yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百五十五話 心の右肩を上げて歩く -【奈良篇】映画監督 溝口健二-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百五十五話心の右肩を上げて歩く

たびたび奈良を撮影場所に選んだ、日本映画界のレジェンドがいます。
溝口健二(みぞぐち・けんじ)。
1952年、ヴェネチア国際映画祭で国際賞を受賞した『西鶴一代女』も、冒頭の荒れた寺は奈良で撮影されました。
時は江戸時代。モノクロの画面に映しだされる、奈良郊外の寺。
そこで、つかの間の暖をとるのは、お客にあぶれた娼婦たちです。
その中のひとり、田中絹代扮するお春は、ふらふらと羅漢堂に入り、頭上高くまで並んだ五百羅漢を見つめます。
羅漢像に、かつての男たちの面影を重ねたお春は、齢・五十になった自分のこれまでの人生を振り返るのです。
封建制度に抗って生きる女性の心の行方が、流麗なカメラワークで描かれていきます。
溝口健二の真骨頂と言えば、「ワンシーン・ワンカット」。
長回しは、出演俳優たちへの最大のプレッシャーになり、現場の緊張感は、はかりしれません。
でも溝口は、一回きりの真剣勝負、長回しにこだわりました。
一切の妥協なく、人間の本質をえぐる気迫に、俳優やスタッフは圧倒されたといいます。
溝口の映画にいち早く衝撃を受け、影響を受けた映画監督に、ジャン=リュック・ゴダールがいます。
彼は、インタビュアーに「好きな映画監督を3人あげてください」と聞かれ、こう答えました。
「ミゾグチ、ミゾグチ、ミゾグチ」。
溝口健二と数多くの映画で組んだ脚本家・依田義賢(よだ・よしかた)は、執拗なダメ出しもめげず、溝口作品を支え続けました。
依田の著書『溝口健二の人と芸術』には、カリスマ性にあふれた映画監督の、人間臭くも哀しい一面が綴られています。
溝口は、ひとになめられないように、幼い頃から、右肩を上げて歩く癖があったそうです。
どんなことがあっても、自分が納得するところまで行きたい。
そのためには、自分を大きく見せることも、自分の弱さを隠すことも、必要だったのかもしれません。
小津安二郎、黒澤明と並ぶ、日本の名監督・溝口健二が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

ヴェネチア国際映画祭で、3年連続受賞の快挙を成し遂げた名監督・溝口健二は、1898年5月16日、東京・本郷区湯島、現在の文京区湯島に生まれた。
父は、根っからの江戸っ子の大工。
おひとよしで、世渡り下手。
商売の才覚もないまま、日露戦争の景気にあやかろうと、兵隊に雨合羽を売る商いを始めた。
方々に借金。
ようやく販売にこぎつけたとき、戦争が終結。
多額の負債だけが残った。
家は差し押さえられ、一家は、浅草に引っ越す。
溝口は、物心つく頃から、貧乏のどん底を味わった。
通っていた小学校には、一部、男女共学クラスがあり、溝口は、その共学クラスに選ばれた。
先生は、比較的性格の優しい生徒を選んだ。
共学クラスの男子は、男子クラスの生徒にいじめられた。
溝口は、喧嘩上等とばかり、右肩をあげて歩くことにする。
自分は貧乏で引っ込み思案、性格も決して強くない。
でも、だからといって、そこに屈するような生き方はしたくない。
こうして彼は、心の右肩も上げながら生きていく道を選んだ。

映画監督・溝口健二は、なんとか小学校を出たものの、進学するお金がない。
体を壊して療養しなくてはならず、奉公先も決まらない。
ようやく15歳で、浴衣の図案屋に弟子入りする。
幼い頃から絵を画くのが好きだった。
でも、浴衣の図案を画いても、心が沸き立つことがない。
もっともっと、絵が学びたい。
浜町の絵師に弟子入りするが、ここでも物足りなさを感じてしまう。
そんなとき、母が亡くなった。
父に振り回され、貧乏に己の身体をすり減らした母。
母は、父に殺されたも同然だ。父を憎んだ。
父が、「絵なんて食えねえよ、さっさと実入りのいい仕事、見つけやがれ!」と怒鳴ると、心の右肩をあげて、心に思う。
「一流の絵描きになってやる!」

日本を代表する映画監督のひとり、溝口健二は、17歳から22歳まで定職につかず、大好きな絵の傍らで日々を過ごした。
一度、名古屋で就職しかけるが、一日で東京に舞い戻る。
父への反発もあったが、自分が好きなことを極めたいという思いが強くなっていく。
図案の仕事などをしながら、黒田清輝(くろだ・せいき)の絵画研究所に通う。
浅草オペラに没頭し、寄席に通い、落語、講談を聞く。
図書館に通い、トルストイ、ゾラ、泉鏡花、夏目漱石など、古今東西の小説を片っ端から読んだ。
短歌を詠み、新劇にのめりこむ。
この5年あまりの日々が、のちの溝口健二をつくった。
何者でもないが、何者かになろうと、もがく。
ともすれば、くじけそうになる気持ちを、心の右肩を上げることで耐え抜く。
やがて、琵琶を教えていた友人の口利きで、映画の撮影所に出入りするようになり、今まで学んだことがすべていきる聖地に出会うことになる。
溝口は、脚本のダメだしの時、依田義賢にこんな言葉を投げた。
「もっと力にみちていることだよ。もっと深く掘り下げていただくんですな。人間を描いてもらいたいんだよ。人間をぶったぎって断面だけを描くんじゃなしに、まるごとですよ」
映画監督・溝口健二は、自らの心を常に奮い立たせ、人間を描き切った。

【ON AIR LIST】
女たち / 曽我部恵一ランデヴーバンド
THE OTHERSIDE / Bobby Oroza
DOWNTOWN BOY / 松任谷由実

★今回の撮影は、奈良県の「般若寺 ~コスモス寺~」様、滋賀県彦根市の「天寧寺」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
般若寺 ~コスモス寺~ HP
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと彩り野菜の甘酢炒め

今回は、奈良で盛んに生産されている野菜、なすを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと彩り野菜の甘酢炒め
カロリー
109kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • なす
  • 2本
  • パプリカ
  • 1/2個
  • ごま油
  • 大さじ1
  • 【A】しょう油
  • 大さじ1
  • 【A】砂糖
  • 大さじ1
  • 【A】酢
  • 大さじ1/2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。
  • 2.
  • なすは長さを3等分にして縦十字に切り、パプリカは一口大に切る。
  • 3.
  • フライパンにごま油を熱して、なすを皮側から炒める。
  • 4.
  • 火が通ってきたら、(1)、パプリカを入れてさっと炒める。【A】を回し入れて絡め、火を止める。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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