yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百三十二話 想像力で生き抜く -【神奈川篇】小説家 吉川英治-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百三十二話想像力で生き抜く

今年、没後60年を迎える、戦前・戦後と多くの人々に支持されたベストセラー作家がいます。
吉川英治(よしかわ・えいじ)。
代表作は、『宮本武蔵』や『三国志』、そして『新・平家物語』など、歴史をテーマにした大衆小説。
わかりやすい文章で描く魅力的なキャラクターたちと、読者を飽きさせないストーリー展開は、絶大な人気を呼び、連載された新聞が待ちきれず、新聞販売店に押し掛ける人が多くいたほどでした。
1949年、吉川57歳のときには、作家の長者番付で、最高額の1位になるほどの人気ぶりでしたが、そこに至るまでの道のりは、苦難の連続でした。
父の没落により、学業半ばの11歳で奉公に出され、職を転々としながら家族を支えた少年時代。
関東大震災や戦争に翻弄されながら、食べるために必死だった青年時代。
やがて人気作家になっても、家庭をうまく保てず、孤独な日々をおくります。
そして、最も吉川を苦しめたのは、第二次大戦直後の絶望感でした。
戦地に向かう若者たち、特に、特攻隊の兵士たちが、自分が書いた『宮本武蔵』を大切に持参していた事実に、深く胸を痛めました。
剣禅一如という教えに感化された特攻兵。
「私はただ、勇気をもって生きてほしい、どんな困難にも負けない強い心を持ってほしい、そう願って小説を書いてきたのに、結局、戦地に散る若き命を救うことができなかった…。いや、それどころか、彼等の気持ちを高めるようなことになってしまった」
終戦からおよそ5年あまり、彼は一行も小説を書くことができなくなります。
親友の菊池寛(きくち・かん)は、吉川に言いました。
「いま、みんなが辛いんだ。こんなときこそ、キミの小説が必要なんだよ! 吉川君!」
そうして書いた『新・平家物語』は、争うことの無常を説き、多くの国民を癒し、勇気づけたのです。
大衆小説で一世を風靡したレジェンド・吉川英治が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

小説『宮本武蔵』で知られる国民文学作家・吉川英治は、1892年8月11日、現在の神奈川県横浜市中区に生まれた。
父は、元小田原藩士の家系。
気位が高く、封建的で癇癪持ちだった。
箱根で牧畜業に失敗すると、横浜で貿易の仲買人の仕事を始める。
順調に商いは進み、急に羽振りがよくなった。
毎晩飲み歩き、酒におぼれ、家で暴れた。
外に女性を囲うようになり、母はいつも泣いていた。
子ども心に英治は思う。
「母さんは、どうしてこの家から出ないんだろう」
父が暴れると、母は幼い妹を連れて、裸足で逃げる。
寒空の中、母と妹を探し、連れ帰るのが英治の役目だった。
「父さんは?」
「もう寝たから大丈夫だよ」
暗い路地で寒さに震えながら立っている母と妹の姿を見ると、胸が締め付けられた。
でも、英治がもっとつらかったのは、母が口癖のようにこんな言葉を吐くことだった。
「あんたたち子どもがいなきゃね、母さん、とっくに逃げてるのに」
母はただ、子どもを守りたい、という思いで言ったのだけれど、英治は、そうとらなかった。
「ボクなんかこの世にいなければよかった。ボクがいなければ、母さんは自由になれたんだ」

小説家・吉川英治が尋常小学校に通っているとき、最も好きな時間は、貸本屋の店先で講談の本を読んでいるときだった。
家で本を読んでいると、「小説なんてもんは、何の役にも立たん!」と、ビリビリに破かれてしまう。
貸本屋で立ち読みしていれば、父に邪魔されず、好きなだけ空想の世界に遊ぶことができた。
家に帰れば、父と母の喧嘩。
逃げ惑う日々が続く。
貸本屋の白いひげの店主は、そんな英治の事情を知ってか知らずか、立ち読みを見て見ぬふり。
あるとき、小さな椅子を用意してくれる。
「そんなに立ってちゃ、辛かろう。ま、そこに座んなさい」
あるときは、ふかした芋をくれた。
「坊は、ほんとに本が好きなんだな」
半年もたたないうちに貸本屋の本は全部読み終えてしまう。
今度は露店の古本屋をめぐった。
当時、横浜の港には絶えず縁日があり、本を並べる出店があった。
片っ端から読みあさる。
特に夢中になったのは、『三国志』。
物語の中にいるときは、自分は英雄であり、すぐれた剣の使い手だった。
威張り散らす父を、何度刀で成敗したか知れない。
でも、家に帰れば結局、母を守れない自分がいた。
尋常小学校から高等小学校に優秀な成績で進んだ11歳のとき、世界が変わる。
いきなり父に言われた。
「英治、おまえはもう学校に行く必要はない。働きに出ろ!」

吉川英治が11歳のとき、父が無一文になった。
日露戦争のあおりを受けて商売に暗雲がたれこめ、挙句の果てに、共同経営者に訴訟を起こされ、やがて文書偽造の罪で刑務所に入ってしまう。
家も家財道具も失う。
仕方なく、英治は小学校を中退し、ハンコ屋さんに奉公に出る。
朝暗いうちから掃除に炊事、おかみさんの肩もみまでして、立ったまま冷や飯をかきこむ。
夜は冷たい寝具に横たわり、泣いた。
唯一の拠り所は、読書と、母から来る手紙だった。
母を守りたい、母に少しでも楽な生活をさせてあげたい。
その一心で、厳しい現実に耐えた。
苦しい日常で、想像力だけは誰にも邪魔されないことを知る。
辛いことがあると、空想の世界に逃げた。
自分は、戦乱の世を生きぬく戦国武将だ。
誰にも負けない。どんなに不利な戦でも、前に進む。
空高く舞い上がる狼煙は、少年の心を勇気づけた。
ハンコ店の店先では、いつも決まった曜日に俳句の会が催された。
掃除をしながら、大人たちの作る俳句に耳を傾ける。
あるとき、句会の男が「そこの坊主、『雨』ってお題で何か書いてみろ!」と、英治に白い紙と筆を渡した。
英治は、俳句ではなく、雨の中を行き交う人の群れをリアルに映した文章をしたためた。
大人たちは、驚いた。
そこには、読んだことのない物語が始まるような、ワクワクする描写が綴られていた。
「坊主、おまえは小説家になるといい」
店先の男は、そう言った。英治は思った。
「そうか…ボクがつらいとき、お話に救われたように、誰かがつらいときに元気づけられる物語を、ボクが書けばいいんだ。その小説が売れれば、母さんに好きなものを食べてもらえるようになるかもしれない。そうすればもう、ボクを生まなきゃよかったなんて思わなくなるかもしれない」。
作家・吉川英治の原点には、いつも、貧しさと母への愛があった。
そして、想像力の魔法を誰よりも信じていた。

【ON AIR LIST】
One more time,One more chance / 山崎まさよし
ABOUT MY IMAGINATION / Jackson Browne
好きなものに変えるだけ / 槇原敬之

★今回の撮影は、青梅市吉川英治記念館様にご協力いただきました。ありがとうございました。
営業時間など、詳しくは公式HPにてご確認ください。

青梅市吉川英治記念館
https://ome-yoshikawaeiji.net/

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのみぞれ鍋

今回は、寒い日におすすめの、こちらの料理をご紹介します。

霜降りひらたけのみぞれ鍋
カロリー
465kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 大根
  • 300g
  • 白菜
  • 200g
  • 長ねぎ
  • 1本
  • 水菜
  • 1/2袋
  • 豆腐
  • 1丁(300g)
  • 豚バラ肉(ブロック)
  • 150g
  • 800ml
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、白菜と豆腐は食べやすい大きさに切る。長ねぎは長さ5cmに水菜は長さ3cmに切り、豚肉は厚さ1cmに切る。大根はおろしておく。
  • 2.
  • フライパンに豚肉と長ねぎを入れ、こんがりと焼き色がつくまで焼く。
  • 3.
  • 鍋に白菜、豆腐、霜降りひらたけ、半量の水菜、水、塩を入れてひと煮立ちさせる。
  • 4.
  • (2)と水気を軽く切った大根おろしを加え、ひと煮立ちしたら残りの水菜を加える。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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