yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百二十六話 自分は、2番 -【特別篇】ひらまつ創業者 平松博利-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百二十六話自分は、2番

日本のフランス料理文化の礎を築いた先駆者がいます。
平松博利(ひらまつ・ひろとし)。
今から37年前の1982年、パリから帰国した彼は、東京・西麻布に小さなレストランを開業します。
「ひらまつ亭」。
席数は、わずか24席。でも、平松の圧倒的なフランス料理の腕と妻の温かいホスピタリティに、噂が噂を呼び、行列が絶えない伝説の店になりました。
以来、彼の躍進は続き、国内外にレストランを展開。
2002年には、パリに出店した店が日本人オーナーシェフとして初めて「ミシュラン」一つ星を獲得したのです。
フランスに基盤を持つことで得た人脈。
持ち前の人間力で出会いは拡がり、多くのフランス人シェフとの交流が始まります。
ポール・ボキューズ、マーク・エーベルラン、ジャックとローラン・プルセルとの業務提携が実現。

特に、昨年亡くなったフランス料理の巨匠、ポール・ボキューズは平松を「息子」のように可愛がり、パーティに列席すれば、必ず彼を隣に座らせました。
ボキューズは、自分の師匠であるフランス料理の神様、フェルナン・ポワンのこんな言葉を平松に話しました。
「若者よ、故郷へ帰れ! その街の市場に行き、その街のひとに料理を作れ」
そしてもうひとつ、こんな教えも平松は継承します。
「腕の良い料理人というものは自分が学び取ったもの、すなわち自分の個人的な経験で得たあらゆるものを、自分のあとに続く世代に伝える義務がある」

後進に伝える、後進を育てる、後進の夢を実現する。
そのために彼は、シェフ・平松であり、経営者・平松にもなり、大切なひとを守るという正義を貫く覚悟を持ったのです。
フランス料理のみならず、フランス文化を日本に根付かせた賢人・平松博利が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

日本におけるフランス料理の先駆者。
平松博利は、1952年6月23日、横浜に生まれた。
三男坊のガキ大将。
何かに没頭すると手がつけられない。
メンコが気に入れば、一日中やっている。
ビー玉が面白ければ寝食を忘れてのめり込んだ。
宿題はやったことがない。
勉強は学校でするもの。
ひとたび校門を出れば、全部、自分の時間だと思った。
当然、教師に叱られる。
母が呼び出される。
それでも自説を曲げなかった。
小学生のとき、いつも怒ってばかりの母のことを作文に書いた。
それが杉並区で一等賞を獲ってしまう。
一年間、母の悪口を書いた作文が、学校の廊下に貼りだされた。
「まったく、おまえって子は…」
母は我が子の行く末を案じた。
でも、父は違った。
平松に言った。
「おまえは、おまえでいい」
父は観光業を営んでいたが、戦争で海軍に入隊。
出撃前のアクシデントで人間魚雷に乗りそびれ、代わりに大切な部下が命を落とした。
父は心に墓を建て、息子たちには後悔のない人生を願った。
絵を画きたいと子どもたちが言えば、家じゅうの壁にベニヤ板をはりつけ、キャンバスにした。
専門家が使う本格的な道具を買い与え、こう言った。
「落書きはするな、画くならちゃんと画け」
そのときの父の声を、平松は覚えている。
厳かで、哀しい響きだった。

国内外に数多くのレストラン、ホテルを展開する、ひらまつの創業者、平松博利は、幼い頃から料理人になろうと思ったわけではない。
本腰を入れてフランス料理を学び、一生の仕事にしようと思ったのは、27歳のときだ。
学生時代は理数系が得意。数学が好きだった。
一方で、古今東西の名著を読み漁る。
文学から思想書まで。
ソクラテス、ブッダ、孔子。
人間とはなにか、ひとの一生とはなにかに興味を持った。
四書五経に触れ、仁義という言葉の奥深さを知る。

将来はなんとなく、プラント・エンジニアになって、カナダでダムでも作りたいと思っていた。
高校は進学校に進む。
大学にいくつもりだったが、学生運動が激化。
願書を出すのを忘れた。
担任に「おまえ、大学行かないでどうするんだ?」と詰め寄られ、反発。
思わず「フランス料理のシェフになります!」と言ってしまう。
サルトルやカミュを原書で読みたくて、アテネ・フランセでフランス語は勉強していた。
フランス料理に骨をうずめようなどという気はさらさらなく、フランスに渡る。
当時は、アルベール・カミュやアンドレ・ジイドが訪れたカフェに行けるだけでうれしかった。
でも、本格的なフランス料理を体感したとき、思った。
「このバターにチーズ、クリームに野菜やハーブ、そして肉。調味料や素材が違うだけで、こんなにも料理の味が変わるんだ! それらを日本に持ち込めば、あるいは日本で作ることができれば、日本でも本格的なフランス料理は味わえる」
フランスで、彼の心に火がついた。
かつてメンコやビー玉に瞳を輝かせた少年がそこにいた。

賢人・平松博利にとって、一度だけ、シェフをやめようかと思う失意の出来事があった。
1982年に創業した「ひらまつ亭」には、将来を期待した4人の料理人がいた。
そのひとり、アベは、魚の担当。
平松は彼の腕を頼りにしていた。
アベの夢はふるさと名古屋に戻り、自分の店を持つことだった。
そのアベが若くして、病に倒れる。
リンパ腫のレベル4。
そんな彼が、名古屋の病院を抜け出し、平松に会いにきた。
でも、平松はパリに行っていて不在。
ほどなく彼は亡くなった。
体を引き摺るようにして、どんな思いで会いにきてくれたか。

思えば思うほど、後悔に打ちのめされた。
初めて、部下を亡くした父の気持ちがわかった。
「オレより先に逝っちゃダメだよ、アベ!」
厨房で、ふと呼びかけてしまう。
「おいアベ…」
言葉は虚しく宙を舞い、やがて自分に戻ってくる。
名古屋の彼の実家を訪ねると、彼の母親は息子がいつか店を開くためにと、海外の有名なお酒を集めていた。
そのボトルを見たとき、平松は泣き崩れた。

もう、こんな思いをしたくない。
部下を守る。
部下が1番。自分は2番。
家族を守る、家族が1番。だから自分は2番。
1番になろうとするから、戦争が起こる。
思えば、仁義の仁の漢字は、ひとに2番と書く。
大切な誰かがいてくれて、自分がいる。
それでいい。
それがいい。
そのためには、命を賭けて守りぬく。
ふと、父の声が蘇る。
「落書きはするな、画くならちゃんと画け」

【ON AIR LIST】
ジュ・トゥ・ヴ / エリック・サティ(作曲)、田ノ岡三郎(アコーディオン)
イマジン / ジョン・レノン(作曲)、田ノ岡三郎(アコーディオン)
マルゴーのワルツ / リシャール・ガリアーノ(作曲)、田ノ岡三郎(アコーディオン)
私は後悔しない / シャルル・デュモン(作曲)、田ノ岡三郎(アコーディオン)

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのポトフ

今回は、フランスで家庭料理として親しまれる料理、ポトフをご紹介します。

霜降りひらたけのポトフ
カロリー
153kcal (1人分)
調理時間
30分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • にんじん
  • 中1/2本
  • 玉ねぎ
  • 1/2個(100g)
  • ソーセージ
  • 4本
  • キャベツ
  • 2枚
  • チキンコンソメ
  • 1個
  • 2カップ
  • バター
  • 小さじ1
  • マスタード、塩、こしょう
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけはたべやすくほぐす。
  • 2.
  • にんじんは大きめの乱切りにする。玉ねぎは縦に4つに切る。キャベツは食べやすく切る。
  • 3.
  • 鍋にチキンコンソメと水、(1)、にんじん、玉ねぎを入れ、火が通るまで煮る。そこにキャベツとソーセージを加えて、火が通るまで煮る。
  • 4.
  • 汁の味をみて足りなければ、塩、こしょうを加える。
  • 5.
  • 盛る直前にバターを入れて香りを出し、汁ごと器に盛る。お好みでマスタードを添える。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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