yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百四十三話 いかに生きるかを考える -【宮城篇】哲学者 梅原猛-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百四十三話いかに生きるかを考える

宮城県仙台市に生まれた、哲学者のレジェンドがいます。
梅原猛(うめはら・たけし)。
法隆寺建立の秘密をひもとく『隠された十字架』や『ヤマトタケル』『オオクニヌシ』などのスーパー歌舞伎の台本執筆など、その活動は多岐にわたり、日本の歴史や文化を独自に読み解く思想は『梅原日本学』と呼ばれました。
その特異な発想は、ときに学術界から猛反発を受け、批判の渦に飲み込まれることもありました。
でも彼は、自由な発想、自分のオリジナリティを、何よりも大切にしたのです。
梅原は、日本人の根底にあるのは、稲作文化ではなく、縄文時代の狩猟採集文化だと論じています。
青森の三内丸山遺跡の発掘にも多大な関心を寄せた彼は、田の文化の中に脈々と残る、森の文化に注目しました。
また、人間中心主義の西洋哲学だけでは、環境破壊や自然災害に答えが出せないと考えたのです。
「我思う、ゆえに我あり」というデカルトの哲学。
我、すなわち人間が中心となって自然を支配しようと思っても、意のままにはならない。
梅原は、「自然と調和する文明に変わらないと、人類の持続的発展はありえない」と説きました。
特に心を痛めたのは、東日本大震災。
政府の復興構想会議の顧問になり、哲学者として発言したのは、この震災が、天災であり人災であり、文明災であること。
自然と仲良く、動植物と仲良くしていくことが、人間の本来の生き方だと語りました。
梅原は、母を知りません。彼を産んですぐに他界。
幼くして「死」を見つめたことが、のちの彼の言動の源になりました。
死を身近に感じながら、「ひとはいかに生きるべきか」と問い続けて走り抜けた、93年の生涯。
哀しみに裏打ちされた、伝説の哲学者・梅原猛が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

哲学者・梅原猛は1925年3月20日、仙台市肴町に生まれた。
父は、東北帝国大学の学生、母は、父が下宿する魚問屋の娘だった。
地主の跡取りだった父の実家は、結婚に猛反対。
しかも、2人とも結核にかかってしまう。
父は実家の愛知へ強制的に連れ戻され、母はひとりで子を産む覚悟を決めた。
医者は、とめる。
「あなたの今の体力と病状では、あなたも子どもも危険です」
しかし、母は諦めなかった。
「なんとしても、この子は産みます!」
生まれた男の子は、結核の感染から守るため、愛知県知多半島の父の親戚に預けられた。
どんな困難にも負けないようにと、「猛(たけし)」と名づけられる。
ほどなくして、母は亡くなった。20歳だった。
私生児として生まれたこと、自分の身代わりで母が死んだこと、この二つは、大人になってから梅原の心に哀しみの影を落とすことになる。
養父母は、心底、梅原を愛した。
実の子と分け隔てしない。
ほんとうの親のことは黙っていた。
しかし、頭のいい梅原はうすうす気づいていた。
「ボクは、このウチの子どもではないかもしれない」
大人たちの、ひそひそ話。
妙な気遣いが、少年を孤独にさせた。

唯一無二の哲学者・梅原猛は、幼い頃、神童と呼ばれた。
大相撲の力士のブロマイド写真。
顔を見ないで、足だけで、力士の名をあてた。
周囲の大人たちは、驚く。
「この子は、天才だ!」
将棋の駒を使って、自分で野球ゲームをあみだす。
これもまた、友だちや学校の先生に驚かれた。
しかし、梅原は、その種あかしを自分なりに知っていた。
誰ともしゃべらず、ひとり家にこもる日々。
有り余る時間、飽きるまでブロマイドを見れば、誰だって完全に覚えてしまうし、ひとり遊びが高じれば、ゲームだって作れるようになる。
怖かった。
ひととしゃべると、自分の両親が他人であることを告げられそうで、怖かった。
なんとなくわかってはいたが、養父母の前では、ひとかけらも疑っていない顔をした。
養父母は、誠心誠意、自分を可愛がってくれている。
悲しませてはいけない。そう、思った。
梅原は、理数系が得意だった。
明確に答えが出る学問のほうが、ゲーム感覚で没頭できる。
学ぶことは、現実逃避。
しかし、中学4年生のとき、川端康成の『十六歳の日記』を読んで、文学にはまる。
「出生の秘密を知るのが怖くて、ボクは人生に向き合うことをしてこなかった。ひとはなぜ生まれて来たのか、生きるとはどういうことか、それを深く考えないと、後悔する。文学や哲学は、今こそボクに必要だ」。

梅原猛の学生時代は、戦争と共にあった。
中学5年生のとき、太平洋戦争が勃発。
軍事教練の時間が何より苦痛だった。
家にこもる生活が長く、運動神経は鈍い。
教官から銃剣で殴られる。
第八高等学校に進んでも戦火は広がり、多くの学生にとっても「死」が身近なものになった。
ある生徒が全体集会で言った。
「人生は、25歳までだ! あといくばくかの人生、その運命を受け入れ、生き抜こうではないか!」
徴兵を逃れるために文科に移ったり、理科系に転向したりする同級生がいたが、梅原は、あえて特攻隊の養成機関に志願。
「どうせ死ぬなら、潔く生きたい」と思った。
しかしあえなく不合格となり、特攻隊入隊はかなわなかった。
思想書、哲学書を読みあさる。
名古屋の工場で勤労奉仕を行っているとき、大きな空襲にあった。
なんとか防空壕に逃げ込み助かったが、戦争の悲惨さを目の当たりにする。
自分の命について考えた。
死について、考えた。
そのころは、出生について事実を知らされていた。
母が、自分の命とひきかえに産み落としてくれた、命。
自分が一生を賭ける学問の根底に、命を置こう。
「生きている間に、自分が何をすべきか」
少なくとも、そこから目をそむけない生き方をしよう。
哲学者・梅原猛は、生涯をかけて、母に贈る壮大な返歌を詠んだ。

【ON AIR LIST】
哲学 / 浅井健一
FIGHT FOR YOU / H.E.R.
WHAT'S GOING ON / Los Lobos Feat.Sheryl Crow

★今回の撮影は、南知多町役場様にご協力いただきました。ありがとうございました。
梅原邸HP

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけたっぷり餡かけ炒飯

今回は、仙台市の特産でもある、ねぎを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけたっぷり餡かけ炒飯
カロリー
461kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • にんじん
  • 1/5本(30g)
  • 長ねぎ
  • 1/3本(30g)
  • 1個
  • ごはん
  • 400g
  • サラダ油
  • 大さじ1
  • 小さじ3/4
  • こしょう
  • 適宜
  • 大さじ2
  • 300ml
  • 【A】片栗粉
  • 大さじ1・1/2
  • 【A】水
  • 大さじ3
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。にんじんと長ねぎはみじん切りにする。【A】は混ぜ合わせる。
  • 2.
  • 卵は卵黄と卵白に分け、温かいごはんに卵黄を入れ混ぜる。
  • 3.
  • フライパンにサラダ油を熱し、にんじん、長ねぎを炒める。香りが立ったらごはんを入れ、塩(小さじ1/4)、こしょうをし、パラパラになるまで炒める。全体に酒(大さじ1)を振りかけてさっと炒め合わせ器に盛る。
  • 4.
  • そのままのフライパンに水、残りの酒と塩、こしょうを入れ、霜降りひらたけを加えひと煮立ちさせ、【A】でまとめる。
  • 5.
  • 沸騰した(4)によく混ぜた卵白を流し入れ、かき混ぜ、(3)にかける。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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