yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百一話 覚悟を持つということ -【盛岡篇】言語学者 金田一京助-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百一話覚悟を持つということ

岩手県盛岡市の中心部を流れる、中津川。
その川沿いにユニークな施設があります。
『盛岡てがみ館』。
盛岡にゆかりのある作家や著名人の直筆の手紙や原稿、日記などが展示されています。
字は、ひとを表す。宮沢賢治や、後藤新平の字を見ていると、彼らのひととなりが見えてくるような気がします。
展示された手紙の中で、ひときわ異彩を放つ書簡があります。
3メートルにも及ぶ、長い長い手紙。
それを書いたのは、盛岡に生まれた言語学者、金田一京助です。
彼は盛岡中学校時代の友達に、読みやすい、綺麗な字で思いを綴りました。
内容はほぼ全て、石川啄木のことです。
金田一は、石川啄木と親友であり、啄木の才能にいち早く気が付いた賢人でした。
手紙には、自分の下宿に転がり込んできた啄木の様子や彼の輝かしい未来が、微笑ましい文体で書かれています。
金田一自身、かつて詩を詠んでいましたが、啄木の前には自らの凡才を悟らずにはいられませんでした。
「おまえは、きっと有名になる。おまえはきっと世間をあっと言わせる文人になる。だから、諦めるな!」
ともすればすぐに落ち込んでしまう啄木を鼓舞し、応援しました。
ときには、自分の大切な蔵書を売って、啄木にお金を工面したこともあります。
「ひとがやらないことは金にならない。でもそういうものをやる人間がいなくちゃ、この世は前に進まないよ」
金田一自身もまた、ひとがやらないことを進んで自分に課しました。
その最大の功績が、アイヌ語研究。
裕福な家庭に生まれながら、貧しい生活を選び、アイヌ語を残すために一生を捧げたのです。
言葉に命を賭けた金田一京助が、波乱の生涯でつかんだ明日へのyes!とは?

言語学者、金田一京助は、1882年5月5日、岩手県盛岡市に生まれた。
金田一の曽祖父は、米などの穀物の商いで財をなした実業家。
しかもただの大金持ちではなく、飢饉の際には、自らの蔵を全て開け放ち、農民を救った名士だった。
南部藩から認められた名家に生まれた京助は、裕福な環境で育った。
長男だった彼に、ほどなくして弟が生まれる。
まだ母の乳が飲みたい頃。引き離される。
乳母に預けられたが、この乳母が怖かった。
折檻がきつい。
あるとき実家に戻ってきた京助が、乳母のもとに帰りたくないとだだをこねた。
「甘えてはいけません」と母は言った。
でも、婿養子の父は、3歳にも満たない京助に「坊、どうして行かないんだ?」と優しく聞いた。
そのとき、京助が発した言葉が、初めて自分が認識した日本語だった。
「ランプ、オツム、カチン、ふーふ、ボウボウ、ガチンガチン」。
翻訳すれば、こうだ。
乳母の折檻は激しく、ランプに頭をぶつけるほどだったらしい。
揺れるランプの炎。頭が痛い…。
父は、そこで、言った。
「そんなに嫌なら、乳母のところに行くことはないよ。ここにいればいい」。
京助の父は、商売の才覚はなかったが、字や絵がうまく、文学にも精通していた。
母は弟のもの。幼い京助は眠るとき、いつも父に抱かれた。
毎夜、物語を聞かせてもらった。平家物語、源平合戦…。
時には父の作り話になり、思いもよらぬ展開が待っていた。
ワクワクした。夜になるのが楽しみだった。
京助の心に、文学が、言葉が、宿った。

言語学者、金田一京助は、幼い頃から絵がうまかった。
中学に入る頃には、きっと日本画家になるんだろうと思っていた。
しかし、中学一年の夏。不慮の事故が起きた。
父は不在。京助が弟と寝ていると、母の枕もとのランプの灯がぼうっと燃え上がり、蚊帳に燃え移っていた。
あわてて消そうとランプに手を入れる。ガラスが破裂。手を切った。
血がだらだらと流れても痛みは感じなかった。
なんとか火をくいとめ、蚊帳がこげる程度で済んだ。
でも、京助の右の手のひらは、大きく裂けてしまった。
以来、中指と薬指の二本が曲げられなくなった。
絵描きを諦めるとき、泣いた。本を読んで、自分を慰める。
金田一京助の字が読みやすいのは、満足に動かない右手を一生懸命使うからだ。
何十年もかけて、やっと書けるようになったからだ。
優しい字の陰には、闘いがあった。
普通にできることをできぬと知ったとき、ひとは、選択を強いられる。
「闘い続ける覚悟は、あるか?」

金田一京助は、大学で小説や詩を学び、自分も書いてみたいと思った。
でも、言語学に興味を持った。
「日本語の起源ってなんだろう」。知りたくなる。
日本語とアイヌ語の関係をテーマに研究を始めた。
「アイヌは日本にしか住んでいないのだから、アイヌ語研究は世界に対する、日本の学者の責任ではないか」
そう思った。
ただ、学ぼうとしても、文献も辞書もそろってはいなかった。
ゼロからの出発。現地に赴き、言葉を集めるしかない。
アイヌ語には、ひとつひとつの言葉に人称がくっついていた。
「愛する」という言葉には「私は愛する」という人称がついている。
これは、ネイティブアメリカンの言葉に似ていた。
のめり込んだ。これを一生の仕事にしたいと思った。
しかし、お金にはならない。それでも、父は応援してくれた。
あるとき、久しぶりに盛岡に帰省して驚いた。
一家は本家の長屋。父、母、弟や妹はひしめくように一緒に暮らしていた。
それでも京助は、全くお金にならないアイヌ語研究を続けた。
1912年、京助、30歳の秋。父は亡くなった。
最も生活が苦しいときに、心を病んで逝ってしまった。
「オレが、アイヌ語なんかやるからこうなるんだ!」
自分に腹が立った。優しかった父の思い出がよみがえる。
風邪をひいて寝込む自分の傍らで、必死に凧をつくってくれた父。
「元気になったら、これ、あげにいこうなあ、京助」。
父を犠牲にした。親孝行のひとつもできなかった。
アイヌ語を記したノートを畳にぶちまける。
「やめだ!やめだ!こんなもんやめだ!」
でも、散らばるノートを見て思った。
「父をも犠牲にした仕事だからこそ、僕は命を投げ打ってやらねばいけないんじゃないか。一生懸命やってこそ、父に顔向けできるんじゃないか」。
そこから、金田一京助の新たな歩みが始まった。
人生に、迷っている暇などない。我がゆく道を、行くしかない。
仕事には、覚悟が必要だ。

【ON AIR LIST】
悲しくてやりきれない / コトリンゴ
奇跡 / くるり
Afterglow / Ásgeir
Tom Traubert's Blues / Tom Waits

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのホイル蒸し

今回は、金田一京助の生まれ故郷、岩手県盛岡市で多く栽培されている、ねぎを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのホイル蒸し
カロリー
23kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 長ねぎ
  • 1本
  • ザーサイ(市販のもの)
  • 30g
  • 水(蒸す用)
  • 360cc
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。
  • 2.
  • 長ねぎは3cm幅に切り、ザーサイは粗みじん切りにする。
  • 3.
  • アルミホイルで器を作り、長ねぎ、ザーサイ、霜降りひらたけの順に盛り、アルミホイルの口をしっかり閉じる。
  • 4.
  • フライパンに(3)と水を入れ蓋をして、中火で10~15分蒸し焼きにする。※水がなくなるまで
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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