yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百二十六話 軽々と、生きていく -【三重篇】松尾芭蕉-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百二十六話軽々と、生きていく

井原西鶴、近松門左衛門と並ぶ、元禄3文豪のひとり、松尾芭蕉は、伊賀国上野、現在の三重県伊賀市に生まれました。
伊賀の生まれ、しかも先祖には忍者もいたという史実から、芭蕉も忍者ではなかったのか、という説がまことしやかに語られています。
弟子の曾良(そら)との旅をまとめた紀行文「奥の細道」も、仙台藩の謀反を事前に知るための隠れ蓑ではなかったか。
事の真偽はともかくとしても、「奥の細道」の文学性の高さは、世界中からの評価が物語っています。

「月日は、百代の過客にして、行きかう年もまた旅人なり。舟の上に生涯を浮かべ、馬の口とらえて老いを迎うる者は、日々、旅にして、旅をすみかとす。古人も多く、旅に死せるあり」。
有名な冒頭部分でも書かれているとおり、当時の旅は、死ぬ覚悟で臨むものでした。
人生すなわち旅、という考え方は、芭蕉が思いついたものではありません。
唐の李白、日本の西行など、多くの歌人が人生を旅になぞらえていました。
では芭蕉の独創性は何処にあったのでしょうか?
それは、実践でした。自ら動き、旅をしてみて、実証していく。
あたりまえのようで、なかなかできないのが世の常なのです。
46歳でめぐったみちのくの地は、奇しくも、東日本大震災の被災地と驚くほど一致しています。
およそ、150日間の旅の果てに、芭蕉は二つの境地に辿り着きました。
ひとつは、不易流行。全ては変化しながらも、普遍であるという考え方。
そしてもうひとつが、軽み。人知を超えたことが起こりうる世の中だからこそ、できるだけ軽々と生きていきたい。
そんな祈りにも似た願いが、彼の心に舞い降りたのです。
俳句の神様、松尾芭蕉が私たちに教えてくれる明日へのyes!とは?

松尾芭蕉は、1644年、伊賀国上野に生まれた。
父は、位はかろうじて武士でありながら、生活のために農業をやらざるを得なかった。
12歳のときに父が亡くなり、いよいよ家計は逼迫(ひっぱく)する。貧しく、みじめだった。
芭蕉は父が仕えていた藤堂藩に奉公に出る。
この藤堂藩の藩主が、文学を重んじた。
よく気が付き、いつも謙虚な芭蕉は藩主に気に入られ、俳諧の手ほどきを受ける。
20歳のときには、選集に選ばれるほどに上達した。
俳句は、和歌に比べ、その地位が低かった。
でも、最小の言葉で世界を映し出す文学に、芭蕉は魅せられた。
伊勢では知らないひとがいないほどの実力を得た芭蕉は、江戸に出る。
粗末な家。狭い庭には雑草ばかりが生い茂る。
彼はここに、樹を植えた。それがバショウの樹だった。
バショウは、ほとんど実をつけない。
しかも、大きな葉っぱを揺らし、バタバタとうるさく、風に負けて穴があく。
そんな無様な姿が気にいった。
「俺は、恰好など気にしない。どんなに貧しくても、恰好悪くても、一生を文学に使いたい。どんなに破れても、葉っぱを大きく広げるこのバショウの樹のように、生きたい」。
彼は俳号を、芭蕉にした。松尾芭蕉は、こうして誕生した。

松尾芭蕉が俳句を読み始めた頃、俳句はまだ、言葉遊びの域を出ていなかった。
芭蕉の師匠の宗因が、「いま、お持ちします」と言われながら、なかなか出てこない雁(かり)という鳥の料理をまちわびる様を、こう読む。
「今こんと言いしば雁の料理かな」
句会は、大爆笑に包まれる。
でも、芭蕉は、どうしても笑えなかった。
「違う、俳句というのは、日本人の美の象徴だ。もっとある、俳句の可能性は、もっと他にある」。
芭蕉が隅田川のほとりの芭蕉庵で句会を開いたとき、外でポチャンと音がした。
芭蕉は「蛙(かわず)飛こむ水のおと」と詠んだ。
その上に、なんとつけるか…。
芭蕉はしばらく考え込み、「古池や」とつけた。
「古池や蛙飛こむ水のおと」
この句は、芭蕉を高みへと押し上げる、蕉風開眼の句と称賛された。
なぜ、すごいのか。それは、古池というのが、フィクションであり、芭蕉の心象風景であるからだ。
俳句は、事実や目の前の出来事、言葉遊びで終わるものではない。
想像を駆使して、心を描けるものなのだと、この句で証明した。
この句を詠んで3年後、松尾芭蕉は、旅に出ることを決意する。

世界的に有名な俳句の神様、松尾芭蕉は、46歳で旅に出た。
もしかしたら、二度と生きて帰れないかもしれないという覚悟を胸に。
深川を出て、日光から白河へ。
弟子の曾良とともに、神社仏閣を周り、身体を清めた。
そうして訪れたみちのくは、歌を詠む歌人たちが空想で歌枕にするほど、風光明媚な土地だった。
この行程は、東日本大震災の被災地と重なる。
芭蕉は、自分の目で見て、確かめた。
実際に目にする風景は、決して感動を生むものばかりではなかった。
自然に浸食され、さびれ、朽ち果て、空想だけの景色とは全く違った。絶望感がやってくる。
「俺が求めていたのは、これだったのか…」
でも、丁寧に心の目で、眺める。
そこには、命があった。季節があった。営みが息づいていた。
「そうだ、俺は自分の名を芭蕉とつけたじゃないか。恰好ばかりが人生ではない。ぶざまでも、枯れているように見えても、明日への新しい芽が生まれている。日本人は、美しいという言葉の本当の意味を知っているんだ。それは表面的なことだけではない。どんなに倒れても、崩れても、明日を想う強い心だ。ああ、俺は欲しい。何があっても平気で歩いて行ける、『軽み』がほしい」。
旅から戻った芭蕉は、およそ5年の歳月をかけ、「奥の細道」を推敲した。構成を変え、想像力で補った。
それはもう、紀行文ではない。文学だった。
彼が望んだ、最高の哲学書だった。
「人生は、つらい。いいことなんて、ひとにぎりだ。だからこそ、軽みを身に着けよう。軽々と宙を舞うように、歩いていこう。笑いながら」

【ON AIR LIST】
ブレーメン / くるり
ハミングバード / 斉藤和義
I Won't Give Up / Jason Mraz
旅立ちの唄 / Mr.Children

【撮影地】
蓑虫庵
http://www.basho-bp.jp/?page_id=46

芭蕉翁生家
http://www.basho-bp.jp/?page_id=40

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとアスパラガスのオイスターソース炒め

伊賀国上野、現在の三重県伊賀市に生まれた、松尾芭蕉。そこで今回は、伊賀の特産でもある、牛肉を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとアスパラガスのオイスターソース炒め
カロリー
113kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 牛薄切り肉
  • 80g
  • アスパラガス
  • 60g
  • 長ねぎ
  • 5g
  • サラダ油
  • 大さじ1
  • 【A】オイスターソース
  • 大さじ1
  • 【A】しょうゆ
  • 大さじ1
  • 【A】酒
  • 大さじ1/2
  • 【B】片栗粉
  • 小さじ1/2
  • 【B】水
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。牛肉は一口大に切る。
  • 2.
  • アスパラガスは下の固い部分の皮をむき、固めに茹でて、3cm長さに切る。
  • 3.
  • 長ねぎはみじんに切る。
  • 4.
  • フライパンにサラダ油を温め、長ねぎと霜降りひらたけ、アスパラガス、牛肉を入れて炒める。
  • 5.
  • 霜降りひらたけに火が通ったら【A】を加えてからめ、【B】でとろみをつける。
  • recipe LIST

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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