yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第四十五話 絶望の隣にある希望 -【高知篇】 漫画家 やなせたかし-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第四十五話絶望の隣にある希望

高知県の東、香美市にある「やなせたかし記念館」。
ここにはやなせたかし自身が画いたタブローや貴重な絵本原画などを通して、「アンパンマン」の世界を体感できるアンパンマンミュージアムがあります。
訪れるたくさんの家族連れ。子供たちの笑い声が、興奮する声が、館内に響いています。
やなせたかしの父方の実家は、高知県香美市に300年続く旧家でした。
幼くして父を亡くした彼は、高知県の南国市で開業医をしている伯父の世話になります。
幼少期から多感な青春時代を自然豊かな高知で過ごしたことは、彼にとって、かけがえのない財産になりました。

やなせたかしがアンパンマンの作者として有名になるのは、彼が60歳をとうに越えた頃でした。
それまで彼は、「自分は何をやっても中途半端、二流だ」と自分を責めてばかりいました。
何より漫画家として代表作がないことが、コンプレックスだったといいます。
「もうきっと売れることなんかない、そろそろ引き際だ」
そんなとき、やってきたアンパンマンのヒット。
彼が漫画を続けてくれたおかげで、どれほどのひとが勇気づけられ、明日に希望を見出すことができたか。
2011年3月11日の東日本大震災のとき、ラジオから流れるアンパンマンの歌に涙し、生きる思いを胸にしたひとがどれほどたくさんいるでしょうか。
あきらめないこと。続けること。
それこそが、夢への、希望への唯一の道であることを、生涯をかけて教えてくれたひと、漫画家、やなせたかし。
彼が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

やなせたかしは、1919年2月6日高知県香美市に生まれた。
子煩悩だった父は、幼いたかしに、蓄音機で音楽を聴かせた。
『赤い靴』『歌を忘れたカナリア』。
富士山にも、日光にも連れていってくれた。
かすかな記憶に父の笑顔があった。
新聞記者として中国に渡った父は、突然、32歳の若さで亡くなってしまう。病死だった。
たかしは、5歳。弟は3歳だった。
母は父について中国に行かなかったことを終生、悔やんだ。
葬儀の日のことを覚えている。
晴れだった。
母がひどく泣いていた。
田んぼのわきの道を、お墓まで歩いた。たかしが先頭だった。
山肌の色、若葉の輝きを覚えている。

南国市にいる伯父の世話になった。
そのころ、よく母に言われた。
「お前はねえ、真っ正直すぎるんだよ。そんなに馬鹿正直じゃ、生きていけないよ。もっとずるくならないと世間を渡っちゃいけないからね」
でも、ずるく生きるという意味がわからない。
やがて母は再婚して、たかしは伯父夫婦に預けられることになった。
父を亡くし、母を失った。
それでもぐれなかったのは、絵があったからだ。
暇さえあれば、絵を画いた。
クレヨンさえあれば、大人しくひとりでいられた。
こうして夢が育まれた。
「いつか、漫画家になりたい」
彼はのちにこう語った。
「私の夢への道は決して順風満帆ではなかった。でも、夢は達成することが大事なのではない。夢に向かう一歩一歩が尊いのだ」。

やなせたかしは、中学生のとき、自分の天賦の才を感じた。
絵も、どんなひとよりうまいと錯覚した。
社会に出て、自分以外のひとが頭角を現す。
追い抜かれる。焦った。
世間に見る目がないと恨んだ。
やがて自分の居場所を見失い、失意の中にいた。
仕事でもないのに、徹夜で詩を書く。絵を画く。
むなしい。
取り残されているような思い。

ある夜のこと。
壁の時計が3時を告げる。
妻はとっくに休んでいる。
静まり返った家の中。
何気なしに、机の傍の懐中電灯を手にとり、自分の手にあててみた。
すると、血の色が透けて見えた。
驚いた。見とれた。
こんなにも落ち込んでいる自分なのに、体はしっかり生きている。
涙ぐみそうになった。
ふと口からフレーズが出た。
「手のひらを太陽にすかしてみれば」。
こうして生まれた『手のひらを太陽に』は、NHKの「みんなのうた」で放映され、大ヒットになった。
ミミズだって、オケラだって、アメンボだって。
光の当たらない生き物に自分を重ね合わせた。
絶望が、彼にあたたかいまなざしをくれた。
すぐそばに、希望があった。

やなせたかしが、最初に絵本に画いたアンパンマンは、ボロボロのつぎはぎだらけのマントを着ていた。
正義のために戦う人は、おそらく貧しいに違いない。
新しいマントは買えないと思ったからだ。
お腹をすかせている子供に自分の顔を食べさせる。
飢え死にしそうなひとに顔を食べさせる。
一切れのパンをあげるということ。
自分の身を犠牲にしても、ひもじい思いをしているひとに食べ物をあげ続けるということ。
それこそがやなせたかしが考えるヒーローだった。
「さあ、僕の顔をかじりなさい。アンパンだから、甘くてとびきりおいしいよ。さあ、はやく!」

やなせには戦争の記憶があった。
正義という名のもとに突き進んだ戦争。
どの国も正義をかかげる。
いったい正義とはなにか?
彼は思った。
「まずは飢えているひとを助けましょう。罪もなく死んでいくひとを助けましょう。正しいとか正しくないかは、そのあとで考えればいいんです」
まずは、食べること。
戦争の体験はそのありがたさ、幸せを心に刻んだ。

顔を食べさせるシーンは大人たちから反発を浴びた。
でも、子供たちはわかってくれた。
図書館の絵本は、子供たちが何度も読むのでボロボロになった。
絵本はじわじわと人気が出て、やがてアニメになった。
「なんのために生まれて なにをして生きるのか こたえられないなんて そんなのは いやだ!」
やなせは、テーマソングに子供向けとは思えない歌詞を書いた。
子供向けに合わせる必要はない。
ちゃんと伝えれば子供に伝わる。
そう確信していた。
さらに彼は敵役に「ばいきんまん」を選んだ。
ばい菌は敵かもしれないけど、パンは菌で発酵する。
「大切なのは、共に生きる、共生です」。

世界は光と影でできている。
影の傍には光がある。
絶望のそばに、必ずある希望。
アンパンマンは、永遠に生き続ける。

※参考文献『絶望の隣は希望です!』やなせたかし著(小学館)


【ON AIR LIST】
アンパンマンのマーチ / SUEMITSU & THE SUEMITH KIDS
空がまた暗くなる / RCサクセション
手のひらを太陽に / UA
LAY YOUR HANDS ON ME / BOOM BOOM SATELLITES

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとニラのナムル

やなせたかしの生まれ故郷、高知県香美市。この地に建てられた「やなせたかし記念館」は、今もたくさんの家族連れで賑わっています。今回は、その高知県香美市の特産品であるニラを使った、こちらの料理をご紹介します。

霜降りひらたけとニラのナムル
カロリー
91kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • ニラ
  • 1/2束
  • にんじん
  • 20g
  • もやし
  • 50g
  • 【A】塩
  • 小さじ1/3
  • 【A】おろしにんにく
  • 小さじ1/2
  • 【A】ごま油
  • 小さじ2
  • 【A】白ごま
  • 小さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。ニラは4cm幅に、にんじんは4cm長さの細切りに切る。
  • 2.
  • フライパンに1cm水をはって霜降りひらたけ、ニラ、にんじん、もやしを入れて火にかけ、さっと蒸し茹でする。火が通ればよく水気を切る。
  • 3.
  • ボウルに【A】を合わせて具材を和え、器に盛りつける。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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