yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百十五話 哀しみに向き合う -【青森篇】画家 シャガール-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百十五話哀しみに向き合う

青森県にある日本最大級の縄文時代の集落跡地「三内丸山遺跡」。
その広大な草原に隣接するのが、白い瀟洒(しょうしゃ)な建物、青森県立美術館です。
青森の豊かな自然が育んだ、個性的な作家たちの作品がゆっくり味わえます。
その美術館の、ある有名なホール。
それを観るためだけに全国、いや世界中からひとがやってくる、知る人ぞ知る稀有な展示室です。
その名は、「アレコホール」。
20世紀を代表する画家、ロシア出身のマルク・シャガールが、バレエの演目「アレコ」のために画いた背景画が飾られています。
四層吹き抜けの大空間の白い壁一面に架けられた壮大な絵は、日本で展示されるシャガールの絵で最も大きなものです。
通常は、アレコという演目の四幕のうち、三つの絵しか飾られていないのですが、現在、フィラデルフィア美術館の厚意により、四幕の絵がおよそ10年ぶりにそろいました。
これら4枚の絵を画いたときのシャガールは、決して幸せで順風満帆な状態ではありませんでした。
ユダヤ人である彼は、ナチス・ドイツの迫害から逃れるために、住み慣れたフランスを離れ、アメリカに亡命したのです。
およそ7年間の、異国での暮らし。
この時期、シャガールは、二つの大きなものを失います。
ひとつは、ふるさとロシアの街、ヴィテブスクがナチによって破壊されたこと。
そしてもうひとつは最愛の妻、ベラの死。
深い喪失感と失意の中で、彼は、絵を画くことで自らを保ちます。
ひとは、耐えがたい哀しみをいだいたとき、思うようにならない人生に翻弄されたとき、いったい何で自分を支えるのでしょうか?
マルク・シャガールが数奇な人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

画家、マルク・シャガールは、1887年7月7日、帝政ロシア領ヴィテブスクにユダヤ人の子として生まれた。
街のほぼ半分の住人がユダヤ人だった。
ヴィテブスクの街並みは、美しく、斬新。
ユダヤ教の会堂、シナゴーグや教会が立ち並ぶ路地は、絵画のように洗練されていたという。
ひとびとは、「ロシアのトレド」と呼び、賞賛した。
父は、魚売り。母は、自宅で食料を売っていた。
父の稼ぎは重労働のわりに、決してよくなかった。
でも、毎朝、夜が明けきらないうちに、重い重い樽を抱えて出かける父を、シャガールは尊敬した。
「父さんは、すごい。ボクたち9人兄弟を育てるために、一生懸命だ。ひとことの愚痴も言わずに、今日も寒い中、出かけていく」
のちに画家になったシャガールの絵に、魚が多く登場するのは、このときの父親への敬愛のしるしだと言われている。

当時、ユダヤ人の子どもは、ユダヤ人の学校にいくしかなかった。
でも、母親は優秀な息子を、どうしてもロシアの学校に進学させたいと思い、学校に乗り込んだ。
「ウチの子はねえ、優秀なんだよ。学校っていうのは、優秀な子をさらに伸ばしてくれるところなんだろ?お願いします、ウチの子を入れてください!」
誰もが規制に反発できない風潮を母親は気にしなかった。
結果、校長にお金を払うことで入学を許された。
そんな母親の教育に対する熱意を、シャガールは裏切ることになる。

画家、シャガールは、13歳でロシアの学校に入学したが、あるとき、同級生が画いた絵を見て興味を抱く。
「ねえ、君、これはどうやったら、画けるようになるんだい?」
尋ねると同級生は答えた。
「そんなのは、簡単さ。図書館に行って、好きな絵を選び、ひたすらそれを真似してみればいいんだ」
シャガールは、さっそく言われたとおりにして、模写に熱中する。
ひとつのことに心を傾けると、わき目もふらず集中できる才覚を持っていた。
やがて、絵を画くことに目覚めた彼は、ある日、母親に言う。
「母さん、ボクは画家になりたいんだ」
母親は、ガッカリした。そんなものになるためにロシアの学校に入れたわけじゃない。
医者、学者、弁護士、政治家。
お金を稼げるひとになってほしい。それなのに…。
でも結局、母親は折れた。
我が息子の意志を尊重したというより、彼の頑固さを知っていたから。

シャガールの真っすぐな気持ちは、画家としての立ち位置にも表れる。
当時、ユダヤ人芸術家は、二つの道の選択を迫られた。
ひとつは、ユダヤ人であることを隠すという道。
もうひとつは、ユダヤ人というアイデンティティを大切にして、むしろユダヤ的な発想や表現を前面に推し進めるという道。
後者の道を、彼は選んだ。
「人生に隠し事をするなんてありえない。ボクは一生、ユダヤ人であることを誇りに思う。父さんや母さんを誇りに思うように」

故郷ヴィテブスクから、サンクトペテルブルクの一流美術学校に入学。
お金はなかった。自分には勤勉と努力しか、武器はない。
ひとが1日に10枚、デッサンを画くなら、100枚画いた。
ひとが課題を1週間後に提出するなら、翌日出した。
やがて、誰もが賞賛する絵を画けるようになっていく。
でも、シャガールは、そこで歩みを止めない。
「ボクは、もっともっと成長したい」
ロシアを出て、パリに出る決心を固めた。
1910年のパリは、すごかった。刺激にあふれている。
いろいろな作風を試す。そうして最愛のひと、ベラに出会った。
ベラは誰よりもシャガールを理解し、彼の作品を愛した。
ベラに愛されることで、彼は初めて攻撃的な画風を捨てた。
テーマは、愛。そして、描く題材はなぜか、ふるさと、父や母との思い出、子どもの頃見た風景になった。
ナチスにフランスを追われて、アメリカに渡ったとき、彼はむしろ、ふるさとを身近に感じた。
ひとは、いつしか自分のふるさとに帰る。
ひとは、幼いころの記憶に戻る。
迫害され、故郷をめちゃくちゃにされ、愛する妻を失っても、彼はそれに向き合うことで乗り越えた。

青森県立美術館に展示されている、壁画とも思える4枚の絵は、彼の決意の表れ。
彼が愛したもので、充ちている。
哀しいことに出会ったとき、どうにもならないことに遭遇したとき、ひとは自らに返る。
自分の立脚点に立ち戻ることで、きっと、明日への希望が見えてくる。

【ON AIR LIST】
Stay Alive / Jose Gonzalez
Make You Feel My Love / ADELE
ボクサー / Simon & Garfunkel
The Golden Age / Beck

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと旬野菜のグリル ~マスタードソース~

ヴィテブスクという、現在のベラルーシの都市で生まれた、画家 マルク・シャガール。今回は、そのベラルーシでよく食べられているという、じゃがいもを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと旬野菜のグリル ~マスタードソース~
カロリー
159kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • じゃがいも
  • 1/2個
  • スナップエンドウ
  • 6個
  • パプリカ
  • 1/4個
  • バター
  • 大さじ1
  • 【A】粒マスタード
  • 大さじ1
  • 【A】酢
  • 大さじ1と1/2
  • 【A】オリーブオイル
  • 大さじ1
  • 【A】塩
  • 小さじ1/2
  • 【A】砂糖
  • 小さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。
  • 2.
  • じゃがいもはよく洗って皮ごとくし形に切り、スナップエンドウは筋を取る。パプリカは一口大に切る。
  • 3.
  • フライパンにバターを熱し、(1)、(2)を色よく焼く。
  • 4.
  • 皿に盛り付け、合わせた【A】を回しかける。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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