yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第四十六話 弱きもののために -【高知篇】 実業家 岩崎弥太郎-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第四十六話弱きもののために

高知県安芸市の市街からおよそ3キロほど離れた場所、当時、井ノ口村と言われた場所に、三菱財閥の創業者、岩崎弥太郎の生まれた家が修復され、保存されています。
岩崎の生家は、決して裕福なものではありませんでした。
藁ぶきの平屋。
建坪も30坪あまりの質素なものです。
その土蔵の鬼瓦に、岩崎家の家紋、重ね三階菱が刻まれています。
これがのちの三菱のマーク、スリーダイヤの原型と言われています。
家の庭には、石が置いてあります。
いくつかの石が並べられた様は、まるで日本列島。
これは、岩崎弥太郎が、いつか日本で一番になるという青雲の志を持って、置いたのだと言われています。
井ノ口村の近くの妙見山にある星神社。
弥太郎は、この苔むした石段を登り、何度も神社にお参りしたといいます。
彼はこの神社に落書きをしたそうです。
そこには、こう書かれていました。
『我、今回、江戸に遊学す。我、志を得ずんば、再び帰りて、この山を登らじ』
立身出世を夢見て、江戸に出向く前に、夢を叶えることができなければ、ここにはもう来ないという彼の強い決意が垣間見られます。
庭の日本列島と、神社の落書き。
人里離れた村の手に負えない風雲児が、自らの中に培った人生のyes!とは?

岩崎弥太郎は、1835年、天保5年に、土佐の国、現在の高知県安芸市に生まれた。
土佐の温暖な空気、開かれた海、人情に篤い風土が、彼のおおらかな人格を造った。
父、弥次郎は、地下浪人。
地下浪人とは、武士の身分を売ってしまった、半農半士。
農民のように農業で生計を立てる身分の低い存在だった。
弥太郎が生まれたとき、おぎゃあと泣く声が、あまりに大きくて家族が驚いたと言われている。
産婆は、こうつぶやいた。
「こがな太い声で泣くややこは、あていは初めて見たぞね。これは、きっと天下をとるような、大物になろうね」
弥太郎が生まれた井ノ口村は、古くは安芸氏に統括され、戦国時代末期に長曾我部家が治めた。
長曾我部家は、関ケ原で敗戦側についたことで土佐を追われ、代わりに遠州掛川から、山内一豊が統治した。
岩崎家は、もともと甲斐の国、武田の末裔だと言われている。
武田家は、三階菱が家紋だった。
岩崎家は、安芸氏、長曾我部氏に仕えたので、山内氏が入国したとき、山に逃げた。
のちに山内氏にも仕えるようになるが、身分は低かった。
ただ、弥太郎の母、美和は気位が高かった。もともと医者の家系。
ただ優しさと乱世を生き抜く強さを兼ね備えていた。
弥太郎には、母の忘れられないエピソードがあった。
彼は、そこから学ぶことになる。
「後輩や弱きものには、惜しみなく財を分け与えよ」

三菱財閥の創業者、海運業の風雲児、岩崎弥太郎には、忘れられない母の思い出があった。
ある歳の暮れ。近所の主婦が、物乞いにやってくる。
「このままでは、歳を越せねえ。おねげえだ。用立てて、くれんかの?」
それを聞いて、弥太郎の母、美和は怒った。
「お断りするがで。どがな状況じゃき、備えを怠らんが、妻の役目」。
その女は泣いて帰った。
しかし、美和は先回りして、その女の家の障子の破れ穴から銭を投げた。
その銭も岩崎家にとってはなけなしのお金だった。
母は弥太郎に言った。
「ウチもつらい。でも、もっとつらいひとが世の中にはいるもんだよ。後輩や弱きものに、優しくしなさい」
岩崎弥太郎は、生涯を通じて、部下や後輩にお金を払わすことがなかったという。
母の凛とした気品、清貧は、彼の心に人と生きていく術を教えた。
母、美和は、手の付けられないほどのワンパクな弥太郎の、心の奥底に光る優しさを見抜いていた。
「この子には、ひとの気持ちを慮る、土佐の風のような暖かさがある」

三菱財閥の創業者、岩崎弥太郎は、11歳のときに勉学の才能を見出される。
ただのやんちゃ坊主だった彼に、転機が訪れる。
文才がある。漢詩をあやつった。
14歳のときには、藩主・山内氏にその才を認められた。
21歳で江戸に行くことを決意。
両親は、持っていた田畑を売り払い、資金を作った。
母・美和は言った。
「大きな男になりなさい」
江戸に遊学。彼は志を果たすまでは故郷には戻らぬと誓った。
しかし、父が酒の席で暴徒とやり合い、瀕死の状態になったという知らせを受ける。
しかも、牢獄に入るという。
「いいがかりだ!」
弥太郎は、急きょ、ふるさとに戻る。
父の無実を訴えた。
どんなに自分の立場が悪くなろうとも、彼は引かなかった。
「いざとなったら、いつだって命をくれてやる!」
その覚悟こそが、彼の強さの源だった。
結局、父の冤罪を主張したことで、彼も牢屋の主になった。
転んでも只では起きないのも、弥太郎の底力。
獄中で知り合った商人から、算術や商法、商いの全てを学んだ。
後藤象二郎の恩を受けて、1873年、二隻の船を手にする。
そのたった二隻の払い下げの船を元手に、海運業を始めた。
「三菱商会」と名付けたその会社は、瞬く間に、世間を圧倒する。
岩崎家の重ね三階菱と、土佐を治める山内家の三つ葉の家紋を合わせ、のちにスリーダイヤと呼ばれるマークを作った。
弥太郎が、会社を創設したときに決めたことがあった。
どこの生まれだろうが、どんな家柄だろうが、そんなことは関係ない。
全ての社員に、商人としての教育を施す。
差別を嫌った。それはかつて自分が受けてきたものだった。
そしていつも母の心得が、胸にあった。
「万人を愛しなさい。弱きものの、味方でありなさい」
弥太郎は、日本で最初にボーナスを支給したものと言われている。
企業の利益は、働くひとに還元されるべきだ。
彼は、土佐、高知に生まれ、大海を夢見て船出した。
そして、志を遂げて、故郷に錦を飾った。
彼の心にあったのは、おそらくただひとつ。
「強いものこそ、優しくなれる」

【ON AIR LIST】
風は西から / 奥田民生
Teach Your Children / Crosby, Stills & Nash
やさしさに包まれたなら / 荒井由実
優しい歌 / Mr.Children

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけとなすの甘酢炒め

土佐の国、高知県安芸市に生まれた、岩崎弥太郎。土佐の温暖な空気、開かれた海、人情に篤い風土が、彼のおおらかな人格を造ったのではないでしょうか。今回は、そんな安芸市の特産品、ナスを使ったこちらの料理をご紹介します。

霜降りひらたけとなすの甘酢炒め
カロリー
54kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • なす
  • 2本
  • パプリカ
  • 1/2~1/4個
  • 小麦粉
  • 少々
  • ごま油
  • 大さじ1
  • 【A】醤油
  • 大さじ1
  • 【A】砂糖
  • 大さじ1
  • 【A】酢
  • 大さじ1/2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。なすは縦8等分にして水にさらし、パプリカは乱切りにする。調味料【A】は合わせておく。
  • 2.
  • なすの水気をふいて、小麦粉をまぶし、熱したフライパンにごま油を入れて皮目を下にしてよく焼く。
  • 3.
  • 霜降りひらたけとパプリカも入れ、しんなりしてきたら弱火にし【A】を入れる。
  • 4.
  • なすにとろみがついたら火を止める。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる