yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百七十五話 とことん好きになる -【秋田篇】映画監督 黒澤明-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百七十五話とことん好きになる

秋田県にゆかりのある、映画界のレジェンドがいます。
黒澤明(くろさわ・あきら)。
黒澤の父は、秋田県仙北郡豊川、現在の大仙市豊川出身で、黒澤は、幼い頃から何度も訪れました。
東京で生まれ育った彼にとって、秋田の大自然は最高の遊び場。
野山を駆け回り、滝に飛び込み、渓流で魚をつかまえる。
まさかその原体験が、あの名作『七人の侍』や『影武者』など、多くの監督作品に投影されることなど、当時の黒澤少年は思ってもみなかったでしょう。
彼が、「自伝のようなもの」と称したエッセイ『蝦蟇の油』によれば、生まれてから最初の記憶も、秋田の実家でした。
1歳の黒澤は、裸で洗面器の中にいます。
なんだか薄暗い場所。
洗面器は両方から傾斜した板の間の真ん中、そのいちばん低いところで、グラグラ揺れています。
それが面白くなって、洗面器のふちをつかみ、自分でゆする、何度もゆする。
やがて、洗面器はくるんとひっくり返ってしまう。
そのときの激しい動揺と、裸で、ぬるぬるした板の間に落ちた感触、そして、見上げた天井にぶら下がる石油ランプの光を生き生きと覚えていました。
『蝦蟇の油』には、他にも幼児期の記憶が記されています。
金網の向こうに、白い服を着たひとたちが、棒っキレを振り回して球を打ったり、転がった球を追いかけたりしている。
これは、住んでいた場所が、父が勤める日本体育大学の前身、日本体育会体操学校の敷地内にあった教職員住宅だったからです。
野球場のネット裏から、野球を見ていたのでしょう。
元・軍人の父は、体操学校に勤め、日本古来の柔道や剣道の普及に貢献、プールを初めて日本につくるなど、日本スポーツ界の発展に寄与した重鎮でした。
その厳格そのものの父が、映画は教育上よくないという風潮に抗い、積極的に家族で映画鑑賞に出かけたことも、のちの世界的な巨匠を生む素地を作りました。
黒澤のデビュー作は、戦争のさなかに作った『姿三四郎』。
「用意ッ、スタート!」
そう初めて声をかけたとき、照れくさい思いがしましたが、二度目から、ただもう面白く、映画監督に夢中になっていきます。
好きだから、もっと学ぶ。もっと学べば、さらに好きになる。
そんな幸福のスパイラルこそ人生の醍醐味であると、彼はインタビューに語っています。
ひとつのシーンも手を抜かない。
出てくる役者さん全てに愛情を注ぐ「世界のクロサワ」、黒澤明が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

映画監督・黒澤明は、1910年3月23日、現在の東京都品川区に生まれた。
黒澤明といえば、背は高く、がっしりした体格に、豪快な人柄、という印象があるが、子どもの頃はひ弱で色白。
同級生にいじめられては、泣いてばかりいた。
ついたあだ名は、コンペト。
お菓子の金平糖のことで、由来は、こんな歌の歌詞にあった。
「うちの金平糖(コンペト)さんには困ります、困ります。何時も涙をポーロポロ、ポーロポロ」
小学1年生のときは、学校で先生の言うことが全く理解できない。
ひとり、他の子どもたちと離れた場所に机を置かれた。
さらに先生には「これは黒澤君にはわからないだろうが」「これは黒澤君には無理だが」と言われ、みんなに笑われる。
悔しい、恥ずかしい、みじめで哀しい。
まるで牢獄の中にいるようだった。
転機が訪れたのは、2年生の時、別の小学校に転校したこと。
相変わらずいじめられたが、二人の救世主がいた。
ひとりは、兄。弱い弟に容赦なく厳しく接する一方、休み時間は、弟がいじめられていないかと目を光らせた。
もうひとりが、担任の立川先生。
立川先生は、闇に閉ざされていた黒澤少年の心に、一筋の光を与えてくれた。

黒澤明、小学3年生のときの図画の時間。
通常、図画でいい点をもらうのは、対象をいかに忠実に再現できるかだった。
でも、黒澤はそれができず、いつも同級生たちに笑われていた。
その日、担任の立川先生は生徒たちに「好きなものを自由に画きなさい」と言った。
黒澤は先生の言うとおり、一生懸命、思うがまま画いた。
色鉛筆は、あまりの力で折れそうになる。
塗った色に自分の唾をつけて、こすりつける。
色はにじみ、不思議な風合いを出す。
指はあっという間に七色に染まった。
立川先生は、生徒たちの絵を一枚一枚黒板に貼り、自由に感想を言うようにいった。
黒澤の絵が貼られたとき、同級生たちはみんな、げらげら笑った。
でも、先生は、そんな生徒たちを怖い目で睨む。
そして、言った。
「いやあ、この絵は素晴らしいよ、黒澤。おまえの絵はいい。自由で、力がある」
絵に、赤いインクで三重丸を画いてくれた。
うれしかった。初めてほめられた。
黒澤明は、そのときのことを一生忘れなかった。

黒澤明は、小学生の時の立川先生に教わった。
ひとに褒められようとする絵は、うすっぺらい。
大切なのは、どれだけ一生懸命画いたかということ。
手や服を汚し、みっともない格好を気にする余裕もないほど、一心不乱に創作と向き合わないかぎり、誰の心にも届かない。
黒澤少年は、絵が好きになった。
画いた。とにかく、画いて画いて画いた。
好きになると、もっとうまくなりたくなって、学ぶ。
学べばうまくなって、もっと好きになる。
どんどん奥に入っていくと、面白みが倍増していく。
黒澤明監督には、さまざまな伝説がある。
工場で強制的に働かされる少女を撮るため、女優に実際に工場で働いてもらったり、村人の衣服の汚れをリアルにするため、スタッフにその服で何か月も生活してもらい、汚れや匂いを本物にしたり、撮影の邪魔になる民家の屋根を壊すように指示したり、今では考えられないスケールだった。
でも、そのすべてに、黒澤の映画への想いがある。

「たった1カットでも手を抜いたら、映画は死んでしまう」

「好き」を追求し「好き」の先にある映画を極めた巨匠・黒澤明は、『蝦蟇の油』でこんなふうに書いている。

「私は、特別な人間ではない。
特別に強い人間でもなく、特別に才能をめぐまれた人間でもない。
私は、弱味を見せるのが嫌いな人間で、人に負けるのが嫌いだから努力している人間に過ぎない。
ただ、それだけだ」

【ON AIR LIST】
プラネタリウム / BUMP OF CHICKEN
Going Out Of My Head / Sergio Mendes
レアルシ(輝き) / Gilberto Gil

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとニラのナムル

今回は、大仙市の特産物でもある野菜、ニラを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとニラのナムル
カロリー
84kcal (1人分)
調理時間
25分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • ニラ
  • 1/2束
  • にんじん
  • 20g
  • もやし
  • 50g
  • 【A】塩
  • 小さじ1/3
  • 【A】おろしにんにく
  • 小さじ1/2
  • 【A】ごま油
  • 小さじ2
  • 【A】白ごま
  • 小さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。ニラは4cm幅に、にんじんは長さ4cmの細切りにする。
  • 2.
  • フライパンに高さ1cmの水をはって霜降りひらたけ、ニラ、にんじん、もやしを入れて火にかけ、さっと蒸し茹でする。火が通ればよく水気を切る。
  • 3.
  • ボウルに【A】を合わせて具材を和え、器に盛りつける。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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