yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百十三話 ひとと違うことを怖れない -【新潟篇】作家 坂口安吾-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百十三話ひとと違うことを怖れない

新潟市に生まれた、『堕落論』で有名な文豪がいます。
坂口安吾。
彼の石碑は、新潟市中央区西船見町の、海を見下ろす砂丘に建っています。
石碑に書かれた言葉は、「ふるさとは、語ることなし」。
安吾らしい、自虐にも似た、およそ石碑にふさわしくない言葉です。
彼は、生まれたこの場所についての思い出をこんなふうに語っています。
「中学校をどうしても休んで 海の松林でひっくりかえって 空を眺めて暮さねばならなくなってから、私のふるさとの家は空と、海と、砂と、松林であった。そして吹く風であり、風の音であった。……学校を休み、松の下の茱萸(ぐみ)の藪陰にねて 空を見ている私は、虚しく、いつも切なかった」。
彼の人生は、いわば、偉大なる落伍者のそれでした。
学校も落第、同人誌に加わっても、自分だけ日の目を見ない。
酒や薬に頼り、なんとか踏みとどまりつつ、彼が目指したのは、ひとと違う人生でした。
睡眠時間をいきなり4時間に限定したり、仏教書を読みあさり、ひたすら勉学にいそしんだり、思いつくと、実行。
周囲の反対や困惑もお構いなしでした。
そんな傍若無人なふるまいで有名になる一方で、友達と認めた相手には、とことん寄り添いました。
新潟の『安吾 風の館』では、現在、檀一雄展が開催されていますが、檀一雄との交友が安吾の情の深さを物語っています。
安吾は、檀を人一倍可愛がり、彼の才能を絶賛し、文筆活動を励まし続けました。
檀は終生、「安吾さん」と慕い、砂丘に建つ石碑の発起人にもなったのです。
安吾は、日常を笑い飛ばします。
「何を恐れているんだよ! 結局、人間は死んじまうんだから、それ以上、怖いことはないんだよ!」
48年の人生を駆け抜けた作家・坂口安吾が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

デカダンの作家・坂口安吾は、1906年10月20日、新潟市に生まれた。
実家は代々、大富豪。
「阿賀野川の水が尽きても、坂口家の富は尽きぬ」と言われた。
しかし、祖父が投機に失敗。明治以後には没落した。
それでも、父は代議士になり、大隈重信に仕えた。
政治資金のため、家計は傾いた。
父は、明治の知識人。
広い教養と進歩的な考えの持ち主だった。
漢詩もたしなみ、短歌も詠んだ。
子どもは、13人。
安吾は、その12番目だった。
安吾は、幼い頃から癇癪(かんしゃく)持ち。
姉が父兄参観に来てくれないと、殴りかかり、気に入らないおかずが食卓に並ぶと、ぶちキレた。
父が、せっかく作った模型飛行機を踏み潰したときは、つかみかかって離さなかった。
安吾が怒ると、父は、正座させ、墨をすらせた。
「おまえは、辛抱が足りん。文学を知るのがいい。文学はひとの心を知る最善の道を教えてくれる。ひとの心を知れば、おのずと、いたわりの心が芽生えるはずだ」
父は、安吾に本を与えた。
確かに、物語は、安吾にやすらぎと理性を与えた。
「いいか、安吾、人間は本来、理性的な生き物なんだ。理性に従うから、秩序が生まれる。この世で最も忌み嫌うべきは、衝動的、動物的な行動なんだ」
そのときから、安吾は父の言葉にかすかな違和感を持っていた。

『堕落論』の著者、坂口安吾は、幼い時から行動のひとだった。
頭で考えるより、体が動く。
猿飛佐助や霧隠才蔵の物語を読んでは、自分も忍術を使いたいと思い、布団を山のように重ね、そこから目をつぶり、飛び降りた。
足や腕に傷を負いながら、いつまでもやめない。
姉たちが止めに入る。
「なにやってるの! やめなさい! 大怪我するわよ!」
「あのね、お姉ちゃん、ボク、今度こそ飛べそうな気がするんだ」
「飛べるわけないじゃない!」
「そんなのわからないよ。やってみなきゃね」
ひとができないということほど、やってみたくなる。
できないと決めつけるのは、たいてい大人だ。
やる前からできないというのは、逃げじゃないか。
子ども心に、反発心を持った。
学校は、ことごとくサボった。
暇さえあれば、海辺にいく。砂浜に寝転び、空を眺めた。
「ひとと同じように勉強したって、ひとと同じになるだけだ。僕は、自分だけの人生を歩みたい」。
頭上をカモメが飛んでいく。
彼には疑問があった。
「ひとりひとり違うのに、どうして同じ教科書をみんなで読まなきゃいけないんだろう」。
問いかけても、カモメは答えてはくれなかった。

坂口安吾の父は、政治家活動に忙しい。
母は、父への不満ばかり口にして、事あるごとに安吾を叱った。
幼いながら、安吾は思った。
「お母さんが僕を叱るのは、僕のためじゃない、不満のはけ口なんだ」
ただ、祖母だけは違った。
心の底から安吾を可愛がった。
「あたしはねえ、おまえほど心の綺麗な子を知らないよ。神様のようだよ」
安吾も、祖母を慕った。
祖母の言葉だけは信じることができた。
中学を落第して、相変わらず海辺で寝転んでいても、祖母はニコニコ笑って安吾を褒めた。
「おまえは、器が大きいねえ。そうだよ、何も無理してひとに合わせる必要はない。おまえはおまえだけの人生を歩めばいいよ」
安吾は、頑張って中くらいの成績なら、いっそ最下位を選んだ。
フツウってなんだろう。それってすごいことなんだろうか。
落ちるところまで落ちれば、いろんなことが見えてくる。
いいじゃないか、落ちたって。
あとは、上がるだけなんだから。
作家・坂口安吾は、教えてくれる。
「みんな、まわりを気にしすぎだよ。いいんだよ、浮いたって。だって、ひとはみんな違うんだから。浮くのが当たりまえなんだよ」

【ON AIR LIST】
空にまいあがれ / 真心ブラザーズ
Don't Know What It Means / Puss N Boots
防波堤 / 友部正人&矢野誠
(You're So Square) Baby,I Don't Care / Joni Mitchell

【撮影協力】
安吾 風の館
https://www.city.niigata.lg.jp/kanko/bunka/yukari/kazenoyakata/
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとなすの煮びたし

今回は、新潟市の特産でもある、なすを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとなすの煮びたし
カロリー
105kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • なす
  • 2本
  • 150cc
  • めんつゆ(3倍希釈)
  • 30cc
  • 生姜
  • 1かけ(10g)
  • ごま油
  • 大さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすい大きさにほぐす。
  • 2.
  • なすは縦8等分にし、生姜はすりおろしておく。
  • 3.
  • フライパンにごま油を入れて熱し、なすの皮を下にして焼く。霜降りひらたけも焼く。
  • 4.
  • 焼き目がついたら、めんつゆ、水、生姜を入れ、霜降りひらたけがしんなりしたら火を止める。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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