yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三十八話 真似る、捨てる、遊ぶ -【京都篇】 画家 伊藤若冲-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三十八話真似る、捨てる、遊ぶ

今年、生誕300年を迎えた、江戸時代の画家、伊藤若冲。
21世紀から始まった若冲人気はとどまるところを知らず、さまざまな場所で展覧会が開かれ、連日多くのひとが訪れています。
彼は京都の中心地、錦小路の青物問屋に生まれました。
京のひとが「錦」と呼ぶ錦市場には、今もたくさんのお店が連なっています。
彼の生まれた家は、青物問屋でした。
青物問屋とは、各地の生産者から野菜や果物を買い取り、それを仲買人に売るという商いです。
錦市場ではかなり大きな店でした。
錦小路の先の錦天満宮。石畳の商店街は、不思議な静けさが漂っています。
かつて若冲も、この通りを歩き、この静寂の中にいたのかと想像すると、まるでタイムスリップしたような気分になります。
京都の路地には、そんな特別な空気が流れているのです。
美術史家、辻惟雄は若冲を、奇妙、奇抜の奇に、想像力の想と書いて『奇想の画家』と呼びました。
ひたすら絵を画くことに一生をささげた若冲は、その画法において、先鋭的でした。
中国絵画を真似る。そこに彼独自の手法や視点を入れ込み、やがて今までの対象を捨て去る。
そうしてたどり着いた、遊びにも似たユーモアあふれる境地。
なぜ彼の絵画が時代を超え、こんなにも愛されるのか?
そこには彼が悟った明日へのyesがありました。
「真似て、捨てて、遊んだ」彼の生き方と絵画への思いとは?

今年、生誕300年を迎える画家、伊藤若冲は、1716年3月1日、京の街、青物問屋「枡屋」に生まれた。
小さいころから暇さえあれば絵を画いた。
23歳のとき、一家を支えていた父が亡くなり、いきなり家業を継いだ。
しかし、若冲は絵を画くこと以外に興味を持たなかった。
商売はもちろん、芸事にも関心はなく、酒も飲まず、生涯妻をめとることもなかった。
仕事をせずに、2年間、丹波の山奥にひきこもって絵を画いたという、実しやかな逸話まである。
40歳のとき、弟に家督をゆずった。
家は裕福だったので、アトリエを2軒かまえた。
いわゆる隠居生活が始まる。
彼は誰はばかることなく絵画に没頭した。

当時の絵画の画法の主流は、模倣、模写だった。
原画を模写した本をもとに、それをまた模写する。
若冲は、それに飽き足らなかった。
まずは原画が観たい。
あちこちの寺をめぐり、本物の色、筆遣いを感じた。
「真似る」ことにも命を注いだ。
44歳の若さにして大きな仕事を受ける。
鹿苑寺、いわゆる金閣寺の大書院の襖絵を画いた。
若冲の水墨画の代表作になった。
やがて彼は真似ながら、捨てていく。
ひとの模倣をしても、自分の模倣はしなかった。
彼は自らの絵で、見るものに伝える。
「成長を止めるのは簡単だ。昨日と同じことをすればいい」。

江戸時代の画家、伊藤若冲。
彼には、画僧、絵を画く僧侶という側面もあった。
頭を剃り、肉は食べない。絵を画く前に、水をかぶり、体を清めた。
幼い頃から学問もせず、字も満足に書けない。
旦那衆と遊ぶこともなければ、酒も飲まず、女性とつきあうこともなかった。
ただ、絵と向き合うことだけに真剣だった。
「今の絵は、教本を真似ているだけで、まったく物が画けてないんだと思う」。
そんな言葉が残っている。
若冲にとって物を画くとは、どういうことだったのか?
そこに仏教の思想があった。
彼が画く、色とりどりの動物や植物たち。
それは「この世に存在するものは全て仏の姿である」という思いに裏打ちされている。
さらに彼の絵の根底に漂うのが「諸行無常」とでもいうべき、教え。
命の躍動感、生き生きとした色彩と、水墨画に映し出されるもの、
「この世の全ての形あるものは、やがて、失われる」。
極彩色と、白黒の世界。
その対比こそ、彼の精神性であり、彼が見つめた人生だった。
「私は仏さまに向かって画くんです。だから目が濁っていてはいけない。いや、目だけではありません。心が濁っていては、画けないのです」

経済的には、ほとんど困らなかった伊藤若冲に転機が訪れたのは、彼が73歳のときだった。
天明の大火。
京都の町、およそ8割が焼けた大火事だった。
錦市場の実家も焼け、アトリエも失った。
若冲は、京都伏見の寺、石峰寺に身を寄せた。
60歳を過ぎた頃から、この寺と縁があり、自ら下絵を描いた五百羅漢像を寄進していた。
石段の先にある赤い門。
生い茂った竹やぶの中には、今もさまざまな表情の石仏が顔をのぞかせている。
彼は亡くなるまでの時間をここで過ごした。
通常で考えれば完全な隠遁生活。
それなりに名も売れ、数えきれない数の絵を画いてきた。
ここで余生を…。いや、若冲にかぎってそれはなかった。
彼はまるで水を得た魚のように、旺盛な創作欲で以前よりも挑戦を続けた。

長さ11メートルの絵巻に昆虫や両生類を画いた。
燃え盛る鶏のとさか、その頭の上にカマキリを画いた。
まるでコミックのような大胆な構図、動き。
遠目には模様に見えるが、そこに描かれる顔。
80歳を超えて画いたとされる、象とクジラが描かれた屏風の絵。
陸にいる象は、鼻をかかげ、海のクジラは真上に潮を吹く。
ユーモラスであり、スケールが大きい。
彼は進化を続けた。
絵の中で遊ぶように、画き続けた。
真似る、そしてあるとき捨てる。
全て、捨て去る。
そうして得られるもの。
それは本当に遊べる自由。
若冲は、万物の移ろいの中の尊さがわかっていた。
やがて消えていくものだからこそ、とことん愛しぬく。
とことん関わり、澄んだ目で見つめる。
彼の絵からこんな声が聴こえる。
「なにを小さなことでこだわっているんだよ。みんな消えちまうんだ。くよくよしなさんな。ただね、オレの絵が300年経った今も残っている理由が何かと尋ねられればこういうよ。オレは、真剣に真似た。真剣に捨てた。真剣に…遊んだ」

【ON AIR LIST】
Pictures Of Lily / The Who
色彩のブルース / EGO-WRAPPIN'
Heima / Sigur Ros

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとサーモンのバターポン酢炒め

色とりどりの動物や植物をユーモラスに描く、伊藤若冲。今回は、そんな若冲の絵のように色鮮やかな、この料理をご紹介します。

霜降りひらたけとサーモンのバターポン酢炒め
カロリー
238kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 生サーモン
  • 2切れ
  • パプリカ(黄・赤)
  • 各1/8個
  • ほうれん草
  • 1株
  • サラダ油
  • 小さじ1
  • バター
  • 20g
  • ポン酢
  • 大さじ2
  • 黒こしょう
  • 適宜
  • わさび
  • 適宜
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすい大きさにほぐす。赤、黄パプリカは一口大に切る。
  • 2.
  • ほうれん草は食べやすい大きさに切る。
  • 3.
  • フライパンにサラダ油を熱し、中火でサーモンを皮目からこんがり両面焼く。
  • 4.
  • (1)を加えて強火で焼きつけてから、弱火にし、ほうれん草・バターを加えてフタをする。
  • 5.
  • バターが溶けたところでフタを取り、中火にしてフライパンを揺すりながらポン酢を絡める。
  • 6.
  • 皿に盛りつけ、黒こしょうをかけ、わさびを添える。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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