yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第十六話 軽井沢クリスマス・ストーリー -軽井沢を舞台にした二つの物語-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第十六話軽井沢クリスマス・ストーリー

早くから宣教師たちが移り住んだ軽井沢は、いわば、日本におけるキリスト教信仰の聖地です。
1921年に開かれた『芸術自由教育講習会』を原点にできたのが、軽井沢高原教会。
その理念は、「遊ぶことも善なり、遊びもまた学びなり」。
文化を育てるのは、遊ぶ心なのだということを教えてくれました。
教会前のツリーは無数のキャンドルで彩られています。
教会の中に響いているのは、ハンドベルの音。
まるで天使が降りてくるのを祝福するような音色が、透き通った空気に溶けていきます。
軽井沢のクリスマスには、奇跡が起こりそうです。
今週は、そんな軽井沢を舞台にした二つのストーリーをご用意しました。

万平ホテルに到着したのは、夜だった。
冷たいものが頬をかすめる。雪だった。
コートを着たまま、ロビーを抜けた。
散々な一日を少しでも忘れたくて、バーに入った。
木のドアを開ける。ふわっとオレンジ色の優しい光に包まれた。
カウンターに座る。店内は混み合っていた。無理もない。
今夜はクリスマスイブだ。

「ジントニックを」
バーテンダーは、ニッコリ微笑んで、うなづいた。
まとまるはずの商談がうまくいかなかった。
わざわざ東京からやってきたのに、あてがはずれた。
この企画を通すことだけが今年最大にして最後のミッションだった。
「そんな飲み方をするな、酒に失礼だ」
隣の紳士が話しかけてきた。ウィスキーをストレートで飲んでいる。
白髪を綺麗に後ろになでつけていた。
「一度、深呼吸してみなよ。大きく吐けば、たくさん入ってくるよ、新しい酸素が」
不思議と嫌な感じはしなかった。横柄のようで気遣いを感じた。
むしろ彼のたたずまいにホッとしている自分がいた。
「ちょっとまあ、その、仕事でいろいろありまして」
素直に言った。
「いろいろあるから仕事なんだ。いいか、人に好かれようと思って仕事するなよ、むしろ半分の人間に積極的に嫌われるように努力しないと、いい仕事なんて、できない」
毅然としていた。なんだか、気持ちがよかった。
トイレから戻ると彼の姿は消えていた。
「ここにいた紳士、常連さんですか?」とバーテンダーに尋ねる。
「え?ここに?いえ、ずっと空席ですよ」
紳士の風貌を伝えると、バーテンダーは、ポツリと言った。
「それってまるで、白洲次郎さんだな」
紳士の声が遠く聴こえたような気がした。彼はこう言った。
「BAR is open!メリークリスマス」

JR軽井沢駅の構内には、サテライトスタジオがある。
地元の人に愛される放送局、FM軽井沢。
その名誉会長を務めるのは、元万平ホテルの会長、佐藤泰春だ。
佐藤の動物好きは有名だった。
特に犬。浅間山を近くに臨む北軽井沢の山中に、約3000坪の邸宅を持つのは、全て犬のためだった。ブルドック、ラブラドール、大中小合せておよそ40頭を飼っている。
もともと犬好きだったが、これほど集まったのにはわけがある。
夏の間別荘で飼われていた犬が、成長し、マンションで飼えなくなる。佐藤を頼り預けるひと、家の前に捨てていくひともいた。
かつては万平ホテルにすみついた野良猫を自費で飼っていたこともある。情に熱い、優しい佐藤の人柄が垣間見える。

それは、軽井沢に何度目かの雪が降る寒い夜だった。
佐藤の家のドアをノックするものがいた。
「はい?」
家人と目を合わす。こんな時間に誰だろうか。
ドアを開けると、外国人の年老いた男性が申し訳なさそうに立っていた。
「牧師さんだろうか」佐藤は思った。
「どうか、されましたか?」
尋ねると、
「大型犬を、散歩させていただけませんか?」
日本語は流暢だった。
「今から、ですか?」
「ええ、今から」
「それはかまいませんが・・・」
悪い男には見えなかった。
佐藤は、何頭かを老人に差し出した。
数時間後、老人は犬を返しにきた。
「ありがとうございました。助かりました。ここの犬は、あれですね、大事にしてもらっていますね。よくわかります。ええ、幸せなワンちゃんたちです」
笑顔で言った。
「困ったものを助ける。弱いものを大切にする。なかなかできるようでできないものです。あなたは、素晴らしいことをしておいでだ。私は世界中を飛び歩いていて、気がついたことがあります。ひとは、全部、自分のしたことを受け取るだけです。プレゼントされるものは、かつて自分が誰かにあげたものです」

翌朝、佐藤はある異変に気がついた。
老人に散歩させた犬たちの首に、鈴がついていた。
それはまるでクリスマスにトナカイがつけるような。
「トナカイが怪我でもして、急きょ、ウチのワンちゃんを借りたんじゃない?」
家人が笑った。
あんがい、そうかもしれない。佐藤も、思った。
大きな犬たちは、うるんだ瞳で佐藤を見た。
まるで昨夜飛んだ夜空を思い出すように。

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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