yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百七十二話 純粋さを失わない -【日本の文豪篇】泉鏡花-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百七十二話純粋さを失わない

その名を配した文学賞が、50周年を迎える文豪がいます。
泉鏡花(いずみ・きょうか)。
先日、50回目の受賞作が発表された泉鏡花文学賞は、金沢市が1973年に制定したもので、地方自治体が主催の文学賞は当時全国で初めてでした。
鏡花は、1873年11月4日、金沢で生まれ、この街を生涯愛し続けました。
ただ、16歳で上京してからは、転居の連続。
湯島、麻布、浅草、神田、本郷、鎌倉と、落ち着きません。
尾崎紅葉(おざき・こうよう)に憧れ、小説家を志し、意気揚々と東京の地にやってきた鏡花は、世間の厳しさに打ちのめされます。
食べるものもない、寝る場所もない。
1年間の放浪生活に見切りをつけるときがきました。
ただ、ひとつだけ心残りがありました。
憧れの大作家・尾崎先生に、せめてひと目会いたい。
明治24年10月19日。もうすぐ18歳になる泉鏡花は、早朝の神楽坂通りを、ひとり歩いていました。
木綿の着物に書生袴、色は白く、痩せていて小柄。
眼鏡は、興奮のためか曇っています。
目指すは、牛込横寺町にある、尾崎紅葉先生の家。
神楽坂を歩いていると、不思議と心が落ち着いていきました。
坂や路地の風景が、ふるさと・金沢に似ていたからかもしれません。
「食べるのにも困るありさまなので、もう故郷に帰ろうと思います。ただ、一度だけ先生のご尊顔を拝したく…」
鏡花がたどたどしくそう話すと、尾崎は言いました。
「おまえも、小説に見込まれたな。都合ができたら、世話をしてやっても良い」
少年・鏡花の純粋な小説への想いが、尾崎の心をうったのです。
玄関先のわずか二畳の部屋をあてがわれ、鏡花は、尾崎邸で暮らすことになります。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)、妖怪や化け物、異界との境界線を描く幻想小説を得意とした鏡花ですが、異形の者たちの人間らしさや、純真な人間への救いの手が印象に残ります。
彼は、いかにして自らの純粋さを守ったのでしょうか。
今もなお、多くのファンを魅了してやまない唯一無二の文豪・泉鏡花が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

文豪・泉鏡花の父は、代々加賀藩に仕えた系譜の、腕の立つ彫金師。
母は、やはり加賀藩専属の能楽師の家系だった。
幼い鏡花は、母に甘え、母にまとわりつく。
本の楽しみや、物語の豊かさを教えてくれたのは、母だった。
しかし、9歳のとき、その母が亡くなる。
その喪失感は、生涯、鏡花の心から消えることはなかった。
この世ではなく、あの世に母がいる。
そう思うことで、なんとかバランスを保つ。
異界…ここではない世界への興味は、そうして生まれた。
母への純粋な思いを、彼は物語で包むことを覚える。
鏡花は、人一倍怖がりで潔癖症だった。
雷が大嫌い。大きな音に敏感で、埃や汚れにも神経質。
他の子どものように、泥だらけで遊ぶことができない。
暗がりに、何かが潜んでいるような思いがあふれると、怖くて遠回りした。
人生を図太く生きられない繊細さは、他の子どもからのからかいの対象になったが、そこに創造の種が植えられた。
夜は母を思い、ひとり、泣いた。
「お母さん、お母さんは今、どこにいるの?」

小説家を志して、師匠の尾崎紅葉の家に世話になっていた泉鏡花は、必死に書いた。
寄席に通い、街を散策し、日常の中に、幻想の萌芽を探す。
19歳でようやく新聞に連載が決まり、喜んでいたのもつかの間、金沢の実家で火事が発生。家は、全て焼けてしまう。
さらに、2年後には父が他界。
生活は困窮し、金沢に戻る。
せっかくチャンスがめぐってきたのに…。
心配性の鏡花には、明るい未来が想像できない。
「このまま小説が書けなくなるなら…」
夜遅く、百間堀でお堀の水辺を眺める。
水面に、半分に欠けた月がゆらめく。
「ここに飛び込んでしまえば…お母さんがいる異界にいけるかな…」
そんな思いが頭をかすめた。
でも…急に物語が動き出す。
「もし、ここで川に身投げする女性がいたら…僕は助けるだろうか…助けた女性となんらか関りを持つのだろうか…」
登場人物を水辺に落とすことで、我が身を救う。
泉鏡花は、おのれの繊細さ、悲観的な思いを作品にすることで、消し去る術を覚えた。

家計の苦しさで小説家の夢を諦めかけていた泉鏡花。
心配した師匠・尾崎紅葉は、すぐに金沢に送金した。
再び上京した鏡花は、名作『外科室』を世に出した。
麻酔を拒否して手術を受ける伯爵夫人と、執刀医の隠された純粋な思いを描いた問題作。
この小説は、1992年、監督・坂東玉三郎、主演・吉永小百合で映画化され、話題になった。
今も泉鏡花の代表作のひとつとして、読み継がれている。
さらに、27歳の時に書いた『高野聖』で、幻想小説の大家として存在感を示す。
『高野聖』は、奇妙な小説である。
山奥を旅する僧侶は、なぜ妖艶な女性に化けた妖怪からの難を逃れることができたか。
妖怪は、川辺で白い肌を見せ、男を誘惑する。
誘惑に屈した男は、牛か馬、あるいはヒキガエルかコウモリに姿を変えられてしまう。
僧侶は、女性に化けた妖怪を見たとき、邪心なく、こんな言葉を発する。
「白桃の花だと思います」
妖怪は、僧侶の心が純粋で、感じたままを発したことを知り、彼を見逃す。
作者・泉鏡花は、純粋さを守ることが、この俗世間を生き抜く最良の道と説いた。
ひとの心を動かすのは、流麗な美辞麗句でも読心術でもなく、純粋な心であることを、己の生涯を通して証明した。

【ON AIR LIST】
あの紫は(『子供の国』より) / 泉鏡花(作詞)、中村健(テノール)
宇宙図書館 / 松任谷由実
無伴奏チェロ組曲第6番~サラバンド / J.S.バッハ(作曲)、ヨーヨー・マ(チェロ)
スザンヌ / レナード・コーエン

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと里芋・れんこんの揚げだし

今回は、金沢で盛んに栽培されている食材、れんこんを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと里芋・れんこんの揚げだし
カロリー
322kcal (1人分)
調理時間
25分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 里芋
  • 2個
  • れんこん
  • 50g
  • 片栗粉
  • 大さじ2・1/2
  • 適量
  • 大根おろし、万能ねぎ、糸唐辛子
  • 適量
  • <合わせだし>
  • だし汁
  • 300ml
  • しょう油
  • 大さじ1
  • 大さじ1
  • みりん
  • 大さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、里芋は皮をむき、10分ほど下茹でする。
  • 2.
  • れんこんは5mm幅の薄切りに食べやすい大きさに切る。
  • 3.
  • 里芋、れんこんに片栗粉をまぶし、深めのフライパンに2cmほどの油を入れ、里芋、れんこん、霜降りひらたけをさっと揚げる。
  • 4.
  • 合わせだしの材料を鍋に入れて、中火にかけ沸いたら火を止めて、(3)を加える。
  • 5.
  • 器に盛り、大根おろし、万能ねぎ、糸唐辛子をのせる。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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