら動くことで真理に近づく。

熊本の第五高等学校に入学したことが、寺田寅彦の運命を変えた。
まず出会ったのが、田丸卓郎先生。
物理と数学の教師だった。
数学は苦手だったが、田丸先生の授業があまりに面白くて夢中になった。
田丸は、身近な出来事を題材に物理の奥深さを説いていく。
明治の三陸地震が起きると、なぜ地震が起こるかをわかりやすく解説してくれた。
そしてもうひとりが、生涯の師となる、英語教師の夏目漱石。
もともと漱石の授業をとっていたわけではなかった。
落第になりそうな友人が、点をもらうため、夏目先生の自宅に行くので、つきあってくれと懇願した。
漱石は、快く会ってくれた。
黒い羽織を着て、端然と座っている。
ひとしきり話が終わると、寅彦は俳句の話をした。
ちょうど俳句に傾倒していて、聞きたいことが山ほどあった。
漱石は、寅彦の質問にひとつひとつ丁寧に答えていった。
「俳句っていうのはねえ、レトリックを煎じ詰めたものだね」
「花が散って雪のようだという常套(じょうとう)を使うことを、月並み、というんだよ」
楽しかった。
いくら話しても尽きない。
友人そっちのけで、俳句談議がいつまでも続いた。
やがて、個人的に漱石の家に通うようになる。
一緒に俳句を作った。
漱石も寅彦と話すのがうれしそうだった。
やがて正岡子規に紹介してもらい、自分の作品が活字になった。
漱石は、寅彦を可愛がった。
彼の素直な心。向上心。
自然を分析しようとしないで、自然とつながろうとする気持ちに賛同し、心を開いた。
寺田寅彦は、物理学と文学で自然に寄り添った。
自然と争っても仕方がない。
自然とつながる術を見つけるべきだ。
そう願いつつ、彼は57年の生涯を閉じた。

【ON AIR LIST】
NATURE / India Arie
牧神の午後への前奏曲 / ドビュッシー(作曲)、シンシナティ交響楽団、パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
弦楽五重奏曲第4番 ト短調 KV516 / モーツァルト(作曲)、スメタナ四重奏団、ヨセフ・スーク(ヴィオラ)
ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調作品47第3楽章「クロイツェル」 / ベートーヴェン(作曲)、アイザック・スターン(ヴァイオリン)、ユージン・イストミン(ピアノ)

★寺田寅彦は、若いころからヴァイオリンを弾くこともたのしみました。
モーツァルトの『弦楽五重奏曲』は、夏目漱石と行った演奏会で聞いた曲。
ベートーヴェンの『クロイツェル・ソナタ』は、晩年、演奏に挑戦した曲です。
(参考文献 『ヴァイオリンを弾く物理学者』 末延芳晴 著)

★今回は、高知市の寺田寅彦記念館にご協力いただきました。
https://www.city.kochi.kochi.jp/site/kanko/teradatorahiko.html
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとなすの山椒炒め

今回は、高知で多く収穫されている、なすやしょうが、みょうがなどを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとなすの山椒炒め
カロリー
107kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • なす
  • 2本
  • ごま油
  • 大さじ1
  • しょうが
  • 1片
  • 【A】ポン酢
  • 大さじ2
  • 【A】砂糖
  • 大さじ1/2
  • 【A】山椒(粉)
  • 小さじ1/2
  • みょうが
  • 2個
  • 長ねぎ
  • 1/4本
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、なすはヘタを取り縦4つに切る。
  • 2.
  • しょうがはみじん切りにし、【A】と合わせる。
  • 3.
  • 長ねぎは千切り、みょうがは輪切りにする。
  • 4.
  • フライパンにごま油を入れ、なすを焼き、霜降りひらたけを加えて炒め、(2)で調味する。器に盛り、ねぎとみょうがを飾る。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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