yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百十八話 ひとつの笑いに命を賭ける -【茨城篇】いかりや長介-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第二百十八話ひとつの笑いに命を賭ける

今年、没後15年の偉大なコメディアンがいます。
いかりや長介。
ザ・ドリフターズのリーダーとして、生涯、コメディアンにはこだわりぬきましたが、彼には他にも二つの顔がありました。
ひとつは、ミュージシャンとしての顔。
もともとはハワイアンバンドのベーシスト。
ビートルズが来日したとき、ザ・ドリフターズとして前座をつとめ、『Long Tall Sally』を演奏しました。
そしてもうひとつが、織田裕二との名コンビが話題になった『踊る大捜査線』をはじめとする、俳優としての顔。
黒澤明監督の映画『夢』にも出演。
『踊る大捜査線 THE MOVIE』では、日本アカデミー賞 最優秀助演男優賞を受賞して、名わき役の座を不動のものにしました。
彼を最も有名にしたのが、伝説のバラエティ番組『8時だョ!全員集合』です。
16年間、ほぼ休むことなく続けられた毎週の公開生放送。
最高視聴率は、50%を越えました。
いつも真剣勝負。
作家やディレクターが考えるネタにダメ出しをしました。
「ウケるかどうかわからないけど、やってみようではダメなんだよ!」
時には、声を荒げることもあったと言います。
そんないかりやのルーツには、二人の人物がいます。
ひとりは、茨城県出身の祖母。
幼くして母親を亡くした彼は祖母に育てられました。
祖母は歌舞伎が好きで、ラジオの講談や浪曲、朗読ドラマをいつも聴いていました。
気がつけば、ラジオから流れてくる物語をそらんじられるほど、いかりや少年も影響を受けました。
そしてもうひとりが、彼の父親です。
築地の魚河岸で働いていた父親は、寄席や映画が大好き。
口も悪く、喧嘩っぱやいが、人情に厚い、憎めないキャラクター。
いかりやは、終生、我が父を誇りに思っていました。
父親は、いつも言っていました。
「笑いをなめちゃいけねえ。お客さんあっての笑いなんだ」
コメディアンのレジェンド・いかりや長介が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

ザ・ドリフターズのリーダーで知られる、いかりや長介は、1931年11月1日、現在の東京都墨田区に生まれた。
父親は、築地の魚河岸で軽子をやっていた。
軽子とは、競り場から仲買い、仲買いからお客の車へと手押し車で魚を運ぶ仕事。
魚は鮮度が命。
急ぐ。ひとをかき分け、進む。
もともとの性格がさらにせっかちになる。
喧嘩は絶えず、父は幼いいかりやに喧嘩の極意を教えた。
「いいか、みっともねえから、おまえ負けんじゃねえぞ。カッコいいのはな、上手に逃げることだ。適当なところで逃げるんだ。これに尽きる。相手をそこらへんにあるもんで威嚇する。でもな、相手を傷つけちゃあいけねえ。しこりが残るからなあ。何度かやりあったら、パッと逃げるんだ」
「勝たなくていいの?」
いかりやがそう尋ねると、「バカヤロ、目先の勝ちにこだわっても仕方ねえんだ。相手に恨まれるだけだ。逃げるがイチバンなんだ。要は、負けなきゃいいんだ」と答えた。
築地の仕事は午前中に終わってしまう。
父は昼から酒をちびちび飲んでいた。
いかりやが学校から帰ると、寄席に連れていってくれた。
そこで彼は、芸人と観客の不思議な絆を知ることになる。
寄席は、大切な人生の学校だった。

いかりや長介は、幼い頃、父と浅草の寄席に行った。
父は、芸人をしっかり見極める。
「あの喜劇役者は、ろくなもんじゃねえ。あんなやつはすぐダメになる」と言ったかと思うと、「あいつは、伸びるぜ」と応援した。
芸の未熟な芸人には「ひっこめ!」とばかりに無視する。
父はいかりやに言った。
「いいか、寄席っていうのは、こういうふうに見るもんなんだ。こうやって若いうちにツライ目に遭わせることで、オレたちは芸人を育てるんだよ」
子ども心に、いかりやは思った。
「笑いっていうのは、舞台と客席、両方でつくるものなんだ」。
そして、隣で手を叩いて笑う父を見るのが好きだった。
「バカだね、こいつはどうしようもねえよ」
と言いながら、父は幸せそうだった。
笑いって、すごいな。
誰かを笑わすって、すごいな。
父の笑顔は、いつまでも彼の心に残り続けた。
終戦直後、まだ幼いいかりやの弟が危篤になった。
往診に来た医者も首を振る。
泣き崩れる祖母に、父は言った。
「おい、諦めろ、もうダメなんだよ。仕方ねえよ」
でも、息をひきとる瞬間、父は涙を流しながら言った。
「あ、こいつ、いま笑いやがった…最期に…笑いやがった。オレの顔見て、笑いやがって…バカヤロ」
静かに泣き続ける姿を、いかりやはじっと見ていた。

いかりや長介が、工場を辞めてバンドをやりたいと言ったとき、父はいい顔をしなかった。
「食えりゃあいいけどよ、食えりゃあよう。堅気には堅気の生き方ってもんがあるんだよ」
いかりやは、やりたい衝動を抑えることができず、結局、家を出た。
その後、ザ・ドリフターズを結成。
まるで最初から決まっていたかのように、お笑いの道に入った。
『8時だョ!全員集合』。
番組終了後、時々、父から短い電話がきた。
「おい、見たぞ」
それだけ言って切れる。
電話がかかってきた放送のときは、父が笑ってくれたんだなと思った。
番組が終わるたびに、父の電話を待つ。
かかってこないので電話をかけてしまうと、義理の母が、「もう寝たよ」と取り次いでもらえなかった。
いかりや長介は、真剣だった。
笑いに、ひとを笑わすということに真摯に向き合った。
それは、父に教わった流儀だった。
いかりやは、こんな言葉を残している。
「遠くない未来に、素人いじりや他人をこき下ろすコメディがこの世からなくなることを信じている」

【ON AIR LIST】
Rock And Roll Music / The Beatles
ドリフのズンドコ節 / ザ・ドリフターズ
ドリフのピンポンパン / ザ・ドリフターズ
デービー・クロケットのうた / ザ・ドリフターズ
いい湯だな(ビバノン・ロック) / ザ・ドリフターズ

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけとさつまいものホットサラダ

今回は、茨城県で多く栽培され、今が旬でもある野菜、さつまいもを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとさつまいものホットサラダ
カロリー
333kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • さつまいも
  • 1本
  • ブロッコリー
  • 1/2株
  • ベーコン
  • 50g
  • オリーブオイル
  • 大さじ1
  • 【A】酢
  • 大さじ1
  • 【A】粒マスタード
  • 小さじ1
  • 【A】塩
  • 小さじ1/2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけとブロッコリーは小房に分け、さつまいもはよく洗い、厚さ5mmの半月切りにし、ベーコンは食べやすい大きさに切る。【A】は合わせておく。
  • 2.
  • フライパンにオリーブオイルを熱し、ベーコン・さつまいも・ブロッコリー・霜降りひらたけの順に炒める。
  • 3.
  • (2)に火が通ったら【A】を加えて和える。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる