yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第四百五話 自分に従う -【今年周年のレジェンド篇】小津安二郎-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第四百五話自分に従う

今年、生誕120年、没後60年を迎える、映画監督のレジェンドがいます。
小津安二郎(おづ・やすじろう)。
神奈川近代文学館では、先月まで回顧展が開かれていました。
この展覧会には、直筆の日記や台本、小津が愛用した、丸いツバ付きの白い帽子、ピケ帽も展示されていました。
1903年12月12日生まれの小津は、還暦を迎えるちょうどその日に、60年の生涯を閉じました。
彼の映画人生を映し出す、言葉があります。

「なんでもないことは、流行に従う。
重大なことは、道徳に従う。
芸術のことは、自分に従う」

実際、小津のフィルム製作へのこだわりは、並大抵のものではありませんでした。
俗に「動の黒澤、静の小津」と言われるとおり、アクションシーン、活劇にドラマティックな展開を得意とした黒澤明に対して、小津は、ささやかな日常、親子の情愛や生きることの哀しさを、ローポジション、短いセリフ、計算されたカット割りで、静かに描き切りました。
ハリウッド映画に影響を与えた黒澤と、ヨーロッパやアジア映画に影響を与えた小津。
二人の巨匠の作品を比べれば、小津安二郎が言った、「自分に従う」という意味が見えてきます。
ただ、己の芸術観を押し付けるためだけの『小津調』ではありませんでした。
当時の撮影に関わったひとの証言によれば、ローポジション、カメラの低いアングルは、観客への配慮からだったことがわかります。
まず、観客を見下して作っているわけではないということ、そして、大スクリーンの1階席。
もっとも映画に没入できるポジションが、この位置だったからだ、ということ。
小津は「わかりやすく」「親切に」を、大切にしたのです。
そうした「優しさ」は、小津映画全編にあふれ、ささいな目線ひとつで、観客はフィルムの向こうの登場人物たちに感情移入し、涙を流すのです。
頭を垂れ、より低い位置から命を見つめた、日本映画界の至宝・小津安二郎が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

巨匠・小津安二郎は、1903年12月12日、東京、深川に生まれた。
生家は、伊勢松阪の伊勢商人の家系。
父は無口で厳しかったが、母は優しく慈愛に満ちていた。
3歳のとき、小津が髄膜炎で3日間生死の境を行き来したとき、母は「私の命にかえても、この子を守ります!」と寝ずの看病をした。
小津は、その優しさの大半を母から譲り受け、終生、母を敬愛し続けた。
深川には、小津橋という橋が架かるほど、小津家の隆盛は際立っていた。
当時としては珍しく、幼稚園に通う。
しかし、「子どもは田舎で育てるのがいい」という父の教育方針で、小学4年生のとき、三重の松阪に引っ越す。
松阪の町は、小津少年にとって、刺激的な場所だった。
迷路のように路地が走る城下町。
通学路の途中に遊郭があったため、遠回りをして通う。
川があり、神社があり、チャンバラごっこに最適だった。
そして、小津にとって、運命的な建物が近くにそびえていた。
『神楽座』。
彼はのちに、脚本家・野田高梧(のだ・こうご)にこう語った。
「もし、この小屋がなかったら、僕は映画監督になっていなかったと思う」

松阪の神楽座は、もとは芝居小屋。
1921年に映画館として生まれ変わる。
小津安二郎は10代の多くの時間を、この神楽座で過ごした。
真っ暗な空間に入るだけで、ワクワクする。
映し出される大スクリーン。
そこに躍動する人間たち。
感情をゆさぶる音楽。
大人も子どもも、裕福も貧乏も関係ない。
暗闇の中で、みなが等しく笑い、泣いた。
「映画はすごい、映画って素晴らしい」
小津の真の学校は、神楽座だった。
学業は優秀。
体格も大きく、柔道、野球、相撲。運動も得意だった。
さらに絵の才能も抜きんでていた。
植物を描く時、先生のアドバイスには耳をかさず、ひたすら自分の画角を追い求める。
主人公の草木をどの位置に置くか、彼には揺るぎない意志があった。
宇治山田の旧制中学に入学。全寮制。
ここで、のちの人生に大きな影響を及ぼす、事件が起こる。

小津安二郎が、宇治山田の中学5年生だったとき、事件が起きた。
下級生の美しい少年にラブレターを送った同級生がいて、処罰を受けた。
それに関与したと罪をきせられる。
理不尽な停学処分。
さらに、日頃から折り合いの悪かった寮の管理人、舎監に、寮を出て行けと言われる。
ひとの悪意に直接触れたことがなかったので、ショックは大きかった。
この舎監を、小津は生涯、憎み続けることになる。
こうして小津は、長距離の電車通学を余儀なくされた。
同級生とも距離ができる。
手のひらを返したように、そっけなく接する友人たち。
世界が一変した。
学校が嫌になる。
通学せずに、映画館をはしごした。
映画だけが、心のよりどころだった。
映画は闇にありながら、小津を闇の道にいざなうことはなかった。
むしろ暗闇に、いつもひとすじの光を照らし続ける。
人間は、本来、優しい。
人間には、自分のことより誰かを思う力がそなわっている。
小津自身がもともと持っている優しさに水や養分を与え、育てていく。
学校からは外れたが、心は健全に保たれた。
高校には、落ち続ける。
浪人時代に、三重県の山間の村で代用教員をやったときも、子どもたちに純粋で真っ白な心で接した。
自分さえ守れていれば、大丈夫。
迷ったら、自分に従えばいい。
小津安二郎の場合、その指標が映画だった。
彼はのちに語った。
「しかし、世の中なんて、みんなが寄ってたかって複雑にしてるんだな。
案外、簡単になるもんさ」

【ON AIR LIST】
主人は眠る / フォスター(作曲)、ナット・シルクレットとヴィクター・オーケストラ
(小津安二郎監督の映画『東京物語』挿入歌)
花売り娘 / ラケル・メレ
(チャールズ・チャップリンの映画『街の灯』挿入歌)
恋するふたり / 大滝詠一

★今回の撮影は、江東区古石場文化センター内にあります、「小津安二郎紹介展示コーナー」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
開館時間など、詳しくは公式HPにてご確認ください。
江東区古石場文化センター 小津安二郎紹介展示コーナー HP
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとアスパラガスのオイスターソース炒め

今回は、初夏が旬の野菜、アスパラガスを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとアスパラガスのオイスターソース炒め
カロリー
145kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 牛もも肉(薄切り)
  • 80g
  • アスパラガス
  • 4本
  • 長ねぎ
  • 5g
  • サラダ油
  • 大さじ1
  • 【A】オイスターソース
  • 大さじ1/2
  • 【A】しょう油
  • 大さじ1
  • 【A】酒
  • 大さじ1/2
  • 【B】片栗粉
  • 小さじ1/2
  • 【B】水
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。牛肉は一口大に切る。アスパラガスは下の固い部分の皮をむき、固めに茹でて、長さ3cmに切る。長ねぎはみじん切りにする。
  • 2.
  • フライパンにサラダ油を熱し、(1)を入れて炒める。
  • 3.
  • 霜降りひらたけに火が通ったら【A】を加えて絡め、【B】でとろみをつける。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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