yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第四十四話 孤高であること -【高知篇】 政治家 吉田茂-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第四十四話孤高であること

かつて5回も内閣総理大臣に任命された、宰相、吉田茂。
彼が父のふるさと高知から、初めて衆議院選挙に出馬したときのことです。
冬の冷たい風が吹いていました。
吉田は元来、選挙が嫌いで、演説も苦手だったといいます。
仕方なく街頭に立って、演説しようとすると、聴衆から野次が飛びました。
「おい!オーバーを脱げよ!」
とっさに吉田は、こう切り返します。
「うるさい!これが本当の、ガイトウ演説だ!」
このダジャレに、聴衆は湧きました。
一瞬で聴くひとを笑顔に変えた彼のユーモアは、総理大臣になったのちにも、大いに生かされることになります。
高知龍馬空港の片隅に、ひっそりとある吉田茂像。
平成24年、この場所に移されたそうですが、意外な気持ちになります。
かつて、より親しみやすい場所への移設が求められましたが、「坂本龍馬や板垣退助には遠く及ばない」と反対派の意見もあり、退けられました。
首相時代、地元高知県への利益誘導を求められるも、「私は日本国の代表であって、高知県の利益代表者ではない」と言い切った男。
その気概こそが、戦後の日本の再建に大きく貢献した生きざまでした。
時に雷を落とす頑固者、時にユーモアで周囲を笑わせる人情派。
葉巻に白足袋。
和製チャーチルと呼ばれた男の明日へのyes!とは?

吉田茂は、1878年、明治11年、東京・神田駿河台に生まれた。
父は、高知県で自由民権運動家をしていた竹内綱。
父・綱は、土佐の宿毛で生まれた。
もともとは下級武士の出身だったが、若くして政治家としての手腕を発揮。
地元を納めていた伊賀家の腹心になった。
のちに大蔵省に勤めながらも、土佐自由党の志士として、活躍した。
彼の性格は、いわゆる「いごっそう」。
土佐弁で、気骨のある頑固者をさす言葉だ。
その性格は、息子、茂に受け継がれた。

五男だった茂は、子供に恵まれなかった実業家、吉田健三の養子になる。
吉田健三は醤油会社の買収に始まり、貿易や地域開発事業を積極的に推し進め、富を築いた。
裕福な家族の一員になった幼い茂。
「若様」と呼ばれた。
義理の母から「茂は気位の高い子だ」と育てられたので、本当に気位が高くなったと、後に吉田茂は語っている。
義理の父、健三は厳しかった。
真冬でも足袋をはくことを禁じた。
朝は4時に起床。
使用人とともに屋敷内の掃除をさせた。
健三は、たとえば板垣退助を客人に迎えても、上座は譲らなかった。
いつも背筋をピンと張り、悠然としている養父の姿は、茂の目にやきついた。
茂が11歳のとき、健三は病に倒れ、急逝。
でも、茂は忘れなかった。
「いかなるときも、気高くあれ。己の価値は己が決める」。

養父の急逝にともない、吉田茂は、幼くして多大な遺産を受ける。
今の貨幣価値で、およそ100億。
そのお金を、よくいえば惜しげもなく、悪く言えば、湯水のように使った。
外遊し、舶来品を覚えた。
ひとに会い、ひとに使った。
晩年、大勲位菊花大綬章を授与されたとき、彼は養父・健三の墓前で、こんな言葉を言ったという。
「おとうさん、あなたの財産は全て使い果たしてしまったけれど、その代わり、陛下から最高の勲章をいただきました。どうか、それで許してください」

外交官になったとき、外務省に白い馬に乗って通った。
新米の身でありながら、ロールスロイスで通うようなものだ。
朝の出勤。馬の上から先輩に挨拶して顰蹙(ひんしゅく)を買った。
「なんだ、あいつは、生意気な!」
でも、吉田茂は、気にしない。
ときに傲慢とも思える豪快な言動は、終生、変わらなかった。
「ワンマン」と呼ばれた。
予算委員会で「バカヤロー!」と言って解散に追い込まれた。
しつこい新聞記者に水をかけた。
ステッキを振り回して、追い払ったこともある。
それでも彼の周りには彼を慕うひとが絶えることがなかった。
白洲次郎も、そのひとりだった。
おそらく白洲は見抜いていたに違いない。
吉田茂の強さの源。
それは、孤高であること。
ひとりから逃げないこと。

1945年、昭和20年8月15日の終戦から数日後、吉田茂は、孫の麻生太郎を連れて外に出た。
一面の焼け野原。うつろな表情の人々。
でも吉田は、しっかりした声で太郎にこう言ったという。
「見てごらん。必ず立ち直る。日本人は、必ず立ち直る」
GHQのマッカーサーとも対等にわたりあった。
「勝ちっぷりも大事だが、負けっぷりもよくないとダメだ」
そう心に決めていた。
「言うべきことは言い、あとは潔く従う」
GHQの司令本部の大きな部屋を、のっしのっしと歩きながら話をするマッカーサー。
吉田はつい噴き出した。
「貴様、何を笑う!」とマッカーサーが詰め寄ると、
「申し訳ありませんでした、司令官。いやなに、実際のところ、ライオンの檻の中で説教されているような気分になりまして、笑ってしまったんです」吉田が言った。
それを聞いたマッカーサーは、大笑いした。
「確かに。あなたはうまいことを言う」
豪放磊落(ごうほうらいらく)でありながら、ひとの気持ちに繊細だった。
強気を貫きながらもユーモアを忘れなかった。

鼻メガネ、白足袋、ステッキと並んで、彼の代名詞となったのが、葉巻だった。
1日、7本から8本。
「ヘンリー・クレイ」かハバナ産の「ラ・コロナ」以外は吸わなかった。
戦後の日本のマッチは火をつけるときに折れてしまうので、わざわざ英国から取り寄せた。
整髪料の「ピノー」と葉巻の香りが、いつも彼のまわりに漂っていた。
彼は色紙に言葉を頼まれると決まってこんな言葉を書いた。
『呑舟の魚、枝流に泳がず』
「舟を飲み込むほどの魚は、小さな川には住まない。志の高い人間は、つまらない人間とはかかわりをもたない」という意味だ。

亡くなる日の朝。
吉田茂は、付き添いの看護婦に「富士山がみたい」と言った。
大磯の自宅から富士山が見えた。
「いいねえ、富士山は、綺麗だねえ」
それが最期の言葉になった。
彼は、唯一無二、孤高である富士山が大好きだった。

【ON AIR LIST】
ONEMAN / 蓮沼執太フィル
Pride(In The Name Of Love) / U2
Hungry Heart / Bruce Springsteen
The Greatest Love of All / George Benson

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの焼きびたし

吉田茂の地元 高知県にちなみ、高知県の名産であるナスを使った、こちらの料理をご紹介します。

霜降りひらたけの焼きびたし
カロリー
327kcal (1人分)
調理時間
20分 ※冷蔵庫で冷やす時間を除く
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 100g
  • 長ナス
  • 2本
  • オクラ
  • 2本
  • ズッキーニ
  • 1/3本
  • サラダ油
  • 適量
  • おろししょうが
  • お好み
  • 【合わせ出汁】
  • 出汁
  • 350cc
  • 薄口しょうゆ
  • 70cc
  • みりん
  • 70cc
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、長ナス、オクラ、ズッキーニは食べやすい大きさに切る。
  • 2.
  • フライパンに(1)がひたるくらいの油を入れ、(1)を中火で揚げ焼きにする。
  • 3.
  • (2)を【合わせ出汁】に浸し、冷蔵庫で30分冷やす。
  • 4.
  • 器に盛り、おろししょうがをのせる。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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