yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百九十四話 ないものを探し続ける -【高知篇】小説家 倉橋由美子-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百九十四話ないものを探し続ける

今も、多くの作家に多大な影響を与え続ける、高知県出身の小説家がいます。
倉橋由美子(くらはし・ゆみこ)。
小説『パルタイ』で鮮烈なデビューを飾り、いきなり芥川賞候補になったのが、24歳の時。
以来45年間に及ぶ作家生活で、『暗い旅』『聖少女』というフランス文学に影響を受けた小説や、シェル・シルヴァスタインの『ぼくを探しに』、サン=テグジュペリ『星の王子さま』の翻訳など、多くの作品を残しました。
『ぼくを探しに』の訳者あとがきに、彼女はこんな文章を書いています。
「いつまでも自分のmissing pieceを追いつづける、というよりその何かが『ない』という観念をもちつづけることが生きることのすべてであるような人間は芸術家であったり駄目な人間であったりして、とにかく特殊な人間に限られる」

何かがない。
通常、人間はその感覚をどこか別の場所に置き去り、日常生活の中に入り込まないようにしています。
でも、倉橋はその感覚を見つめることで、創作に向き合ったと言えるかもしれません。
彼女は、高校時代まで高知県で暮らしましたが、土佐人の気質をこう評しています。
「全体主義的な気分で組織とか統制とか固い結束とかを保持していくことがどちらかと言えば不得意」。
さらに、「個人主義的傾向が強い」。
倉橋自身、学生運動に身を置くこともありましたが、群れることが苦手で、作家になってからも文壇になじめませんでした。
男女についても、土佐人の特質をこんなふうに述べています。
土佐の男は「いごっそう」。
「いごっそう」の美点は、独善的であり、その善を他人に施す押しつけがましさをもっていない点にあるとし、土佐の女を表す「はちきん」を、男を男というだけで尊敬する気持ちは薄く、男のために耐え忍ぶ気などさらさらないと説明しています。
従来の純文学の中に描かれる女性像の偏りに注目し、男性の主人公の前に都合よく現れる女性を指摘しました。
いまあるものを疑い、ここにないものを探す旅。
それは茨の道だったに違いありません。
でも、困難な道を歩いたからこそ、多くの作家が彼女の足跡をたどり、励まされているのです。
唯一無二の小説家・倉橋由美子が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

小説家・倉橋由美子は、1935年10月10日、高知県 土佐山田町、現在の香美市に生まれた。
同い年生まれの作家に、大江健三郎、柴田翔がいる。
倉橋の父は、歯科医。
5人兄弟の長女だった。
10歳のとき、高知市が空襲を受け、疎開。
香美郡の分校に転校する。
全校生徒20数名。
野山をめぐり、川で遊ぶ日々の中、終戦を迎えた。
野戦病院設営のため、家を離れていた父が、台風の日に戻ってきた。
そのときのことはよく覚えている。
父の不在が不安だった。
高知市にある私立土佐中学校に入学。
汽車に1時間揺られ、通学した。
車内で、本を読むのが楽しかった。
活字にふれると心が躍った。
中学では園芸部に所属し、焼け跡の中に建つ校舎の周りに花を植えた。
中学2年生の5月。
彼女の人生を作家に向かわせる最初の出来事が起きた。
遠足で大雨に遭った。
びしょ濡れになり、帰宅。
高熱が出て、しばらく下がらない。
その後、微熱が続き、9月まで学校を休むことになった。
家で床に臥す毎日。
他の生徒と違う自分を認識する。
読書だけが唯一のよりどころだった。
想像力を養い、働かせる機会を、彼女は逃さなかった。
小説家の種が、静かに、豊かな土壌に植えられた。

高知出身の小説家・倉橋由美子は、大学受験で苦労する。
不勉強がたたり、志望校に落ちた。
京都女子大学国文科に籍は置くが、予備校に通う。
どうしても医学部に入りたかった。
なぜ、医学部か。
医学部に入れば、自分の中の足りない何かをつかめそうな気がしたからなのか、それはわからない。
20歳のとき、国立、私立と、医学部を受験するが、全て失敗。
浪人は許さないと父に言われ、日本女子衛生短期大学 歯科衛生士コースに入学する。
父は、自分の歯科医院で働いてもらい、ゆくゆくは結婚して家庭に落ち着いてほしいと願った。
上京して住むことになった短大の寮は、六畳間に4人が暮らす、不自由なものだった。
歯科衛生士の国家試験に受かるが、やはり、自分の中の欠けたピースは埋まらない。
倉橋は、ふるさとに帰らず、東京に留まりたいと思い始めていた。
文学で食べていけるとは思えない。
でも、ここにいたい。ここで、足りない何かを探したい。
もしかしたら、探すということが心地よかったのかもしれない。

作家・倉橋由美子は、21歳のとき、明治大学文学部 フランス文学科を受け、合格。
歯科衛生士のアルバイトをしながら、大学に通った。
安保騒動の最中、神田、お茶の水界隈をめぐり、ジャズ喫茶や純喫茶で本を読んだ。
カフカ、カミュ、サルトル、ボードレール、ランボー。
古典や日本文学全集はとうに読破し、まだ足りないと思っていたので新しいものに飛びついた。
24歳のとき、明治大学学長賞の存在を知り、賞金目当てに、以前、思うままに書いた小説を応募。
佳作2席をとった。
ただ、内容に問題ありで、大学新聞には掲載できないと言われた。
先生に呼ばれる。
「倉橋、キミの小説はねえ、少々、風刺がききすぎるんだよ」
卒論に向き合いつつ、『パルタイ』という小説を書く。
この作品が学長賞を受賞した。
明治大学の教授が『パルタイ』を毎日新聞の文芸時評に掲載。
オリジナルな感覚、革命的なイメージを大絶賛した。
それが縁で「文学界」に転載され、芥川賞の候補にまでなる。
倉橋由美子の背中を常に押し続けたのは、己に欠けた、足りない「何か」。
大切なことは、その「何か」を得ることではなく、探し続けることである。
彼女は亡くなる直前まで書き続け、missing pieceを追いつづけた。

【ON AIR LIST】
SOMETHING'S MISSING / John Mayer
LA MADRAGUE / Brigitte Bardot
夜は千の眼を持つ / ジョン・コルトレーン
PIECE OF MY WISH / 今井美樹

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの酸辣湯

今回も、香美市で多く生産されている食材、ニラを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけの酸辣湯
カロリー
256kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • トマト
  • 1個
  • ニラ
  • 1/3束
  • ハム
  • 4枚
  • 1個
  • ごま油
  • 大さじ2
  • 【A】水
  • 400ml
  • 【A】しょう油
  • 小さじ1
  • 【A】塩
  • 小さじ1/3
  • 【B】酢
  • 大さじ2
  • 【B】片栗粉
  • 大さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。トマトはくし切りに、ハムは1cm幅の細切りに、ニラは5cm幅に切る。
  • 2.
  • 鍋にごま油を熱し、霜降りひらたけ、トマト、ハムを入れてさっと炒め、【A】を加えて溶かす。
  • 3.
  • 沸騰したら溶いた卵を細く流しいれる。
  • 4.
  • 混ぜ合わせた【B】を加えてとろみをつけ、ニラを加えて火を止める。器に盛り、お好みでラー油をかける。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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