yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百六十二話 痛みに向き合う -【愛知篇】画家 フリーダ・カーロ-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百六十二話痛みに向き合う

愛知県 名古屋市美術館に、『死の仮面を被った少女』という絵が所蔵されています。
この絵を画いた世界的に有名な画家の名前は、フリーダ・カーロ。
彼女の作品を所蔵しているのは、日本で名古屋市美術館だけと言われています。
『死の仮面を被った少女』は、奇妙な絵画です。
縦長の絵の左側には、ピンクのワンピースを着た少女が、マリーゴールドを一輪持って立っています。
ただ、この少女は髑髏(どくろ)のような死の仮面を被っていて、彼女の傍らには、虎のお面が置かれているのです。
メキシコでは、マリーゴールドは死者を無事に導く花として墓地に供えられ、死の仮面は「死者の日」の祭礼に用いられるもの。
さらに虎のお面は、子どもを魑魅魍魎(ちみもうりょう)から守る、魔除けとして使われています。
フリーダ・カーロは、流産で亡くした我が子への思いを、この絵に託しました。
事故や病で著しく損傷した、自分の身体。
そのせいで、子どもを亡くしてしまった…。
その失意と無念は、彼女の心に耐えきれぬ痛みを与えました。
フリーダの47年の人生は、まさに、痛みとの格闘でした。
幼い頃の病、さらには交通事故による脊髄や骨盤へのダメージ。
生涯で30回を超える手術を重ね、絵画制作のほとんどを、病床や、椅子に座ったままで続けたのです。
今年6月末から7月にかけて、日本のオリジナルミュージカル『フリーダ・カーロ -折れた支柱-』が上演されました。
連日満員御礼で話題になりましたが、今も、彼女の絵画、彼女の生き方は、多くのファンを魅了してやみません。
没後68年を迎えても、なぜ、彼女がこれほどまで支持されるのか。
それは彼女が、どんな時も痛みと向き合い、自らの痛みから逃げなかったからではないでしょうか。
メキシコが生んだ唯一無二の画家、フリーダ・カーロが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

20世紀前半に最も活躍した画家、フリーダ・カーロは、1907年7月6日、メキシコシティ南西の街、コヨアカンで生まれた。
父は、ドイツから移民したハンガリー系ユダヤ人。
母は、インディオの血をひくメキシコ人。
フリーダが幼年期を過ごし、さらには終の棲家となった生家は、外壁が真っ青で「青い家」として、現在も「フリーダ・カーロ記念館」として公開されている。
フリーダが産まれてすぐに、メキシコ革命が勃発。
職業カメラマンとして成功していた父は、一瞬で職を失う。
裕福な暮らしは一変。貧困が一家を襲った。
母が病弱だったため、フリーダは乳母に預けられる。
母の愛を知らずに育ったことは、終生、彼女の心に影を落とした。
6歳の時、小児麻痺を患う。
9か月に及ぶ、入院。痛みと不安に満ちた、寝たきりの生活。
右足は、棒のように細くなった。
小学校では、友だちにからかわれ、いじめられた。
フリーダは、細い右足を隠すため、いくつも靴下を重ね、長いスカートをはいた。
父は、言った。
「大丈夫だ、フリーダ。水泳にサッカー、レスリング、運動をすればすぐに足は元通りになる」
さらに、右足の訓練のために、自転車をこがせた。
街を、必死の形相で自転車をこぐフリーダ。
いじめっ子たちは、そんなフリーダに石を投げ、笑った。
フリーダは、負けていない。
大声で言い返し、泣きながらわめき、自転車で突っ込んだ。
「わたしは、好きでこんな体になったんじゃない!」

メキシコの偉大なる画家、フリーダ・カーロのリハビリは続いた。
娘を溺愛していた父は、幼い我が子が不憫だった。
スポーツをさせても、思うように右足は復活しない。
父は焦ることをやめ、娘をハイキングに連れ出すようになった。
野山を歩く。ゆっくり歩く。
やがて父は、フリーダに写真を撮ることを教えた。
さらに、草や木、空や湖をスケッチすることをすすめた。
水彩の絵具は、吹き抜ける風にすぐ乾いた。
「いいか、フリーダ、写真も絵も、フレームが大事なんだ。
フレームって、わかるか?
自分で枠を決めるんだ。
ここからここまで撮ろう、ここからここまで画こう。
そうだ、フレームは、自分で決めていいんだ」
自分で枠を決めていい。
それは、フリーダ・カーロにとって、まさにコペルニクス的転回だった。
「そうか…誰かの枠で生きてるから窮屈なんだ。
右足が細くたっていいんだ、これが私だから。
これが私のフレームだから」
それ以来、彼女は、自分とひとを比べることをやめた。

「自分だけのフレーム」に気づいたフリーダ・カーロは、もうひとつ、自らを守る術を得た。
それは、「もうひとりの自分」を創造すること。
彼女は、自分の部屋の窓に息を吹きかける。
そこに浮かぶ顔。
それは自分のようで、自分ではない、別の人格。
心の友だち。
毎日、話しかける。一日の出来事を話す。
やがて、窓の向こうの自分も話しかけてくれる。
創造する力は、やがて、現実世界ではありえない世界を具現化できるエネルギーになった。
絵を画いた。
苦しいとき、痛みに耐えかねるときほど、震える手で絵を画いた。
1925年9月17日、18歳の時。
小雨が降っていた。
通学で乗っていたバスが、路面電車に激突した。
多くの死傷者が出た。
フリーダの腰に、バスの手すりが刺さった。
せっかく復活した右足は、12か所骨折。
脊髄と骨盤が損傷。
生死の境をさまよう。
死が、ベッドの周りを何度も回った。
なんとか一命はとりとめたが、3か月にわたる寝たきり生活。
痛みと不安にさいなまれる日々が、再び訪れた。
病床に父が持ち込んだのは、絵具箱だった。
「筆なんか使わなくていい、指に絵具をぬりたくって、ただ、白い紙になすりつけてごらん」
父の言うとおりにする。
楽しかった。痛みを忘れることができた。
やがて、もうひとりの自分が現れ、言った。
「絵を画きなさい。
あなたは、絵を画くことで痛みから解放され、痛みにようやく向き合える」

【ON AIR LIST】
ロング・ゴーン・ガール / フロール・デ・トロアチェ
エル・コネッホ / ロス・コホリーテス
ラ・ジョローナ(泣き女) / チャベーラ・バルガス

★今回の撮影は、「名古屋市美術館」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
開館時間など、詳しくは公式HPよりご確認ください。
名古屋市美術館 HP
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとトウモロコシの黒胡椒炒め

今回は、メキシコ料理にも欠かせない食材、トウモロコシを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとトウモロコシの黒胡椒炒め
カロリー
141kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • トウモロコシ
  • 1本
  • 豚ひき肉
  • 50g
  • にんにく
  • 1片
  • しょう油
  • 小さじ2
  • オリーブオイル
  • 大さじ1/2
  • 【A】片栗粉
  • 小さじ1/2
  • 【A】水
  • 小さじ1
  • 黒こしょう
  • 適宜
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、トウモロコシは芯からはずす。にんにくはスライスする。
  • 2.
  • フライパンにオリーブオイル、にんにくを入れ炒める。
  • 3.
  • ひき肉を入れ完全にパラパラになるまで炒め、霜降りひらたけを加え、焼き色をつける。
  • 4.
  • トウモロコシを加えて炒め、しょう油を回し入れ、【A】でまとめる。
  • 5.
  • 仕上げに黒こしょうをふる。
  • recipe LIST

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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