yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百六十四話 どんな仕事にも手を抜かない -【愛知篇】コメディアン 植木等-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百六十四話どんな仕事にも手を抜かない

1926年12月25日、クリスマス。
日本を代表するキングオブコメディアンが、愛知県名古屋市に生まれました。植木等。
生まれた日は、キリストの誕生日であり、その日、大正天皇が崩御されました。
まさに、伝説は始まっていたのです。
生まれた翌日が、昭和元年初日。
しかし、植木の叔父は、まかされた出生届を出すのを忘れ、結局、届が出されたのは年が明けた昭和2年の2月25日でした。
2ヶ月の遅れでしたが、特異な状況ゆえ、2年の差がついてしまったのです。
生まれながらに、波乱も規格外。
のちの運命を占うような出生でした。
「日本一の無責任男」を演じ続けた植木。
でも、彼自身は極めて実直で清廉。
酒も飲まず、地方巡業では安宿に泊まり、一膳飯屋を好みました。
22歳で植木の付き人兼運転手になった小松政夫が、彼と初めて会ったのは、病院の一室でした。
植木は働きすぎて、過労でダウンしていたのです。
この世界に入るのに抵抗はないのかと聞いたあと、こう言ったそうです。
「君はお父さんを早くに亡くしたようだね。私のことをこれから父親と思えばいいよ」
小松は、一生、植木を「親父」と呼びました。
貧しい小松が空腹だと見透かすと、自分はお腹が減っていないのに食堂に出かけ、天丼を注文。
「僕は、急にお腹の調子が悪くなったから、これ、全部食べてよ」と店を出たそうです。
彼の流儀は「ちっちゃな仕事でも、キチっとやる」。
情に厚く、仕事にもひとにも真摯に寄り添った喜劇役者・植木等が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

稀代のコメディアン・植木等は、大正最後の年に生まれた。
父、徹之助は、破天荒で規格外な男。
キリスト教の洗礼を受けたかと思うと、浄土真宗の僧侶になり、真珠の工場で真面目に働いていたかと思うと、義太夫にのめりこみ地方を回る。
社会運動にも参加して、この世のあらゆる差別や戦争を憎んだ。
三十を越えて生まれた三男につけた名前は、「等」。
平等、それがいちばんだ。ひとを見下すやつが、最も薄汚い。

等が4歳のとき、父は三重県の山奥にある寺の住職になった。
檀家が多くて安定した収入のある寺と、檀家が少なくて収入が期待できない寺、どちらがいいかと師匠に聞かれ、父はあえて檀家が少ないほうを選んだ。
そこは、崩れ落ちる寸前の寺だった。
それでも等の父は、あっという間にその村の名士になる。
檀家を訪ね歩くとき、いつも等を連れていった。
等は、出会ったひとの物まねが得意で、父を笑わせた。
「等、おまえは観察眼があるなあ。今はまだ小さくてわからんだろうが、ひとをちゃんと観察できるというのは才能なんだ」
等も、父と歩く山道が大好きだった。
森の匂いがした。川の音がした。どこまでも高い空があった。

植木等は、父によくこう言われた。
「いいか、等、世の中は、はずみだ。仕事も結婚も、はずみでするもんだ」

小学6年生のとき、学校で行った遠足。
伊勢神宮に参拝するときに拾った号外に、父の写真が出ていた。
思想犯。戦時中に戦争反対を叫んだため、捕まった。
召集令状が来た檀家の若者には
「いいか、卑怯だって言われても生きて帰ってくるんだぞ。死ぬんじゃない。死んじゃだめだ。それから、できるだけ相手も殺すな」
父のせいで、等はいじめられた。
家に帰って母に訴えると、こう言われた。
「人間はみんな平等。同じでなくちゃいけない。金持ちと貧乏人が区別されている世の中、おかしいだろ。お父さんはただ、差別のない世の中、戦争がない世界がいいって言っているだけなんだよ。間違ってないだろ?」
等は、朝早く起きて、警察にとらわれている父に弁当を届けた。
学校が終われば檀家まわりをやって、お経もあげた。
人前で大声を出す。そんな度胸がついていった。
等の兄は、天才肌で父ゆずりの無鉄砲。
博打に喧嘩、母を泣かせた。でも等は兄が大好きだった。
兄に赤紙が来た。
出征する前、等に言った。
「いいか、オレみたいになるなよ。おまえはおまえらしく、生きろ」
兄は、戦地に散った。21歳だった。
戦地から、手紙が届いた。
『内地ではお母さんに親不孝なことばかりして、心配のかけ続けでした。本当に申し訳ありませんでした。お許しください。お母さん、いつまでもお元気で』
母が泣き崩れるのを、等はじっと見ていた。

父の収入がなくなり、小学6年生の植木等は、東京のある寺に預けられることになった。
三重から東京まで母がついてきてくれた。
不思議と寂しさはなかった。
息子を不憫に思ってか、母が銀座で白い帽子を買ってくれた。
でも、お堀を見ていると一陣の風が吹き、帽子を飛ばされてしまう。
母に怒られた。
寺の住職や先輩たちに挨拶する母の後ろ姿を覚えている。
「ぼーっと育ててきたものですから、気はききませんし何もできませんが、どうぞ、どうぞよろしくお願いします」
頭を下げた。何度も頭を下げた。
母が汽車に乗って手を振ったとき、号泣した。
住職は、平等を重んじる僧侶だった。
彼は弟子たちに言った。
「世の中には、たくさんの川がある。いろんな川がある。でも、海に流れ込んでしまえば、たちまち平等な海水になるんだよ」
つらい修行に、等は耐えた。
彼は父とも兄とも違う、おだやかで腹を立てない人間だった。
5年間の修業時代で培ったものは、忍耐力と、自分で自分を守る力。
どうやって自分を守るか。シンプルによりシンプルに。
たくさんのものを抱えていては、戦うときに空いている手がない。
コメディアン・植木等は、どんなに有名になっても、清貧を重んじた。
過度に持ちすぎない。
そして常に大切にしたのは、平等であること。公平であること。
どんな小さな仕事にも、手を抜かなかった。
彼の心には、父が、兄が、母が…そして幼い頃の風景が生きている。

【ON AIR LIST】
スーダラ節 / ハナ肇とクレイジーキャッツ
ウンジャラゲ / ハナ肇とクレイジーキャッツ
学生節 / ハナ肇とクレイジーキャッツ
旅愁 with 谷啓(Trombone) / 植木等

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとキャベツのブレゼ

今回は、植木等の出身地・愛知県で多く収穫されている野菜、キャベツを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとキャベツのブレゼ
カロリー
175kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • キャベツ
  • 400g
  • ベーコン
  • 1枚
  • 4g
  • 1/2カップ
  • 黒こしょう
  • 適宜
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは、小房に分ける。キャベツは一口大にちぎる。ベーコンは細切りにする。
  • 2.
  • フライパンにキャベツ・霜降りひらたけ・ベーコン・塩の順に入れ、塩を溶かすように水を入れて、蓋をし中火で蒸す。
  • 3.
  • 4分程度火にかけたら、ざっくり混ぜ、更に3分程中火で蒸し煮する。
  • 4.
  • 器に盛り黒こしょうをふる。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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