第三百六十七話明日はもっといいものをつくろう
アントニ・ガウディ。
世界遺産がひときわ多いスペインにあって、「アントニ・ガウディの作品群」という個人名で登録されている、唯一無二のレジェンドです。
最も有名な建築物は、「サグラダ・ファミリア」。
今からおよそ140年前に着工された、この偉大な作品は、いまだ完成していません。
建築にたずさわるスタッフに、毎日、ガウディは言いました。
「諸君! 明日はもっといいものをつくろうじゃないか!」
決して妥協しない彼の言動は、ときに大きな軋轢を生みましたが、ガウディは一歩もひきませんでした。
バルセロナの街に突如現れた、ある種、異様な建物。
それは、建築というより彫刻に近い、芸術作品のようです。
ガウディは、言いました。
「建築は光をあやつり、彫刻は光と遊ぶ」
サグラダ・ファミリアの内部に入れば、その言葉が理解できます。
そこに踊る光の粒は、細かな彫刻が演出した無数の穴。
天空に突き出す尖塔は、まるで未来に向けたメッセージのように、私たちの心を鼓舞してくれます。
幼い頃のガウディは、リウマチに苦しめられ、痛みとの格闘でした。
痛みは、結局誰とも分かち合えないことを知った彼は、幼心に悟るのです。
「明日はきっと少しはよくなっているはずだ。そう信じることで、なんとか今を乗り切っていこう」
病気の療養のため、母から引き離され、田舎に預けられたときも、「明日はきっとお母さんが迎えに来てくれる、きっと来てくれる」
そう願いながら、毎日を過ごしたと言います。
明日、明日、明日。
幼い頃から、ガウディは、明日に夢を見ることで生きてきたのです。
今も建築界に影響を与え続けるカタルーニャの至宝、アントニ・ガウディが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?
「サグラダ・ファミリア」で知られるアントニ・ガウディは、1852年6月25日、スペイン・カタルーニャ地方、タラゴナに生まれた。
祖父も父も、銅板を扱う職人だった。
家にはいつも銅板を打つ金属音が鳴り響いていた。
生まれてすぐに、田舎町リウドムスから都会のレウスに引っ越す。
ガウディは、虚弱体質だった。
やがてリウマチにかかる。
命は取り留めたものの、激しい関節の痛みに泣き叫ぶ。
熱は下がらず、生死の境をさまよった。
母は、末っ子のガウディを不憫に思い、ことさら可愛がった。
「もしかしたら、レウスの空気が合わないのかもしれない」
そう思った母は、我が子を、自然豊かなリウドムスの両親のもとに預けることを決意した。
ガウディは、母から引き離されることで、絶望を味わう。
自分の足で歩けないガウディは、ロバに乗ってリウドムスに向かった。
母は足しげく、我が子に会うため、リウドムスに通う。
それでも、ガウディの孤独は深まるばかりだった。
祖父の家に響く銅板を叩く音が、「絶望」という言葉と重なった。
アントニ・ガウディが幼少時代、リウマチの療養で過ごしたリウドムスには、一面、オリーブ畑が広がっていた。
地平線に落ちる太陽。
夕陽の圧倒的なオレンジに、心うたれた。
虫や動物、草木に池や川。
少しずつ、リウマチも癒えていく。
ただ、ひとたび都会のレウスに戻ると、病気は再発。
また大好きな母親と引き離された。
いっそ、ずっとリウドムスに預けられるほうが楽だったかもしれない。
希望を持たされ、絶望を味わい、また希望に心おどらせて…。
その繰り返しは、ガウディ少年に、この世の理不尽や不条理を教えることになった。
ただ、リウドムスの自然だけは裏切らなかった。
冬が終われば、花が咲き誇り、夏の陽射しがやってくる。
のちにガウディは言った。
「私にとって、自然は、学校そのものだった。
そこには、あらゆる色があり、あらゆる形が存在し、花びらや木々の成り立ちに思いもよらない創造物を発見した。
自然は、開かれた偉大な書物である」
天才・建築家、ガウディの感受性は、孤独と自然の中でゆっくりと育まれていった。
アントニ・ガウディは、リウマチも落ち着き、レウスの街の小学校に通った。
成績は決して良くはなく、唯一、工作だけは得意だった。
紙細工で家を作る、という宿題。
クラスメートは、ガウディが作った家に驚く。
フツウの家ではない。
家の中を木々が貫き、円形の大きな窓が人間の顔に見えた。
「変な家」
同級生にそうバカにされると、ガウディは言った。
「ただ、ボクはね、自分が住みたい家をつくっただけだよ」
学校から帰ると、ひたすら父の工房にいた。
銅板を打つ父の傍から離れない。
「何がそんなに面白いんだ?」
そう聞かれて、「お父さんが振り下ろすカナヅチで、銅板がいろんな形に変わっていくのが面白いんだ。さっきまで平べったい板だったのに、ほら、もう立ち上がってる」
おかしな子だと思いながら、父は、この息子を自分の後継者にしたいと思った。
同級生たちが、具体的な職業を将来の夢として口にする中、ガウディは、「立体的なものをつくるしごとがしたい」と言って、先生を困らせた。
立体的であれば、小さな箱でも庭に置く犬小屋でも何でもよかった。
ただ、一度作ったものも、毎日手を加え、形を変えていく。
明日はもっとすごいものを、明日はもっと自分が納得するものを。
そう願って。
誰もが成し遂げることのできない作品を創造したアントニ・ガウディは、ただ、明日を信じて、前に進み続けた。
【ON AIR LIST】
鳥の歌(カタロニア民謡) / 山下和仁(ギター)
ホブ・アレク・サレル・ジャン / バハグニ feat.ブイカ
コラソン / オマール・ソーサ&セク・ケイタ
バルセロナ / フレディ・マーキュリー&モンセラ・カバリエ
★今回の撮影は、「伊勢志摩 近鉄リゾート 志摩スペイン村」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
営業時間など、詳しくは公式HPにてご確認ください。
伊勢志摩 近鉄リゾート 志摩スペイン村 HP
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