yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第九話 留まり続けるということ -建築家 ウィリアム・メレル・ヴォーリズ-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第九話留まり続けるということ

塩沢湖畔にある、軽井沢タリアセン。
その中に、威厳を放ち、姿を留めているのが、旧朝吹山荘の『睡鳩荘(すいきゅうそう)』。
こげ茶色の木の質感。三角の屋根と白い窓が、上品で優しい風合いを奏でています。

湖面にゆらゆらと揺れるその雄姿。
三井財閥のひとりで、のちに三越の社長も務めた朝吹常吉氏の別荘として建てられ、ボーボワールやサガンの翻訳家として有名な朝吹登水子さんが長く住んだ家。
移築され、この場所にありますが、今もその温かみのあるたたずまいは、訪れる人を癒しています。

この別荘を設計したのが、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。
建築家にして実業家、そしてキリスト教の伝道者。
彼は、軽井沢に数多くの建築物を残しました。
ヴォーリズが、残したものとは?そして、彼が今こそ、我々にささやく、yesとは?

ウィリアム・メレル・ヴォーリズは、1880年、アメリカのカンザス州レブンワースに生まれた。
広い空と、吹き抜ける風。そして、木々のぬくもり。
ふるさとを愛した。幼児洗礼を受ける。教会が好きだった。
ひとびとが集い、語らい、高い天井に日常が昇華されていく。
いつかこんなふうに、ひとびとの笑い声が響く建物をつくりたい。
建築家になりたい。夢ではなく目標として定めた。
マサチューセッツ工科大学への入学が許されるほど、優秀だった。
でも、経済的な理由で断念。コロラドカレッジに入学した。

建築家になることを疑わなかったが、ひとつの出会いが、彼、ヴォーリズを変える。
外国伝道を行っていたキリスト教宣教師の、ハワード・テイラーの講演を聞いて感動した。
世界にキリスト教を伝道すること。
その意義や素晴らしさに心が踊った。
1905年、日本に渡った。ヴォーリズ、24歳。
今から110年前のことだった。

建築家にして、実業家、そしてキリスト教伝道者だった、ウィリアム・メレル・ヴォーリズは、日本の地に降り立ち、ひとつだけ、決めたことがあった。
何があってもこの地に留まるということ。
留まり続けなければ、何も達成できない。
人生でいちばん大切なのは、誰かに必要とされること。
この地に骨を埋める覚悟がなければ、自分の言葉が虚しく消える。
知り合いなどいない。言葉も通じない。
でも、どんなに苦しい道でも、彼は踏みとどまった。

太平洋戦争が勃発。忍び寄る戦禍。
多くの外国人が母国に帰っていった。
宣教師たちが集うクラブハウスでも、その話題で持ちきりになった。強い風が建物を揺らす。

「開戦は、必至だ。ヴォーリズ、ここはみんな帰ったほうがいい」

ある外国人が言った。
ヴォーリズは、四角い窓から激しくしなる木々の枝を見ていた。

「いや、私は、ここを動かない」

その声は、静かだったけれど、強い響きを放った。

「私は、動かない」

やがて彼は、日本人の女性、一柳満喜子と結婚。
帰化することを決断する。
日本名、一柳米来留(ひとつやなぎ・めれる)。
アメリカの米、来るに、留まるでメレル。
アメリカからこの地に来て、留まりつづける。
彼の強い意志が、名前に見える。
大地はつながっている。どこにいても、その場所を愛せないひとはどこへいっても、孤独だ。
まずは、自分が立っている場所を愛するということ。
留まり続け、愛し続けるということ。

来日した、1905年、明治38年の夏から、ヴォーリズは、軽井沢を訪れた。そこには宣教師たちのコミュニティーがあり、何より、大好きな木のぬくもりがあった。
小道を通り過ぎる風はどこか懐かしく、心おどった。
軽井沢には、ヴォーリズが手がけた、さまざまな建築物がある。
ユニオンチャーチ。華やかさはない。
でも、優しく、使い勝手のいい空間がそこにある。
床や壁に使われた木材は、あえて磨かず、本来の質感を大事にした。
そこに集う人にとって居心地のいい環境を、常に考えた。
個人の家も、教会も、テニスコートのクラブハウスも、同じコンセプトだった。
かつて幼い頃見た教会のように、笑顔や癒しを享受できる空間。
留まり続けたからこそ、ヴォーリズには見えた。
歯をくいしばって、今自分が立っている大地を愛したからこそ、わかった。
この風、この空、この陽射し。全てが己をつくり、守っている。
あわてて動くことはない。焦って走ることはない。
人生には、留まることでしかわからない真髄が、ある。

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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