yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百五十話 続けることの大切さ -【偉大な演劇人篇②】俳優 丸山定夫-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百五十話続けることの大切さ

日本に新劇を根付かせた立役者のひとり、「新劇の団十郎」と呼ばれた伝説の俳優がいます。
丸山定夫(まるやま・さだお)。
歌舞伎や能という日本古来の伝統を継承する古典芸能とは一線を画した、全く新しい演劇。
シェイクスピアを翻訳した坪内逍遥の戯曲や、ヨーロッパのリアリズム演劇を日本に持ち込んだ小山内薫の新しい波は、知識人にこそ受け入れられましたが、一般大衆に浸透するのに時間を要しました。
ともすれば高等遊民の道楽、セリフ回しの下手な三文芝居と揶揄されがちだった新劇にあって、丸山の存在は異彩を放っていました。
職を転々として、食べるものにも困っていた青年が、たった一枚のチラシを手に握りしめ、創立間もない築地小劇場の門を叩いたのです。
インテリ集団に、突如、薄汚れた学生服で現れた男。
丸山には、演劇しかありませんでした。
演劇こそ、唯一、自分を引き上げ、生かす、最後の砦だったのです。
彼は、戦争中、劇場が次々封鎖される中にあっても、仲間をこんなふうに鼓舞しました。
「演劇っていうのはね、絶やしちゃいけない、ささやかな灯りなんだ。その灯りはささやかだけど、それを暗闇で待っているひとが必ずいるんだ。続けなきゃいけない。演劇は、続けなきゃいけないよ。時代が過酷であればあるほど、必要な灯りがあるんだ」
戦争が激化して、東京で芝居ができない状況になると、丸山は、移動演劇さくら隊の結成に参加。
隊長として、全国を回ります。
1945年8月6日。
中国地方巡回公演のため広島に滞在していて、被爆。
それから10日後、44年の生涯を閉じますが、最後まで役者として舞台に立つことを夢みていました。
人生を演劇に捧げた偉人、丸山定夫が私たちに残した、明日へのyes!とは?

広島の原爆に散った伝説の俳優・丸山定夫は、1901年5月31日、愛媛県松山市に生まれた。
父は、土佐藩の藩士の末裔。
海南新聞の記者で、気位が高かった。
酒を飲んであばれ、母を罵倒する。
そんな父を怖れ、おびえた。
丸山が小学2年生のとき、父が亡くなる。
極貧時代がやってくる。
子どもたちは方々、里子に出され、丸山も京都の親戚に預けられた。
ほどなくして、リンパの病にかかる。
親戚はその病を気味悪がり、彼を放り出す。
幼くしてのたらい回し。
圧倒的な孤独が心を蝕んだ。
福岡の高等小学校を卒業したあと、愛媛に戻る。
銀行の下働きをするが、給料はほんのわずか。
出入口も裏口しか許されず、みじめだった。
母は、タンスを開けては、明日買う米代がないと泣いた。
丸山は学業が優秀だったが、進学など口に出すことはできない。
気づけば、醜く貧しい自分がいるばかりだった。
彼の唯一の楽しみは、昼飯を1週間我慢して貯めたお金で見る、活動写真。
見ている間だけは、全てを忘れることができた。
さらに彼の心をとらえたのは、京都で見た新劇だった。
息遣い、声、動き、全てがリアルで、衝撃が走った。
「自分がそのままでいい…これこそ、人間の仕事だ」

初めて新劇を見た丸山定夫は思った。
「僕も、観る側ではなく、いつかあんなふうに舞台に立ってみたい」。
広島で、ある劇団が立ち上がるという噂を聞いた。
「青い鳥歌劇団」。
着の身 着のままで、広島に向かう。
「お願いです、なんでもします! 劇団に入れてください!」
団長は、不思議な雰囲気をまとう青年の入団を許した。
丸山は言葉どおり、なんでもやった。
飯炊き、風呂の火起こし、使い走りから、下足番まで。
大雨の日には、はだしで役者の下駄を運び、大量の雨傘を背負った。
小さい頃の苦労に比べれば、なんでもない。
好きな場所にいられる。その幸せのほうが勝っていた。
団長はそんな丸山を可愛がり、やがて、端役ながら役を与えた。
役と言ってもたったのひとこと、時には、ただ銅鑼を叩くだけ。
それでも丸山は嬉しかった。舞台の上に、自分の居場所があった。
そして…彼は気づく。
自分みたいに、辛い現実に日々くじけそうになっているひとがいて、でも、たった一本の芝居で生きる希望を持てたりすることがあるんじゃないか。
丸山は、かつての自分を救うように、誰かを救いたいと願った。

丸山定夫は、世の中がどう変わろうが、誰に誹謗中傷を受けようが、演劇という居場所を手放すことはなかった。
彼は知っていた。
芝居は、空腹を満たすことはできない。
でも、食事代を耐えて舞台に心を委ねることで、自分を支えることができた経験は、絶対だった。
ほんとうにやりたい新劇のために映画に出て、仲間から、魂を売ったと揶揄されることもあった。
それでも最後は、観客の前で、生で演じる演劇に戻ってきた。
移動演劇さくら隊で、広島に滞在し、被爆。
筆舌に尽くしがたい痛みの中、なんとか10日間生き延びて玉音放送を聴いた丸山定夫は、骨と皮だけに痩せ細りながら友人に言った。
「僕はこんなに駄目になってしまった。しかし、また芝居の出来る世の中になったんだね。ねえ、お願いだよ、2年、そう、2年待っておくれ。この体を治して、きっと、きっと、いい芝居をやってみせるよ」
享年44歳。
彼は最期の瞬間まで、続けることを諦めなかった。

【ON AIR LIST】
HEART AND SOUL / Joy Division
COME AS YOU ARE / Nirvana
風の中の羽根のように(女心の歌)(歌劇『リゴレット』より) / ヴェルディ(作曲)、ジョン・健・ヌッツォ(テノール)
終わらない歌 / THE BLUE HEARTS

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと夏野菜の冷製炊合せ

丸山定夫の出身地である愛媛県松山市の特産野菜、なすを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと夏野菜の冷製炊合せ
カロリー
101kcal (1人分)
調理時間
20分 ※冷やす時間は除く
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • だし汁
  • 1500cc
  • 薄口しょう油
  • 70cc
  • みりん
  • 60cc
  • かつお節
  • ひとつまみ
  • ゼラチン
  • 小さじ1
  • ナス
  • 1本
  • 冬瓜
  • 5cm角 4切
  • かぼちゃ
  • 5cm角 4切
  • れんこん
  • 4cm
  • 少々
  • 赤万願寺唐辛子(なくても可)
  • 1本
  • ミニトマト
  • 4個
  • オクラ
  • 4本
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房に分け【だし汁(1カップ)、薄口しょうゆ(大さじ1)、みりん(大さじ1)】で1分ほど茹で、火を止める。
  • 2.
  • 鍋に【だし汁(1・1/2カップ)、薄口しょうゆ(大さじ1・1/2)、みりん(大さじ1・1/2)】を入れ、沸騰したらかつお節を入れて火を止め、こしたものにゼラチンを入れ、冷蔵庫で冷やす。
  • 3.
  • ナスは縦半分にして素揚げする。冬瓜は皮をむきラップをして電子レンジにかける(600W約8分) かぼちゃとれんこんは皮をむき、電子レンジにかける(600W約3分)
  • 4.
  • 鍋に(3)と【だし汁(3カップ)、みりん(大さじ2・1/2)、薄口しょうゆ(大さじ2・1/2)】を入れ、10分程煮る。最後に素焼きした赤万願寺唐辛子を加えて冷ます。
  • 5.
  • 皮をむいたミニトマト、茹でたオクラを【だし汁(360cc)、薄口しょうゆ(小さじ2)、塩(少々)】に漬ける。
  • 6.
  • すべての野菜をよく冷やて器に盛り付け、(2)のジュレをかける。
  • recipe LIST

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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