yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第七十二話 自分の値打ちを把握する感性を持つ -【神戸篇】 作詞家 阿久悠-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第七十二話自分の値打ちを把握する感性を持つ

今年、神戸は、港が開いてから150周年。
神戸港は、日本の近代化を牽引し、さまざまな文化が交わる中心地でした。
しかし、この神戸にも受難のときが何度もありました。
記憶に新しいのは、1995年1月17日の阪神・淡路大震災。
このとき、神戸復興のために立ち上がり、復興の唄を作詞した、日本を代表する作詞家がいました。
阿久悠。
兵庫県淡路島に生まれた彼は、瀬戸内を愛し、神戸を愛しました。
都はるみの『北の宿から』、沢田研二の『勝手にしやがれ』、ピンク・レディーの『UFO』。
そのヒット作は、枚挙にいとまがありません。
日本レコード大賞の受賞は史上最多の5回。
シングルレコードの売り上げは6,800万枚を越え、小説『瀬戸内少年野球団』は、直木賞候補にもなりました。
ただ彼の詞は、従来の歌謡曲の底辺に流れていた、いわゆる日本的な故郷を想う湿った感性とは無縁でした。
津軽海峡を唄っても、北の宿に心を寄せても、そこには常に、旅人の視線があるのです。
「この場所は、やがて去るときがくる」。
そんな諦念とも思える哀しさと潔さ。
淡路島で巡査をしていた父親は、島のあちこちの駐在所を移りました。父は言いました。
「友達とは仲良くしろ。しかし、別れるときに辛くない程度に仲良くしろ」。
作詞家、阿久悠は、ひとつの故郷を持たないかわりに、たくさんの故郷を内に育てたのかもしれません。
彼は感性を大切にしました。
エッセイで彼はこんなふうに書いています。
「人間が守らなければならないのは、うまく生きる術ではなく、自分の値打ちを正確に評価する感性だ」。
今も、我々の心をつかんで離さない詞を書き続けた、作詞家で作家の阿久悠が、人生で見つけた明日へのyes!とは?

日本を代表する作詞家、阿久悠は、1937年2月7日、兵庫県淡路島に生まれた。
父は兵庫県警の巡査。駐在所勤務で、島の中を転々とした。
生まれた年には日中戦争、物心ついたときには太平洋戦争。
幼いときの記憶にはいつも戦争があった。
暗い世相は当たり前だった。
戦後になってみんなが流行歌を歌うようになって初めて、自分の幼少期が闇の中だったことを知る。
終戦の1か月前、兄が19歳で戦死した。
兄が残したたった一枚のレコードは、高峰三枝子の『湖畔の宿』だった。
17歳のとき、兄は突然神戸に行き、そのレコードを買ってきた。
何度も何度も蓄音機で聴く兄の後ろ姿。
あるとき、聴くのをやめ、阿久悠に振り返り、こう言った。
「これ、おまえにやる」。
以来、そのレコードは阿久悠の宝物になった。
戦後の貧しさの中、彼の心をとらえて離さなかったものがある。
「ラジオ」だった。
茶の間の茶箪笥の上に鎮座したラジオ。
それは世界を知る唯一の魔法の箱だった。
家族で聴いた。別にラジオを見なくてもいいのに、みんなでラジオを見つめながら、聴いた。
そうでもしないと、正しく体の中に入らないような気がしたからだ。
阿久悠の想像力や感性は、こうして育まれていった。

作詞家、阿久悠は、中学2年の春、結核になった。
当時結核は不治の病ではなくなっていたが、栄養とストレプトマイシンはお金がかかり、家に負担をかけた。
発病してからの4か月は地獄だった。
絶対安静。梅雨時で足の裏にカビが生えた。
こっそりお風呂に入る。毎日、天井を見て暮らした。
医者からは、決してはしゃぐな、興奮するな、激してはいけないと言われた。
阿久悠は考えた。
「胸を破らないように、それでも激しい感情を持ちつつ生きる方法はないか」。
もはや知性と体力のバランスは崩れた。
ならば、感性を磨こう。
自分ではできないスポーツも予測不可能な芸術と見れば、自らの中に激情を育てることはできる。
「文章を書くか、絵を描くかしかないかもしれない」。
阿久悠青年は、そう思った。

作詞家、阿久悠は、結核を乗り越え、高校を卒業した。
もともと淡路島にずっといる気持ちはなかった。
東京に出る。そう決めていた。
明治大学文学部に入る。死ぬほど映画を観た。
貸本で本を読みあさった。言葉を求め、言葉を留めた。
のちに阿久悠は、課外授業で小学生たちに向き合うとき、こんな詩を贈った。
「たくさんの言葉を持っていると、自分の思うことを充分に伝えられます。たくさんの言葉を持っていると、相手の考えることを正確に理解できます」。
大学を出ると、広告会社に就職した。
コピーを書いても、企画書を書いても、CMの絵コンテを画いても、優秀だった。
でも、どうにも自信につながらない。
彼はそのときの気持ちをこう言っている。
「泳いでいる分には達者だが、飛び立つには力も度胸も足りない水鳥の焦り」。
そんなとき、「ラジオの台本を書きませんか?」という依頼が来る。
サラリーマンをしながらの副業。
体はきつく、胸が壊れ、血を吐くかと思うほどのハードな毎日を過ごす。
でも、その先に、自分がやっと自信を持てる光が待っていた。

作詞家。
「白い蝶のサンバ」、「笑って許して」、「ざんげの値打ちもない」など、ヒットを連発。
今までの作詞界の常識を覆す作品に世間は飛びついた。
やっと自信が生まれてくる。
自分の値打ちが、少しずつわかってきた。
歌謡曲らしくない。それが誉め言葉に思えた。
阿久悠は、気づいた。いくらお金があっても、幸せにはなれない。
大切なのは、自分の値打ちに気づくこと。
それをつかむ感性を磨くこと。

【ON AIR LIST】
五番街のマリーへ / ペドロ&カプリシャス
時の過ぎゆくままに / 沢田研二
熱き心に / 小林旭
また逢う日まで / 尾崎紀世彦

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのバジル炒め

兵庫県淡路島に生まれた、日本を代表する作詞家、阿久悠。今回は、淡路島の特産物である、玉ねぎを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのバジル炒め
カロリー
74kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 玉ねぎ
  • 1/4個(50g)
  • 小さじ1/4
  • こしょう
  • 少々
  • オリーブオイル
  • 大さじ1
  • バジルの葉
  • 4~6枚
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。玉ねぎは横に薄切りにする。
  • 2.
  • フライパンにオリーブオイルをあたため、霜降りひらたけと玉ねぎを炒め、塩、こしょうで味をつける。
  • 3.
  • 霜降りひらたけに火が通ったら、バジルを手でちぎって加え、余熱でからませる。
  • ※(2)で白ワインを振るとさらにおいしい。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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