yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第六十八話 無駄になる努力はない -【熊本篇】 元読売巨人軍監督 川上哲治-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第六十八話無駄になる努力はない

現役時代には、『打撃の神様』と言われ、監督としては、王貞治、長嶋茂雄を率いて、読売ジャイアンツにV9という球史に残る栄光を残した男、川上哲治。
彼は、熊本県球磨郡、現在の人吉市に生まれました。
熊本県立工業学校に入り、夏の全国中等学校大会に二度出場し、二度とも準優勝でした。
漫画『巨人の星』の原作者・梶原一騎は父方の祖父が熊本出身ということで、川上哲治には強い思い入れを抱き、物語の中で、相当なカリスマ性を持った存在として描いています。
現役時代は、赤バットを使用して有名になり、第一次巨人黄金時代の中心メンバーでした。
監督になってからの偉業はいまだ前人未到。
9年連続セ・リーグ優勝に導き、プロ野球界に大きな足跡を残しました。
川上が残したものは、記録ばかりではありません。
甲子園の土を最初に故郷に持ち帰る慣例を始めたのも、『弾丸ライナー』という打球を最初に打ったのも、投手でありながら、4番を打ついわば二刀流のはしりも、川上だったと言われています。
『重戦車』と言われるほど足が遅かったにもかかわらず、通算の盗塁は、220。バッテリーのくせを見抜く技術を高めました。
とにかく、努力のひと。それを裏付けるこんな言葉があります。
「疲れるまで練習するのは普通の人。倒れるまで練習しても並のプロ。疲れたとか、このままでは倒れるというレベルを超え、我を忘れて練習する、つまり三昧境、無我の境地に入った人が、本当のプロだ」。
野球の神様、川上哲治が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

元読売巨人軍監督・川上哲治は、1920年、熊本県球磨郡に生まれた。
もともとは、右利きだったと言われている。
5歳のとき、遊んでいて砂利道で転倒。右腕を痛めた。
治るのに時間がかかった。
気が付くと、左手が利き腕になっていたという。
最初は左投げ、右打ち。やがて、打つのも左になった。
幼い頃、父親の借金で家が破産。貧しかった。
まわりの援助で熊本県立工業学校に入学。
野球にのめりこんだ。
体格にめぐまれていたわけではない。
ピッチャーだったが、ことさら速い球を投げることができたわけでもない。
ただひたすらに、努力のひとだった。
彼はいつも思っていた。
「勝負に強いか弱いかは、執念の差である」。
そのあまりの管理体制に批判の声があがったこともあったが、とにかく勝ちにこだわった。
結果を出し、まわりは口をつぐむしかなかった。
14年間の監督在任中、彼は一貫して、こう語っていた。
「ときに部下や周囲の不興を買うことがあったとしても、大儀を表現するために成すべきことを成す。そういう強い信念を持った人間でなければ、リーダーは務まりません」。

野球の神様・川上哲治が認め、畏れたひとの中に、正力松太郎がいる。
政治家であり、実業家。読売新聞を朝日、毎日に次ぐ大新聞に育て上げ、テレビ放送を確立し、プロ野球を創設した、偉人だ。
その正力が巨人軍のオーナー。
川上は、正力とのやりとりの中で学び、信頼を勝ち取り、やがて自らの生き方を固めていった。
川上は監督就任1年目で優勝。しかし、2年目は4位に終わる。
マスコミや球界から、非難や中傷がとびかった。
それくらい、当時の巨人軍には、優勝してあたりまえくらいの、プレッシャーがあった。
あまりの批判に埒(らち)があかない。
正力が言った。
「勝負の世界は、勝つこともあれば負けることもある。巨人は川上に任せたのだから、一、二度負けた、Bクラスに落ちたからといって簡単に川上を代えたりしてはならん!監督を続けさせるんだ!」
あっという間に、非難は沈静化した。
川上は、翌年、再び巨人を優勝に導いた。

再び優勝して、意気揚々と監督を続けていた川上哲治だったが、あるとき、オーナーの正力に呼びつけられる。
富山県での広島戦からの帰りだった。
「失礼します」と部屋に入る。
「バカモノ!」怒鳴られた。
前半5点を取って勝っていた試合。
若いピッチャーが突然、乱れた。大量点を取られ、逆転。
川上は、そのピッチャーに腹を立て、あえて続投させた。その私怨(しえん)を正力は見抜いたのだ。
「お前は、試合に私情を持ち込んだ!私は、川上、おまえをそういう男に見立てていなかったからこそ、監督にしたんだ。野球には、勝負の心、というのがある。常にベストの起用をして、最善を尽くせば、結果はどうでもいい、失敗してもいい、優勝できなくてもいいんだ。だが、この精神を無視した試合をしたら、次は、クビだ!」
一瞬一瞬のベストがなければ、一試合一試合をベストにはできない。
自分の私情をまじえていては、そのベストが尽くせない。
正力は、いつも川上に問うていた。
「川上、命がけでやっとるか?そうか、ならいい。命がけでやって失敗したんなら、そりゃ仕方ない」
正力に教えられ、育てられ、川上はやがて、リーダーとしての哲学を自ら確立していく。
V9時代の巨人軍は、多摩川のグラウンドでも、宮崎のキャンプ地でも、練習前には選手、コーチ全員で小石やゴミ拾いをした。
もちろん川上も加わる。
横一列になって外野から内野へと歩いていく。
最初は、選手がウォーミングアップをしているとき、川上ひとりでやっていた。そのうち選手たちが「私たちもやります!」と参加した。
川上哲治には、統率力についての信念があった。
「職場でも学校でも指導者が率先してやっていく。いったん指示したことは、指示を出したものが何がなんでも守っていく。それができなければ、人はついてこない」
川上は、いつも黙々と行動で示してきた。
選手時代は、誰よりも練習することで、監督になってからは、誰よりも勝つことへの執念を見せることで、まわりを圧倒し、チームを動かした。
彼は言う。
「周囲からどう評価されるかという不安や心配から、自分を解き放ちなさい。大切なのは、修練の果ての無我の境地。努力に無駄は、ありません」

【ON AIR LIST】
プレイボール / YUKI
デーゲーム / UNICORN
MY LITTLE HOMETOWN / 桑田佳祐
サヨナラホームラン / スガ シカオ

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと里いもの煮物

今回は、川上哲治が生まれた熊本県球磨郡で多く生産されている、里いもを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと里いもの煮物
カロリー
262kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 里いも
  • 5個
  • 万能ねぎ
  • 適量
  • 片栗粉
  • 適量
  • 【合わせ出汁】
  • 出汁
  • 400㏄
  • しょう油
  • 50㏄
  • みりん
  • 50㏄
作り方
  • 1.
  • 里いもは皮をむき、下茹でする。
  • 2.
  • (1)に片栗粉をつけ、フライパンに多めの油を入れさっと揚げ焼きする。
  • 3.
  • 鍋に【合わせ出汁】とほぐした霜降りひらたけを入れ中火にかけ、(2)を加えて10分ほど煮る。
  • 4.
  • 小口切りにした万能ねぎを散らす。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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