yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百六十二話 哀しみと向き合う強さ -【愛知篇】童話作家 新美南吉-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百六十二話哀しみと向き合う強さ

愛知県半田市の矢勝川周辺には、9月下旬から10月上旬にかけて彼岸花が咲きほこります。
半田市で生まれ育った童話作家・新美南吉は、名作『ごんぎつね』の中でこう書いています。
「ひがん花が赤い布のように咲きつづいている」

今年、生誕105年、没後75年を迎える新美は、矢勝川沿いを散歩するのが大好きだったといいます。
わずか30年ほどの人生で、彼は数多くの童話、童謡、詩や短歌を残しました。
特に『ごんぎつね』『狐』『手袋を買いに』のキツネ三部作は、時代を越えて、ひとの心にしみわたり、たくさんのひとに読み継がれています。
彼の作品の何がそこまで、人々を惹きつけるのでしょうか。
新美南吉は、「かなしい」という二つの漢字を組み合わせた「悲哀」を大切にしました。
彼の15歳のときの日記には、すでにその決意が書かれています。
「やはり、ストーリィには、悲哀がなくてはならない。悲哀は、愛にかわる。けれどその愛は、芸術に関係あるかどうか。よし関係はなくてもよい。俺は、悲哀、即ち愛を含めるストーリィをかこう」
彼は幼少期に、親の愛を知らずに育ちました。
だからこそ、彼が書き続けたのは、母と子の絆、そして、愛するがゆえの哀しさでした。
哀しいというのが、人生の基本である。
だからこそ、ひとはお互いをいたわり合い、助け合い、つながって生きていく。
そんなメッセージは、今の時代こそ必要なのかもしれません。
夭折(ようせつ)の童話作家・新美南吉が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

童話作家・新美南吉は、1913年、愛知県知多郡半田町、現在の半田市に生まれた。
半田は、知多半島の中でも有数の港湾都市として栄えていた。
南吉の父は、農家の三男。畳職人に弟子入りして独立した。
街道沿いの畳屋は繁盛し、嫁ももらい長男も生まれ、幸せの絶頂にあったが、生後18日で長男を亡くす。
次に生まれたのが南吉だった。
南吉が4歳のとき、今度は、母・りゑ(りえ)が29歳の若さでこの世を去る。
父はほどなくして再婚し、子どもが生まれると、南吉をりゑの実家に預けてしまう。
こうして南吉は、父と母の愛を知らぬまま、幼少期を過ごした。
まわりの子どもが母に甘える姿を見る。父と連れ添う姿を見る。
さみしかった。哀しかった。
自分にはなぜ親がいないのか。
癇癪をおこして、祖母や叔父を困らせる。
でも、泣きわめいても、すねても、状況は変わらない。
南吉に手を焼いた祖母は、父のもとに南吉を返すが、ひとりぼっちだった哀しさは、生涯、彼の心から去ることはなかった。
母が恋しかった。母の残像を探した。
でも、それを紡ぐ思い出すら、残っていなかった。
彼は、小学3年のときの作文「冬が来た」にこんな一文を書いた。
「桜の木も寒かろう。寒い風に吹かれながら、ぼんやりと立っています」

童話作家・新美南吉は、線の細い病弱な子どもだった。
クラスの誰ともなじめない。
声も小さく、存在感が脆弱だった。
ただ、作文だけは、先生も驚くほどうまかった。
母の実家で叔父の講談本を隠れて読んでいた。語彙の多さ、感受性は、群を抜いていた。
担任は言った。
「面白く、先生は読みました。この分でいけば、小説家ですよ」
南吉自身も、自分の才能に気づき始めていた。
「物語は裏切らない。ボクがつらいと思っていることを書けば、読んだひともつらいとわかってくれる。小さいとき、さみしいといくら泣き叫んでも、大人は誰もわかってくれなかったのに…」
小学校の卒業式では、答辞を読んだ。
自分で書いた文章。場内は涙で包まれた。
成績はトップだったが、父は息子を中学に進学させるつもりはなかった。
担任の男の先生が畳屋に出向いて説得する。
「南吉君は、ぜったい進学させるべきです」
父は首を縦に振らない。
その頃、家は貧しく、継母は南吉にびた一文払うつもりはなかった。
でも、先生は何度も何度も通った。
「彼の将来を、閉じないでやってください!」
ようやく、父も折れた。
条件は、将来、学校の先生になること。
南吉は、中学を出ると、代用教員をしながら創作に励んだ。
やがて雑誌『赤い鳥』に童謡『窓』が掲載され、彼の作家人生が始まった。

新美南吉は、旺盛な創作欲で、童謡、童話を書き続けた。
でも、病魔が彼を襲う。
激しくせき込むと、白いハンカチに鮮血が散った。
彼岸花にも似た真っ赤な血。
結核だった。
当時は不治の病。絶望の中、彼は言葉を紡いだ。
テーマは、哀しみ、そして愛。

『狐』という童話では、こんな親子が描かれる。
祭りの夜、幼い文六という男の子は、家が貧しくて、お母さんの下駄をはいて出かける。
仲間の子どもたちは、歩きづらそうにしている文六をみかねて、下駄屋で新しい下駄を買うよう勧める。
「お金はあとでいい」という下駄屋のおかみさん。
ところがそこへ老婆が現れ、「夜、新しい下駄をおろすと、キツネに憑りつかれてしまうよ」と脅かされてしまう。
みんなで歩いていると、文六の様子が変だと言われ…。
結局、何事もなく終わるが、文六は家に帰ると母に言った。
「もし、ボクがほんとうに狐に憑りつかれたら、どうする?」
すると、母は言う。
「私とお父さんも、夜、下駄をおろして、一緒に狐になるよ」
「でも、村のひとから鉄砲で撃たれるよ」
と文六が言うと、
「じゃあ、お母さんが足を引きずるふりをして、おとりになり、お父さんとおまえを逃がすよ」
「そんなのやだ!」
文六は泣きわめく。
それが、南吉が過ごしたかった幼少期。見たかった景色。
人生のどうにもならぬ哀しみに、血を吐きながら彼は向き合い、愛に昇華した。
新美南吉は、母と同じ、29歳でこの世を去った。

【ON AIR LIST】
手と手 / アン・サリー
Lonely Lullaby / God's Children
The Horses / Rickie Lee Jones
I Wanna Be Where You Are / Jose Feliciano

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと牛肉のすき煮

今回は、新美南吉の生まれ故郷、愛知県・知多半島でブランド化もされている食材、牛肉を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと牛肉のすき煮
カロリー
194kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 長ねぎ
  • 1/2本(50g)
  • 牛肉(切り落とし)
  • 150g
  • 白菜
  • 2枚(180g)
  • すきやきのたれ(市販)
  • 大さじ3
  • サラダ油
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。
  • 2.
  • 長ねぎは2cmの長さにきる。 白菜も食べやすく切る。
  • 3.
  • 鍋にサラダ油をあたため、牛肉をさっと炒め、すき焼きのタレを入れる。牛肉を脇によせ、霜降りひらたけ、長ねぎ、白菜を入れる。ひたひたの水を加え、霜降りひらたけ、長ねぎ、白菜に火が通るまで煮る。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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