yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百三十一話 悔しい思いを糧にする -【漫画家篇①兵庫県宝塚市】 手塚治虫-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百三十一話悔しい思いを糧にする

今年、生誕90周年を迎える漫画の神様、手塚治虫。
彼の記念館は、兵庫県宝塚市にあります。
60歳で生涯を閉じた、その5年後に開館しました。
外観は、まるで彼の漫画に出てきそうなヨーロッパの古いお城。
15万枚にも及ぶ作品の歴史を、垣間見ることができます。
手塚治虫が生まれたのは、現在の大阪府豊中市ですが、ほどなく宝塚に転居。
幼少期から青年期の最も多感な時期を、豊かな自然と文化的で洗練された雰囲気が共存する不思議な街で過ごすことになったのです。
宝塚は、明治時代には温泉地。大正、昭和時代には、歌劇場や遊園地、植物園などリゾート施設が充実した最先端の街として発展してきました。
この地は、手塚に二つの大きな宝物を与えました。
ひとつは、ペンネームにもつけられている「虫」。
家の裏の雑木林は、虫の宝庫でした。
小学5年生のとき見た、昆虫図鑑に心をわしづかみにされた手塚少年は、先生も驚くほど、虫を細かく丁寧に描き、「これはまるで写真じゃないか」と言われました。
そしてもうひとつは、宝塚歌劇。母親が大の宝塚ファンだったので、幼い頃から多くのステージを見たのです。
ひとたび幕が開けば、そこは、めくるめく想像の世界。
子ども心に、彼は癒され、高揚し、やがて、感動の源を知りたいと思いました。
虫を注意深く観察し、描くこと。フィクションの世界に身をゆだねること。
そのどちらも、彼の過酷な人生が裏打ちしていました。
執拗なまでにいじめられ、バカにされ、それでも世界に名立たる漫画家になった手塚治虫。彼がつかんだ人生のyes!とは?

漫画の神様・手塚治虫は、今から90年前、1928年に生まれた。
父は大企業のサラリーマン。母は厳格な軍人の娘。
この二人の趣味や性格が、手塚を漫画に導く。
父は当時では珍しいほどの趣味人で、映画や漫画が好き、自身も俳句を詠んだ。
母は幼い手塚に、声真似、身振り手振りを交えて、毎晩読み聞かせを欠かさなかった。
5歳のときには、手塚はすでに漫画を画いたという。
白いノートを与えても、あっという間に鉛筆で描き切ってしまう。
手塚が次のノートをせがむ。母は、彼が寝たあとで、一生懸命消しゴムでそれらを消して、翌朝そのノートを渡した。
小学校は名門校に合格。母が東京出身で関西弁が話せない。
しかも、背も低く、体も弱い。視力が悪く、大きな眼鏡をかけていた。
いじめられた。徹底的に、いじめられた。
虫みたいだと笑われる。
「ガジャボイ頭をふりたてて、今日も眼鏡がやってきた。見えました。見えました。60メートルの眼鏡」
という侮蔑の歌を歌われる。
ガジャボイとは、天然パーマに固い髪の毛のガジャガジャ頭のボーイの略。
ちなみにこの髪型は、鉄腕アトムの髪型の原型になる。
このいじめっ子の歌を、手塚は生涯忘れなかった。
悔しい。なんでこんなに、いじめられるのか。
いじめっ子から逃れるために通学ルートを変えても、彼らは追いかけてくる。逃げても逃げても、ダメだ。
泣いて帰ると、いつも母はひとこと、こう言った。
「我慢、しなさい」

手塚治虫へのいじめは、中学になるとおさまるどころか激しさを増した。
服を脱がされ、全裸で廊下に放り出される。
ガキ大将だけではない。クラスの優秀な生徒も、手塚を排除、揶揄した。
泣いて帰ると、母は決まってこう訊いた。
「今日は、何回泣かされたの?」
「えっと…8回泣かされました」
母は、続けてこう言った。
「堪忍、しなさい。我慢、しなさい」
我慢する、それは手塚の人生訓になった。
この世は、理不尽なことばかりだ。
ちょっとしたことで、昨日までの友は敵になり、今日までの幸福は、明日崩れ去る。
そんなとき、どう生きるか。
我慢。それしかない。ただ、悔しさは忘れない。
いつかこの悔しさを糧に、みんなを見返してみせる。
見返すために、どうしたらいいか。
手塚少年は、考えた。
「ボクは、運動も苦手、勉強だって優秀なやつはいっぱいいる。誰にも負けないもの、ボクがボクを誇りに思えることはなんだろう」
ある作文の授業で、遠足について書くという課題があった。
そこで、手塚はこう書いた。
「山奥に行くと、クマがガォ~っと出てきました。急いで逃げると、まるで天国のような花畑に出たのです」
クラスメートは、野次を飛ばす。
「クマなんか、いなかった!花畑なんか、なかった!」
でも、手塚の作文は圧倒的に面白かった。みんなが引き込まれた。
結果、作文を読み終えると、拍手がわいた。
「これかもしれない…ボクは、物語をつくるのがうまいのかもしれない」

手塚治虫は、授業中も漫画を画いた。お話をつくった。
休み時間に、彼の周りにクラスメートが集まる。行列ができる。
「続きを聞かせてくれよ!」
「ボクを主人公に漫画を画いてくれよ!」
自分をいじめていたガキ大将まで、その列に並んだ。
先生も、手塚の漫画を没収するが、あまりの面白さに舌を巻いて、こう尋ねた。
「で、続きはどうなんだ?」
手塚治虫は、思った。
「そうか、案外、世の中は単純なのかもしれない。不得意なことに心を痛める前に、得意なことを伸ばせばいい。まずは、自分が得意なことを見つけること。なければ、得意なことを身につけること。人生を幸せに過ごすのも過ごせないのも、自分次第なんだ」
そんな彼の気持ちを支えたのは、悔しさだった。
手塚は、大御所になり、漫画家長者番付一位になっても、後輩に優秀な人材が現れると、全身全霊で嫉妬した。
悔しい、こんな漫画、自分には画けない。
そう思うと、体中の血が沸き立った。
石ノ森章太郎が、「ボクが書いた漫画を読んでください」と仮面ライダーを持ってきたとき、セリフのない漫画に才能を感じた。
目の前で破り捨てる。
「こんなの漫画じゃないよ」
後に、石ノ森に謝った。
「君に、嫉妬した」。
悔しさが、15万枚書かせた。
我慢が、彼を世界に押し上げた。
漫画家・手塚治虫は、いつも画いた。
電車でも、温泉宿でも、廊下でも、駅の待合室でも。
そうして築いたものが、今、多くの若者を鼓舞し、励まし続けている。
「いいんだ、泣いたっていいんだ、ただ、その悔しさを忘れるな!」

【ON AIR LIST】
野ばら / 奥田民生
Nobody Knows / The Lumineers
Castle On The Hill / Ed Sheeran
トランジスタ・ラジオ / RCサクセション

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの寄せ鍋

幼少期から青年期を兵庫県宝塚市で過ごした、手塚治虫。今回は、宝塚市の特産でもある、ねぎを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけの寄せ鍋
カロリー
237kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 2パック
  • 白菜
  • 1/8個
  • 水菜
  • 1/3束
  • にんじん
  • 1/3本
  • 長ねぎ
  • 1本
  • 鶏もも肉
  • 1枚
  • 豆腐
  • 2/3丁
  • だし
  • 5カップ
    (鍋の大きさで調整)
  • 【A】酒
  • 大さじ3
  • 【A】しょうゆ
  • 大さじ3
  • 【A】みりん
  • 大さじ1と1/2
  • 【A】塩
  • 小さじ1/2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。鶏肉、豆腐は一口大に食べやすく切る。
  • 2.
  • 白菜、水菜は4cm幅のざく切りに、長ねぎは斜め切りに、人参は型で抜いて5mm厚さに切る。
  • 3.
  • 鍋にだし、【A】を入れて具材を並べたら火にかけ、フタをして煮る。具材に火が通れば出来上がり。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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