yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百七十八話 誰にもできないことをやる -【伝記映画篇】画家 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百七十八話誰にもできないことをやる

イギリスを代表するロマン派の画家、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーを主人公にした伝記映画『ターナー、光に愛を求めて』は、2014年に製作されました。
巨匠マイク・リー監督のこの映画は、世界的に評価が高く、アカデミー賞で4部門にノミネート。
ターナーを演じた名優ティモシー・スポールは、カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞しました。
風景画の歴史を大きく変え、のちのモネやセザンヌという印象派の画家にも多大な影響を与えたターナーに、ティモシー・スポールの風貌はあまりにも似ていると評判になりました。
ずんぐりむっくりな体型。
身なりにかまわず、言葉は、明瞭に話さない。
いつもひとを疑うようにギロッと相手を見る。
生涯、家庭を持つことをせず、私生活は孤独で静か。
多くの謎に包まれていました。
その一方で、絵を画くことへの執念は、すさまじいものがありました。
もはや伝説と化している、逸話があります。
嵐の海に翻弄される船を描くために、実際に嵐の中、乗組員に頼み、4時間もの間、自分の体をマストに縛り付けてもらったと言われています。
また、『雨、蒸気、速度―グレート・ウェスタン鉄道』は絵画史上、初めて、速度を描いたものとして名高い作品ですが、機関車の動きを体感するために、雨の中、彼はずぶ濡れになって、一日中、機関車が行き過ぎるのを見ていました。
「どうしてキミはそこまでするんだい?」と画商が尋ねると、彼はシニカルに笑ってこう答えたと言います。
「他のひとが画くものと一緒じゃ、つまらないからだよ」
ターナーのパレットは、ほとんど黄色であふれていたと言います。
夕陽、朝陽、あらゆる景色を、さまざまな黄色のバリエーションで表現したのは、風景にいつも光を見ていたからでしょうか。
反対に、緑色を嫌い、ほとんど使いませんでした。
やることが極端で、独特。
そこにこそ、彼の独自性が育まれ、後世に受け継がれる作品を残せたヒントがあるのではないでしょうか。
ひとがやらないことをやるのは、エネルギーがいる。
でも冒険こそ進歩をうながす、唯一の方法なのです。
風景画家の巨匠、ターナーが人生でつかんだ明日へのyes!とは?

イギリスの風景画家・ターナーは、1775年、ロンドン、コヴェント・ガーデンに生まれた。
街は市場や商店であふれ、劇場もあった。
ターナーの父は、理髪店を営み、繁盛していた。
3年後には妹も生まれ、家族4人、幸せに暮らしていた。
しかし、ターナーが8歳のとき、妹が病で亡くなる。
もともと精神が不安定だった母は、幼い我が子の死を受け止めきれず、病院に入院。
二度と退院することなく、この世を去った。
ターナーは、平穏な日常生活があっけなく崩れ去ることを、身をもって知る。
と同時に、家族を持つことの恐ろしさを感じてしまった。
「きっとまた、不吉なことが起こるに違いない。だったら、最初からひとりがいい」
ターナーは、テムズ川を西にさかのぼったブレントフォードにいる親戚に預けられた。
孤独だった。
知り合いも、友だちもいない。
彼はただ、一日中、テムズ川を眺めていた。
眺めるだけではなく、やがてスケッチを始めた。
道行くひとに「ぼうや、うまいねえ」と褒められると嬉しくなり、また、画いた。
やがて、絵を画くために、テムズ川に行くようになる。
飽きなかった。
光がはじける午後、雨に打たれる夕暮れ。
一度として同じ景色がないことを、知った。

ターナーは、13歳になると、ようやく父のもとに帰ることができた。
父は我が息子の絵の才能に気がついた。
理髪店に、我が子の風景画を飾って、売る。
ターナーは親戚の家に預けられているとき、土地の歴史を表す風景版画に色をつける仕事を任されていた。
イギリス各地の風景や歴史が、彼の脳裏に刻まれていく。
細かい道や木々に色を塗っていく作業は、孤独を忘れ、楽しかった。
ロンドンにいた建築画専門のトマス・モールトンに、素描を習う。
14歳で、当時イギリス唯一の正式な美術学校だったロイヤル・アカデミーに入学。
うれしかった。誇らしかった。
画家としての将来は約束されたと思う。
建築画家としての需要があり、パトロンたちは、自分の屋敷に壮麗な遺跡や歴史上の建築物の絵を飾りたがった。
うまく画ける。
自分は、誰よりもうまい…。
でも、なぜか彼が魅かれるものは、古びたレンガの壁、むきだしの窓、薄汚れた市場の女、生臭くて、よどんでいる水たまりだった。
特に、川に立ち込める、いっさいを覆ってしまう霧には、ひときわ心が揺さぶられた。
なぜだろう…整った世界、悠然とそびえる柱より、崩れ去るもの、うつろうものを画きたくなる…。
そうして彼は水彩を捨て、油絵に身をゆだねていく。

ターナーは、風景をただ切り取るだけの絵画に興味を失う。
躍動感、速さ、時間の流れ…。
見ているひとを巻き込むエネルギーやドラマを、キャンバスに叩きつけたくなった。
嵐、雪崩や洪水。
天変地異がモチーフになっていく。
でも、イタリアのヴェネチアを旅しているとき、突然、足がとまった。
目の前の圧倒的な風景。
日没。
すさまじくも、優美だった。
黄色が赤に変わり、海を浸食していく。
燃え上がるように鮮やかな輝きは世界を変えていく。
「ここに、あった…」
ターナーは、思わずつぶやく。
幼い頃、何度も体感した景色。
テムズ川に落ちる夕陽を、空が真っ暗になるまで見ていた。
モチーフを、外に求めることはない。
ちゃんと心の中にあった。
そっとしまっておいた、あの光の勝利。
きらびやかで哀しい、一日の終焉の儀式。
「私は、これが画きたくて、画家になったんだ…」
ひとと違うものを画いて、自分に辿り着いた。
風景画家の巨匠、ターナーは、夕闇の中にようやく自分の影を見た。

【ON AIR LIST】
ピアノ・ソナタ第8番 悲愴より第2楽章 / ベートーヴェン(作曲)、横山幸雄(ピアノ)
JUST FOR A LITTLE WHILE / Malik Malo
YELLOW / Coldplay
ターナーの汽罐車 / 山下達郎

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの牛しゃぶ椀盛

今回は、お祝い事にもぴったりの料理をご紹介します。

霜降りひらたけの牛しゃぶ椀盛
カロリー
220kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 牛肉(切り落とし)
  • 100g
  • 生わかめ
  • 20g
  • ミニトマト
  • 4個
  • 大根
  • 100g
  • 絹さや
  • 4枚
  • ごま油
  • 大さじ2
  • だし汁
  • 400ml
  • 【A】塩
  • 小さじ1/2
  • 【A】しょう油
  • 小さじ1/2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。大根はおろして、絹さやは筋を取って塩ゆでする。わかめは食べやすい大きさに切る。牛肉は塩・こしょう(分量外)で下味をつける。
  • 2.
  • フライパンにごま油を熱し、牛肉をサッと炒める。
  • 3.
  • 鍋にだし汁と【A】を入れ、霜降りひらたけとわかめ、ミニトマトを加えて煮る。
  • 4.
  • 器に(2)の牛肉と(3)の具材を盛り、汁をはって、水気を切った大根おろしをのせ、絹さやを飾る。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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