yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第九十七話 40歳からの生き方 -【軽井沢篇】詩人・思想家 タゴール-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第九十七話40歳からの生き方

軽井沢の深い緑に包まれた、ある施設があります。
日本女子大学三泉寮。
1906年、明治39年に建てられた、軽井沢初の大学の寮です。
今風に言うならば、セミナーハウス。大学一年次の学生は夏の間、ここで教養特別講義を受けます。
爽やかな風に抱かれ、いにしえの先輩たちと同じように、ノートをとる女子学生たち。
大正5年8月18日午後5時。
特別講師の講演が始まりました。
壇上に立つのは、タゴール。
インドの詩人にして思想家、教育者、そしてアジア人として初めてのノーベル賞の受賞者、ノーベル文学賞に輝いた世界的に有名な賢人です。
『軽井沢高原文庫通信』2003年7月5日発売号に、そのときの講演の内容が掲載されています。
タゴールは、瞑想、メディテーションの大切さを説いています。
「何かを得ようとしてはいけない。大事なのは、宇宙と一体化すること。そうして初めて自由になれる。真の自由は本当の喜びであり、私欲がなくなれば、畏れるものも消え失せる。そこには利己的な活動も差別もない。みんながその境地に立てば、この世から争いは消え、平和が訪れる」。
そう、語りました。
タゴールは、偉大な思想家の家系に育ち、裕福な暮らしの中、自分の思うがまま、生きてきました。
ところが、順風満帆に見えた40歳のとき、突然の災厄が彼を襲います。
その試練に彼はどう立ち向かい、何を思い、何を実行したのでしょうか?
今も世界中のひとから敬愛されている詩人が、40歳でつかんだ明日へのyes!とは?

インドの詩人にして思想家、タゴールは、1861年5月7日に生まれた。
家は、西ベンガル州コルカタの名門。
祖父は実業家で莫大な財産を築き、父は宗教家としてひとびとの信仰の中心にいた。
タゴールは、14番目の子どもで8男。
優秀な兄たちとは違い、厳しいしつけに反抗する、手に負えない子どもだった。
詩作には長けている。でも、どうもパッとしない我が子に、父はイギリス留学をすすめる。
しかし、これもうまくいかず卒業できない。
これは早めに身を固めてしまうしかないと思った父は、タゴールが22歳のときに、結婚話をすすめ、タゴール家の領土のひとつ、シライドホの管理をまかせた。
彼は、自分のやり方で、この仕事に真摯に向き合った。
領地の管理だけではなく、農村開発にまで着手。
村の福祉や教育にまで関心を寄せた。
ひとが暮らしていくということ。
その根幹の障壁や苦悩を理解しようと努めた。
何かあればすぐに駆けつけ、改善しようとする。
そんな地主は、いなかった。
シライドホの河で、船頭をしている老人は、言った。
「あのひとは、神様みたいなひとじゃった。何かあったら、必ず相談するように、言っていたよ。不作に悩む小作人が支払いできないでいると、平気で待ってくれた。いつも、優しい目をしていたよ。全てを包み込むような、優しい目をねえ」。

タゴールは、80歳でこの世を去った。
そのちょうど半分、40歳のときに転機が訪れる。
40歳の彼は、ある意味、全てを手にしていた。
シライドホの領地を守る地主として村人から信頼を集め、詩人としてのキャリアを積み、愛する妻と5人の子どもにも恵まれた。
さらにタゴール家が所有するシャンティニケトンという場所に、理想の教育施設を作る事業も始まっていた。
誰もがうらやむ人生の成功者に見えた。
しかし、天はそんな彼に、容赦ない試練を用意した。
妻が病に倒れる。嫁いだばかりの次女も体調を崩す。
理想の学園建設も、資金がうまく回らず頓挫。
他に手がけていた事業にも失敗。多額の借金を背負う。
資産を全て吐き出した。
やがて、妻が息をひきとる。
次女だけでなく、末の息子までコレラで亡くす。
学園を任せていた後継者も、天然痘で命を落とした。
家族、仕事、何もかもうまくいかない。
タゴールは、天を仰ぐ。
「どうすればいい?私はこの先、どうすればいい?」
初めて味わう孤独。初めて体験する哀しさ。
そのとき彼は、後の人生を決定づける選択をする。
「そうか、わかった。これが私の定めならば、私は真正面から向き合おう。一歩たりとも、逃げたりはしない」。

40歳からのちの、タゴールの創作活動は、冴え渡った。
人生の深淵に手を伸ばし、生きることの哀しさに向き合った。
一歩たりとも、逃げないこと。後ろを振り返らないこと。
彼は失意や絶望を昇華し、詩をつむいだ。
『果物採集』という有名な詩がある。

危険から守ってくださいと祈るのではなく、
危険に勇ましく立ち向かえますように。
痛みが鎮まることを願うのではなく、
痛みに打ち勝つ心を持てますように。
人生という戦場で味方を探すのではなく、
自分自身の力を見出せますように。
不安と怖れの下で救済を望むのではなく、
自由を勝ち取るために耐えられる心を持てますように。
成功の中にだけ幸せを感じられるような卑怯者ではなく、
失意のときにこそ、全てが自分にゆだねられているのだと
気づけますように。

タゴールは、52歳のときに、ノーベル文学賞を受賞する。
まさしく青天の霹靂だった。
周囲の態度、環境が変わる。
まるでもうひとりのタゴールがいるような感覚に陥った。
でも、彼は自分を見失うことはなかった。
40歳からの10年間。
ひたすら孤独と向き合い、己のなすべきことをなす努力を、日々してきたから。
40歳で人生を見直す。
自分を見つめなおす。
己の本分を、見極める。
そして、自分にしか描けない絵を描く。
それはときに孤独や疎外をともなう。
でも、タゴールは教えてくれる。
「願ったことしか、かなわない」。
そして、
「大地を花で埋めるのは、大地の涙があればこそ」。

【ON AIR LIST】
Porcelain / Moby
To Build A Home / The Cinematic Orchestra
Race For The Prize / The Flaming Lips
魔法って言っていいかな? / 平井堅

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと夏野菜のカレー

インドの詩人にして思想家、そしてノーベル文学賞に輝いた世界的に有名な賢人、タゴール。そんなタゴールの出身地にちなみ、カレー料理をご紹介します。

霜降りひらたけと夏野菜のカレー
カロリー
551kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • かぼちゃ
  • 200g
  • オクラ
  • 8本
  • パプリカ(赤)
  • 1/2個
  • 塩、こしょう
  • 適量
  • サラダ油
  • 大さじ2
  • 玉ねぎ
  • 1個
  • 豚ひき肉
  • 120g
  • カレールウ
  • 4皿分
  • 3カップ
  • ごはん
  • 4人分
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。パプリカは縦細切りに、かぼちゃは薄切りにする。
  • 2.
  • フライパンにサラダ油大さじ1を熱し、オクラと(1)を焼き、塩、こしょうで調味する。
  • 3.
  • 玉ねぎはみじんに切る。鍋に残りのサラダ油を熱し、玉ねぎを加え、よく炒める。
  • 4.
  • 豚ひき肉を加えて炒め、色が変わったら水を加える。沸騰したらルウを加えて煮溶かす。
  • 5.
  • 皿にごはんを盛りつけ、(4)をかけて(2)のきのこと野菜をトッピングする。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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