yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第十三話  恩を返す -実業家・雨宮敬次郎-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第十三話 恩を返す

軽井沢のほぼ中央に位置する、離山。
その麓に今も残る、大邸宅があります。
文化遺産に登録されている、旧雨宮邸。
大きな構えの武家門をくぐると、森のように木々がそびえています。
広い庭のその先にあるのは、雨宮御殿と呼ばれた屋敷。
その持ち主だった雨宮敬次郎は、かの大隈重信に、畏怖と尊敬を持って「天下の雨敬」と呼ばれました。
実業家にして鉄道王。
雨宮は、軽井沢の風景を変えた男として、その名を後世に残しています。
今や軽井沢の風物となった落葉松。
荒涼とした大地、火山灰と岩に覆われた荒れ野に、700万本の落葉松を植えたのが、彼でした。
家畜を育てたり、ぶどう作りを試みたり、雨宮は、軽井沢を豊かな土地にするために、心血をそそぎました。
かつて病気だった自分を優しく迎えてくれた風、空、ひとびと。
彼なりの恩返しは、かなりスケールの大きなものでした。
美しい軽井沢の風景をつくった男、雨宮敬次郎が後世の我々に伝えたい、yesとは・・・。

実業家、甲州財閥のひとり、雨宮敬次郎の墓は、軽井沢にある。
亡くなったのは、明治44年1月。享年65歳。
晩年、彼は部下たちに、こう言ったという。
「いいか、男は、三つのものに惚れなくちゃ、いかん!
妻に惚れろ!家に惚れろ!そして、仕事に惚れろ!」
身長は180cmを超え、体重は90kg近く。
体も大きかったが、やることなすこと、スケールが大きかった。
その存在感、威圧感に、まともに顔が見られない者もいたという。
ただ実際の彼は、情にあつく、誰よりも思いやる気持ちに長けていた。
生まれたのは、山梨県甲州市塩山牛奥。
名主の次男だった彼は、幼い頃から季節の行商をして、お金を稼ぐことを覚えた。
14歳の時、1両を元手に、卵の販売を試みる。
これがうまくいき、父に金を借り、今度は繭を仕入れ、生糸の商いを始める。
これも成功して、17歳のときには、すでにひと財産を築いた。
胸に刻んだ教えは、武田信玄の風林火山。
即決即断、すばやく動いた。
彼は甲州を出て、江戸に向かう。
果てしない野望は、彼を、山の向こう側に連れていった。

実業家、雨宮敬次郎は、26歳のとき、生糸の中継ぎ問屋の娘、のぶと結婚する。
安定した商い。手堅い売り買い。雨宮には何か物足りない。
「オレは、このままでいいんだろうか?」
ある夜、のぶに話した。
のぶは、箪笥の奥からお金を出して、こう言った。
「ここに100円あります。これで好きなことをおやりなさい。
あなたは、立ち止まるひとじゃない」
雨宮は、生糸の相場をはることにした。
30歳のときには、ヨーロッパに渡り、生糸不足を肌で感じ、すかさず輸出。莫大な財産を得る。
彼は常に思っていた。
「ひとと同じ発想では、ひとなみで終わる。ひとが買えば、売り、ひとが売れば、買う。いつもみんなと逆の発想をすること。リスクを恐れていては、何も生まれない」

ヨーロッパを視察して気づいたもうひとつのことがあった。
それは、鉄道による土地の活性化、社会基盤の向上。
「オレには、まだまだやらねばならぬことが山ほどある!」
青雲の志はとどまることを知らなかった。その矢先、血を吐いた。激しい吐血。肺病だった。
絶望が彼を、むしばんだ。
「オレは、ここで終わるのか・・・」

結核を癒すため、雨宮敬次郎は、熱海を訪れた。
人力車でようやくたどり着いたそのときに、
「豊かな温泉、海、温暖な気候、こんなに素晴らしい保養地に、なぜ、ひとがいない。ここに鉄道さえひけば、熱海は発展する」
商いへの想いは、留まる事を知らなかった。
のちに彼は言葉どおり、熱海に鉄道を敷いた。

やがて、雨宮は夏の軽井沢を訪れる。
そして、その風の清廉さに心うたれた。
優しい空気と、真っ青な空。軽井沢のひとたちのあったかさに言い知れぬ癒しを得た。
お金を稼いできた。でも、それだけでは男子の本懐はとげられない。
誰かのために尽くすということ。恩を返す人生であること。
「ここを開墾しよう。この地には、何かがある」
妻、のぶは、いつものように反対しなかった。
火山灰に覆われた不毛の土地を、買い占めた。
ぶどうを作り、失敗。家畜を育てようとして、挫折。
でも、雨宮は諦めなかった。
ここでやめたら、それで終わり。
でもやめなければ、成功のチャンスは残る。
キャベツの栽培は、うまくいった。そして、枯れた土地にも強い、落葉松を植えた。
風景を変えたのは、野心でも野望でもなかった。
ただひとつの想い。優しさへの恩返し。
ひとは、やれることを精一杯やるべきだ、雨宮は教えてくれる。
どんなささやかなことでもいい。
諦めず、今やれることを、やるべきだ。
そこにしか、人生のyesは、ない。

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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