yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百十七話 弱さを愛し、優しさを愛する -【香川篇】映画監督 木下惠介-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百十七話弱さを愛し、優しさを愛する

瀬戸内海の12の島と2つの港を舞台に、3年に一度開催されるアートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」。
国内外からの多くの来訪者で賑わった2019年秋の会期が、11月4日で終わろうとしています。
瀬戸内海はかつて、近畿中央文化の源であり、豊かな資源に守られ、北前船の母港として日本列島全体を活性化しました。
そんな海の復権をも担う、芸術祭。
その中心にある島のひとつ、香川県の小豆島で欠かせない観光名所が「二十四の瞳映画村」です。
壷井栄の不朽の名作が映画化されたのは、1954年、昭和29年でした。
昭和3年から終戦の翌年までの激動の時代を描き、大石先生と教え子たちの師弟愛、美しい小豆島の自然と、貧しさや古い家族制度と戦争によってもたらされる悲劇を、対照的に映し出した心温まる感動作です。
主演は、高峰秀子。
そして、この映画を監督したのが、木下惠介(きのした・けいすけ)。
監督デビューは黒澤明と同じ年ですが、世間的な認知度や評価は対照的です。
叙情的で女性的な語り口。
人間の強さより弱さに焦点をあてた作風は、ともすれば地味で派手さがなく、ひとびとの関心を集めるのに不向きでした。
のちにテレビに転身し、山田太一など、優れたドラマ作家を輩出する礎を作りました。
穏やかな作風とは違い、人物はいたって頑固。
好きと嫌いの中間がありませんでした。
スタッフに「先生」と呼ぶことを禁じ、それを守らず「木下先生」と呼んだが最後、烈火のごとく怒ったと言います。

彼が大切にしたのは、人間の弱さでした。
「強いから優しくなれるというけどねえ、それは違うよ。弱いから、自分の弱さを知っているから、優しくなれるんだよ」
松竹にヒューマニズムを根付かせた天才映画監督、木下惠介が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

『二十四の瞳』の映画監督、木下惠介は、1912年12月5日、静岡県浜松市に生まれた。
惠介の祖父、治兵衛は、裕福な家系に生まれたが、「仏の治兵衛」と呼ばれるほど、お人よし。
ひとに金を用立てているうちに財産を失った。
惠介の父は、そのせいで小学校もろくにいけず、肉体労働。
歯を食いしばって、お金を稼ぐ。
やがて「木下商店」という漬物屋を開業。細々と商売を始めた。
惠介の姉と兄は、生まれてすぐに亡くなった。
貧乏と忙しさのせいだった。
「漬物がいいのはなあ、金持ちも貧乏人も食べるんだ。しかもなあ、漬物ひとつあれば、あとは米さえあれば、なんとかなるもんだ」
そう言いながら、父は、がむしゃらに働いた。
惠介が幼い頃、母は言った。
「お父さんが、食べているときに泣いたような顔になるだろう。あれはねえ、お父さん、若い時に苦労しすぎて、食事するときは、つい泣き顔になってしまうんだよ」
底抜けにお人好しな祖父と、どんな状況でもへこたれずに前に進む父。
二人の性質を、木下惠介は引き継いだ。

映画監督、木下惠介の父は、なんとか商売を軌道に乗せた。
使用人を雇うまでになっても、苦労時代の慣習が消えない。
使用人がまだ寝ている朝5時に起きる。
大きな竈(かまど)に火をくべ、煮物や佃煮を作った。
幼い惠介は、父に言った。
「そんなことは、使用人にやらせればいいんじゃない?」
父は静かに、でも厳しく諭した。
「いいか、惠介、ひとを使うには、自分がいちばん先頭に立たなくちゃいけないんだ。使用人は雇い主を見ている。いい使用人になって欲しかったら、自分がいい雇い主になるしかないんだよ」
ある日、炊事の手伝いをしているおばさんが、お勝手口のゴミ箱の影に何かを隠すのを、惠介は見た。
確かめてみると、醤油瓶だった。
きっと仕事が終わったあと、盗んで持ち帰るのだろうと見当をつけた惠介は、その醤油瓶を元の台所に戻しておいた。
夕方。
お勝手口にいっておばさんを待つ。
出てきたおばさんは、必死にゴミ箱のあたりを探し始めた。
その姿が滑稽に見える。
それを父に報告すると、父は怒った。
「そんな罪なことをするもんじゃない!」
そのときはまだ、父がなにゆえそこまで怒るのか、理解できなかった。
のちに惠介は、気づく。
ひとにはひとの事情がある。
それをわかってあげることこそ、人間関係の始まりだということに。

木下惠介は、両親の深い愛に包まれて育った。
幼子を二人亡くした経験を持つ両親にとって、惠介は宝物だった。
ひとには、たったいっときでも、誰かに無償の愛を注がれた経験が必要だ。
惠介は、深く愛されていることを肌身で感じた。
祖父がお人好しのせいで苦労したにも関わらず、父は、誰にでも優しかった。

「今月もつけを払えません」と言いにきた主婦には、「かまいませんよ、お金があるときで」と言いながら、佃煮の土産まで持たせた。

従業員には、漬物や佃煮を包むときは、「目方を多めにしなさい」と注意した。
「包んだ経木(きょうぎ)に水分が奪われてしまうんだよ」
味にもこだわり、戦時中、砂糖が配給制になって思うように使えなくなっても、採算度外視で砂糖を手に入れ、品質を落とすことを嫌った。

そんな父の背中を見て育った惠介は、二つのことを学ぶ。
優しさが全て。
それが弱さに裏打ちされていようが構わない。
優しくないものは、全て悪である。
もうひとつは、ものを作るうえでの覚悟。
自分がつくるものの品質を落としてはいけない。
どんな理由があろうとも。

映画監督、木下惠介は、弱さを撮った。
優しさにこだわった。
「映画は、漬物のようだ。お金持ちも貧乏人も、等しく心を潤す」
彼は生涯忘れなかった。
あの食卓で見た、父の泣き顔を。

【ON AIR LIST】
WHO NEEDS SHELTER / Jason Mraz
WORK TO DO / The Isley Brothers
TENDERNESS / Paul Simon
SHOWER THE PEOPLE / James Taylor

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのスープパスタ

今回は、小豆島の特産でもある、オリーブを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのスープパスタ
カロリー
204kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 玉ねぎ
  • 1/2個
  • ブロックベーコン
  • 40g
  • ショートパスタ
  • 40g
  • グリーンオリーブ
  • 6粒
  • 2カップ
  • 小さじ1/2
  • こしょう
  • 適宜
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、玉ねぎは1.5cm角、ベーコンは1cm角に切り、鍋に入れフタをし弱火で蒸し炒めにする。
  • 2.
  • しんなりしたら水を入れひと煮立ちさせ、ショートパスタ、オリーブを入れ、パスタの規定時間茹でて、塩・こしょうで味を調える。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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