yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百八十六話 自分を見つめることをやめない -【埼玉篇】小説家 中島敦-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百八十六話自分を見つめることをやめない

今年、生誕110年を迎える、埼玉県にゆかりのある作家がいます。
中島敦。
彼の代表作のひとつは、国語の教科書にも採用された『山月記』。
中国の古典を題材にしたこの小説は、ある男が山奥で虎に変わってしまった友人に出会う変身譚です。
日々、心を虎に侵食されつつある友人が、最後に残った人間の心で語った自らの心情はこうです。
「己(おれ)は、詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて誌友と交わって切磋琢磨に努めたりすることをしなかった。かといって、又、己は俗物の間に伍することも潔しとしなかった。共に、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所為(せい)である」
臆病な自尊心と、尊大な羞恥心。
それこそ、33歳の若さで亡くなった小説家、中島敦を常に苦しめた、内なる悪魔でした。
幼くして神童の名をほしいままにした天才は、いくら名声をつかんでも足りない渇きを抱えていました。
産みの母を知らず、二人の継母に育てられた幼少期。埼玉県久喜市で過ごした2歳から6歳までが、彼の人生を決定づけたと言っても過言ではないかもしれません。
大人を軽蔑しながらも、絶対的な愛に飢える少年。
もっと自分を大切にしてくれ!という叫びと、自分なんかどうなってもいい、ほっといてくれ!という投げやりな気持ちが混在して、彼を追い立てます。
「おまえがここにいてもいいかどうか、おまえが証明しろ!」
そうして中島が出した答えは、小説を書くことでした。
自分と向き合い、書いて書いて書きまくる。
それは、心の血を流す荒行です。
でも、彼は逃げませんでした。
孤高の小説家・中島敦が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

『山月記』を書いた小説家・中島敦は、1909年5月5日、東京四谷に生まれた。
同じ年に、太宰治が生まれている。
中島の父は、文部省教員検定試験に受かった漢学者。
千葉県銚子中学校で漢文の教師をしていた。
母もまた、元小学校の教員だった。
母は教員というより、芸術家気質。
敦が生まれても、詩作に励み、同人誌に参加。
家事をいっさいしない。
気が強く、我が道をいく。
呆れた姑が耐え切れず注意しても、言うことをきかない。
結局、敦が2歳のときに、離婚することになった。
母の記憶がほとんどないまま、埼玉県久喜市の祖父母の家にひきとられる。
祖父はすぐに亡くなり、祖母と伯母に育てられた。
利発で感受性の鋭い敦は、幼な心に思った。
「自分は、この世に生まれてきてよかったんだろうか」
どこかよそよそしい食卓の雰囲気は、全部自分のせいだと感じた。
父が再婚することになり、再び呼び戻される。
父の赴任地、奈良に行く。
方言に圧倒され、ついていけない。
彼はますます内省的になり、心の中でやがて虎になる自我を太らせていった。

33歳で夭折した小説家・中島敦は、小学生時代、まわりが驚くほど頭脳明晰だった。
さほど努力をしているように見えないが、試験では常にトップ。先生も一目置いた。
小柄で無口。誰にも心を許さなかった。
家では、継母に折檻された。
継母は、いきなりヒステリーになり、敦を庭の木にしばりつける。
夜、帰宅した父が縄をほどいた。
敦は急に怒り出す継母を冷静に見ていた。
「人間は恐いな。急に違う生き物に変わってしまう」
敦は体が弱く、体操の時間はいつも教室にいた。
西日が射す教室でひとり本を読んでいるときが、いちばん心安らかだった。
先生からの信頼は絶大で、ずっと級長をつとめた。
やがて、浜松に転校。
そこである教師が話したこんな話に恐怖を抱いた。
「いいか、みんな、地球はどんどん冷却し、やがて人類はなあ、絶滅するんだ。我々の存在なんてもんは、そんなもんは、全く意味がないんだ」
意味がないと言われて恐怖を抱く自分がいる。
そこで彼は気づいた。
「そうか、僕は生きたいんだ。生きている意味を見出したいんだ」

作家・中島敦は、浜松の次に海を越え、朝鮮の学校に転校した。12歳になっていた。
そこでも秀才ぶりを発揮。日本にいたときより、むしろ伸び伸びできた。
校庭を駆け回る。クラスのみんなと騒いだり、ふざけたりした。
そんな中、継母が急死する。
父は再び、結婚。
二番目の継母は、どこか下品で敦は距離を置いた。
でもそんな継母にだらしなくベタベタと接する父を見て、心底軽蔑した。
家族と話すのをやめる。父は敦の優等生ぶりが自慢だったので、わざと成績を落として父を落胆させた。
その頃から、創作に目覚める。
想像の世界であれば、自分と真正面から向き合うことができた。
いつも、誰かに褒めてほしい自分がいる。
いつも、おまえはそこにいていいんだよと言ってもらいたい自分がいる。
現実には得られない思いを、小説にした。
東京の一高に入り、初めて親元を離れ、ホッとした。
「やっと、24時間、自分でいられる」。
創作に打ち込みながら、彼は自分と向き合うことから逃げなかった。

「僕が僕であるために、自分から逃げない。自尊心と羞恥心のかたまりである自分を、ちゃんと見つめる」
ひとは、自分を見つめることで、ほんとうの仕事を成し遂げる。

【ON AIR LIST】
WAR OF MY LIFE / John Mayer
DIDN'T I (BLOW YOUR MIND THIS TIME) / The Delfonics
GET UP! / The Delirians
RESPECT YOURSELF / The Staple Singers

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと里芋のポテトサラダ風

今回は、埼玉で多く収穫されている野菜、里芋を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと里芋のポテトサラダ風
カロリー
293kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • さといも
  • 中6個(350g)
  • いんげん
  • 2本
  • 玉ねぎ
  • 1/4個
  • 小さじ1/2
  • こしょう
  • 少々
  • 【A】マヨネーズ
  • 大さじ3
  • 【A】しょう油
  • 小さじ1
  • ごま油
  • 大さじ1
  • かつお節
  • 小1袋
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。玉ねぎは薄切りにし、いんげんは小口切りにする。【A】は混ぜ合わせておく。
  • 2.
  • フライパンにごま油を熱し、霜降りひらたけを焼き付けるように炒め、塩(分量の半量)を加え、最後にいんげんを加えて炒め、冷ましておく。
  • 3.
  • さといもは土を落とす程度に洗い、耐熱容器に放射線状に並べラップをかけて電子レンジ(600W)で3分加熱する。一度様子を見て再び電子レンジで3分ずつ加熱し、火の通ったものから取り出す。皮をとり荒くつぶし、残りの塩、こしょうを軽く混ぜておく。
  • 4.
  • さといもと玉ねぎ、炒めた霜降りひらたけといんげんに【A】とかつお節を加え全体をよく混ぜる。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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