yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百八十五話 ひとの歩かない道を行く -【埼玉篇】医師 荻野吟子-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百八十五話ひとの歩かない道を行く

埼玉県が生んだ、三大偉人。
「日本資本主義の父」渋沢栄一、「全盲の国学者」塙 保己一、そしてもうひとりが、熊谷市出身で、日本で初めて女性医師になった荻野吟子です。
彼女の生涯が、今年、映画になります。
メガホンをとるのは、86歳の山田火砂子監督。
女性を正当に評価しない医学部入試のあり方などを受けて、今こそ、荻野吟子が何と闘い、何を後進に伝えたかったかを問いたいと、映画化を切望したのです。
女性に学問は必要ないとされた明治初期。
荻野はある屈辱を受けて一念発起、まだ女性で誰もとったことのない、医師の国家試験に挑戦します。
そこにはさまざまな軋轢や障壁がありました。
しかし、彼女は一歩も引きませんでした。
荻野は、壮絶な人生を振り返り、こんな言葉を残しています。
「人と同じような生活や心を求めて、人々と違うことを成し遂げられるわけはない。これでいいのだ」

作家・渡辺淳一が荻野吟子の生涯を描いた小説『花埋み』。小説の中に吟子の心情をうかがう一節があります。
「正直なところ、彼等の学才が吟子より優れていたとは思えない。成績だけならむしろ吟子の方が上であった。それが男というだけで堂々と開業を許されている。学識の差による結果なら諦めもつくが、男と女という性の違いだけの差別だけに、吟子は口惜しく耐えられそうにもなかった。いつになったら女も男と同じに扱われる時代が来るのであろうか」
苦難にもめげず、己の道を切り開いた、日本で最初の女医・荻野吟子が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

日本で最初の女医になった荻野吟子は、1851年、現在の埼玉県熊谷市に生まれた。
時は、江戸時代の末期。荻野の実家は、北埼玉の名主だった。
欅や棕櫚の木々に覆われた壮大な屋敷には、白い壁の蔵がいくつもあった。

利根川に育まれた関東平野にあって、まるでお城のように、その存在感を醸し出す。
あたりには荻野姓が多かったが、吟子の実家は特に由緒正しかった。
足利氏の流れをくむ「上(かみ)の荻野」として、農家であるにもかかわらず、苗字と刀を持つことを許されていた。
男2人、女5人の7人兄弟。村では「上の荻野を見習え」という口癖まで流行った。
吟子は、五女。姉に違わず、頭も器量もよかった。
特にその頭脳明晰ぶりは近所の評判になるほどで、10歳で『四書五経』をそらんじ、教師の間違いを指摘。まわりを驚かせた。
そんな吟子を、父は褒めるどころか叱った。
「女が男をやりこめて、どうする! だいたい、本など読む必要などないんだ。いいか、ぎん、女は学問などしなくていい。飯を炊き、子を育てるのに、学問が何の役に立つ!」
吟子は理不尽だと感じた。
「なぜ、女が学識を積んではいけないんだろう。おかしい、お父様が言う言葉はおかしい」。
でも、反論など許されない。
隠れて本を読んだ。蔵の中、木々の下、通学中、歩きながら。
ひとたび見つかれば、母が叩かれる。
「おまえがしっかり躾ていないから、こうなるんだ!」
それが辛くて、仕方なかった。
16歳で、吟子は無理やり結婚させられてしまう。
その結婚が、彼女の運命を大きく変えることになる…。

荻野吟子は16歳の時、隣村の名主の息子と結婚。
学問にのめり込みそうな娘を正そうと、父が強引に決めた。
しかし、3年もたたずに、実家に戻る。
村には、さまざまな噂が飛び交った。
ご懐妊か、向こうの家で何かあったか、いつ向こうに戻るのか…。
それまで一点の曇りもなかった「上の荻野」に垂れこめた暗雲に、人々は嬉々として飛びついた。
吟子は、奥座敷でずっと寝ていた。
結婚してほどなく、夫に性病をうつされたのだ。
当時はペニシリンもなく、不治の病。
子どもも産めないとわかると、嫁ぎ先の態度が変わった。
「家を出ます」という吟子を誰も止めない。

利根川沿いを風呂敷ひとつ抱え、とぼとぼと歩く自分。
みじめだった。何も悪いことはしていない。
高熱でも舅や姑、夫の世話をした。
そもそもこの病気は夫の裏切りを証明するもの。
それなのに… なぜ自分はこんなふうに捨てられてしまうのだろう。
泣けてきた。
それは哀しいからではない。
悔しかった。
自分の意に反して嫁がされ、自分が悪くないのに離縁される。
病を治すため、大学病院におもむき、さらなる屈辱を味わう。
病院にいる医師は、男性ばかり。
恥ずかしさに震えた。涙がぽろぽろ流れる。
「なぜ、女性の医者がいないんだろう…。こんな思いをする女性がいなくなるためには、女性が医者にならなくてはダメだ。だったら…」
吟子は、思った。
「私が、なる。私が女性医師になってみせる!」

荻野吟子が生きた時代は、医者を手伝う助手として女性はいたものの、国家資格を持った女性医師はいなかった。
そもそも女性は、医師免許を取得する国家試験の資格がない。
そんな時代に、吟子は20歳で医師を志した。
上京し勉学に励み、24歳のとき、東京女子師範学校、現在のお茶の水女子大学に一期生として入学。首席で卒業した。
私立の医学校に、ただひとりの女性として入る。
いじめられた。
不当な扱いを受け、何度もやめようと思う。
そのたびに、かつての屈辱を思い出した。
「あんな思いをする女性を、ひとりでもなくしたい」
ひとが歩いていない道を歩くのは、困難だ。
まず、道がない。
自分で草を刈り、石をどけ、土を掘らなくてはならない。
さらにどこに向かうか目標を見失えば、たちまち彷徨う。
安心も安全もない世界に身を投じるのは、容易いことではない。
でも、たった一回の人生で、道なき道を行くと誓ったものは、後ろを振り返らず、前に進むしかない。
荻野吟子は、沼地を越え、藪を抜け、泥だらけ、傷だらけになりながら、女性第一号の医師になった。
とぼとぼとみじめに歩きたくなければ、道なき道を自ら切り開くしかない。

【ON AIR LIST】
SISTERS ARE DOIN' IT FOR THEMSELVES / Aretha Franklin & Eurythmics
MY LOVIN'(YOU'RE NEVER GONNA GET IT) / En Vogue
TRUST YOUR VOICE / 中島美嘉
THE HUMAN TOUCH / Nina Simone

【撮影協力】
熊谷市立荻野吟子記念館
http://www.city.kumagaya.lg.jp/smph/shisetsu/bunka/oginoginkokinenkan2.html

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと浅利のネギ蒸し

荻野吟子の生まれ故郷である、現在の埼玉県熊谷市の特産野菜、ネギを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと浅利のネギ蒸し
カロリー
47kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 長ねぎ
  • 1/3本
  • 浅利(殻つき)
  • 12個
  • 大さじ2
  • 少々
  • ラー油
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。
  • 2.
  • 長ねぎは千切りにする。
  • 3.
  • 耐熱皿に(1)と浅利を入れ、(2)をのせ、塩と酒をふりかけ、ラップをして電子レンジ(700W)で約3分30秒加熱する。
  • 4.
  • 蒸せたら好みでラー油をたらす。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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