yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百五十七話 夢を諦めない -【秋田篇】歌手 東海林太郎-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第二百五十七話夢を諦めない

秋田市出身の、昭和の国民的歌手がいます。
東海林太郎(しょうじ・たろう)。
丸いロイド眼鏡に、燕尾服。
最大の特徴は、直立不動で歌う姿。
彼の雄姿を後世に残そうと、秋田市は今年、「東海林太郎直立不動像」の建立を計画しています。
もともと県民会館に胸像はありましたが、今度は旧県立美術館前、千秋公園に向かう通り沿いに建てる予定です。
現在放送しているNHKの朝の連続テレビ小説は、名作曲家・古関裕而がモデルですが、東海林太郎も同じ時期を生きた同志。古関作曲の歌を歌っています。
紫綬褒章を受け、紅白歌合戦には4度出場、『赤城の子守唄』や『国境の町』などのヒット曲にも恵まれた東海林太郎ですが、実は、デビューしたのが35歳。
それまで南満州鉄道のサラリーマンをやったり、中華料理店を営んだ経験を持つ、遅咲きのひとです。
どうしても歌手になる夢を諦めきれなかった苦労人。
それだけに、歌に対する情熱は、すさまじいものがありました。
レコードに吹き込む録音の前には、何度も何度も歌詞を毛筆で書いたそうです。
「私は、歌の意味が知りたいのです。歌詞の後ろに鎮座している魂を理解したいのです。歌は、言葉が届かないと意味がありません。最高の形で言葉を届けるには、それなりの覚悟がいるのです」
歌の背景を体感するために、歌詞の舞台になっている場所に足を運び、文献を読み説き、納得ができるまで声を発することはなかったと言われています。
常に東京 神田 神保町の古本街に通い、歌詞のたったひとつの言葉も逃さない努力をしたのです。
当時、作詞家先生に意見できる歌手は、東海林の他、いませんでした。
彼はステージでファンから握手を求められても、断りました。
「ステージは命がけの真剣勝負の場所なんです。そこで握手なんて、考えられません」
愚直に、真摯に歌に向き合い続けた伝説の歌い手・東海林太郎が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

昭和を代表する歌手・東海林太郎は、1898年、明治31年12月11日、秋田県秋田市に生まれた。
父は、秋田県庁に勤めるエリートだったが、退職。
太郎が小学4年生のとき、母と二人で満州に渡っていった。
残された太郎は祖母と秋田で暮らす。
成績は優秀。
音楽と体育の時間が好きだった。
唱歌を歌い、先生に褒められる。
千秋公園の松の樹にのぼり、大海原を見ながら歌を歌った。
「この海の向こうには、お父さんとお母さんがいるんだ…」
両親に届けとばかり、必死に歌う。
歌っているときだけ、父や母がすぐ近くにいるように感じられた。
ある日、友だちの家に遊びにいくと、バイオリンがあった。
貸してもらう。
必死に独学で練習すると、友だちよりうまくなった。
大連にいる父に「バイオリンがほしい」と懇願。
数週間後、大きな包み紙が届く。
「うわあ、バイオリンだ!」
喜び勇んでばりばりと包みを開けると…空気銃が入っていた。
「音楽なんかにうつつを抜かす暇があったら、これで野生の鹿でも射止めなさい」
父の手紙を読み、がっくりと首をうなだれた。
秋田中学卒業後、おそるおそる東京音楽学校、現在の東京藝術大学への進学を口にするが、やはり父の逆鱗に触れ、断念。
早稲田大学商学部予科に進む。
大学の研究科に在籍しているとき、同じ秋田出身の女性と出会う。
彼女こそ、のちに東海林の妻になる庄司久子。
久子は、東京音楽大学の声楽家出身だった。

東海林太郎は、何度も音楽への夢を断たれた。
同じ秋田出身で『浜辺の歌』の作曲で知られる成田為三は、早くから東海林の歌の才能を知り、師匠の山田耕筰に紹介しようとしたが、父親の反対に遭い、断念。
大学在学中、友人にドイツ留学をすすめられるが、叶わず。
結局、両親がいる大連に渡り、満鉄に入った。
異国にいても、音楽への夢は手放さなかった。
妻の久子は、大連の子どもたちにピアノや声楽を教える。
家にはいつも音楽があふれていた。
音楽に触れれば触れるほど、声楽、歌の道で生きていきたいという思いが募る。
子どもも生まれ、このままサラリーマンを続けながら、音楽を趣味として生きていく道もあるのかもしれない。
妻も言葉にはしないが、それを望んでいるのがわかる。
でも…いいのか、私は本当にそれでいいのか…。
死ぬ時、それで後悔しないか…。
妻の音楽教室の手伝いをする、渡辺シズという女性がいた。
シズは、東京音楽学校でバイオリンを専攻。
東海林とバイオリンの話で盛り上がる。
東海林は、シズの言葉に背中を押された。
「太郎さん、あなたは歌を捨てたりなんかしちゃダメだと思います。そこまで音楽に身を投じたいのなら、私が応援します」

東海林太郎と渡辺シズの関係を知った妻は、子どもと共に日本に帰ってしまう。
音楽への夢を実現するため、満鉄を辞め、シズと音楽のレッスンに明け暮れる。
経済的に苦しくなり、帰国。
弟と中華料理店を開くが、失敗。
何度も声楽家への道を諦めようと思う。
酒におぼれた時期もあった。
でも、どんなときも音楽に助けられる自分がいた。
シズにすすめられて、時事新報社主催の音楽コンクールに応募。
見事、入賞を果たした。
歌手、東海林太郎は、「一唱民楽」、たったひとつの歌で国民を楽しませる、という言葉を座右の銘とした。
これは、宮本武蔵の「一剣護民」を真似たもの。
全てのステージが、真剣勝負だった。
直立不動には、訳がある。
ずっと歌手になりたかった。
たくさんのひとを悲しませ、夢のために捨てたものもあった。
だからこそ、手は抜けない。
歌に全身全霊を込め、空気を震わせる。
遠い海の向こうにいる両親に歌った、あのときのように。

【ON AIR LIST】
国境の町 / 東海林太郎
赤城の子守唄 / 東海林太郎
わたしは嘆くまい(『詩人の恋』より) / シューマン(作曲)、ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ(バリトン)
母に捧ぐる歌 / 東海林太郎

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけと鶏大根のジューシー煮

今回は、秋田のブランドにもなっている食材、鶏肉を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと鶏大根のジューシー煮
カロリー
248kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 鶏もも肉
  • 1/2パック
  • 大根
  • 200g
  • にんじん
  • 1/4本
  • いんげん
  • 3本
  • サラダ油
  • 小さじ2
  • 【A】水
  • 3/4カップ
  • 【A】酒
  • 大さじ1
  • 【A】みりん
  • 大さじ2
  • しょうゆ
  • 大さじ2
  • からし
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。
  • 2.
  • 大根は縦4等分にして、薄めの細長い乱切りにし、人参は小さ目の乱切りにする。 鶏肉は一口大に切る。
  • 3.
  • フライパンに油を熱して鶏肉を焼きつけ、色が変われば大根、人参も入れて2、3分炒める。
  • 4.
  • 全体に油が回れば霜降りひらたけを入れ、【A】をまわし入れて5分煮る。
  • 5.
  • しょうゆを入れて7、8分煮込み、いんげんを入れて3分程煮たら火を止める。器に盛ってお好みで辛子を添える。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる