yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百三十八話 自分の役割を全うする -【東京篇③葛飾柴又】俳優 渥美清-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百三十八話自分の役割を全うする

ひとは、誰もが、ある役割を担うことになります。
好むと好まざるとにかかわらず。
会社では部長や課長という役職を背負い、家では、父や母、夫や妻という顔を持ち、舞台が変われば違う役を演じる俳優のように、いくつもの仮面とともに生きていく。仮面には、役割がついてきます。
ここに、一度つけた仮面を、生涯はずすことが許されなかった役者がいます。
渥美清。彼は、フーテンの寅さんで人気を博し、日本を代表する名優として語り継がれていますが、一時期、その車寅次郎という役割から逃れようとしたことがあります。
渥美清イコール寅さんというイメージを払拭したかったのです。
悪役にもエントリーされました。
横溝正史原作の金田一耕助もやりました。
でも、結局、街を歩けば、「寅さん!この間の映画も、よかったよ!」「寅さん、今度はいつ、柴又に帰るんだい?」と声をかけられるのです。」

ある時期、彼はもがくのをやめました。
「これが自分に与えられた役割ならば、それを全うするしかない」
以来、寅さんのイメージを壊すような役は、断りました。
どんなに親しいひとにも、プライベートをいっさい知らせず、自宅も明かしませんでした。
映画の撮影終わり、ハイヤーでおくられても、自宅のずいぶん前で、「あ、このへんでいいや、ここでおろしてください」とクルマを降りました。
徹底した自己管理と、ストイックな日常生活。
晩年、体は満身創痍で立っていられず、すぐに小道具のトランクに座ってしまうほどでしたが、周囲に悟られないように歯を食いしばりました。
亡くなるときも、「オレのやせ細った死に顔を、誰にも見せたくないんだ。お願いだから、骨にしてから世間に知らせてくれないか」と遺言を残しました。
今もひとびとの心に生き続けるフーテンの寅さんを演じきった、俳優・渥美清が、人生でつかんだ明日へのyes!とは?

渥美清は、今からちょうど90年前、1928年3月10日、現在の東京都台東区に生まれた。本名、田所康雄。
幼い頃から病弱だった。幼児関節炎。小児腎臓炎。膀胱カタル。
病魔は休むことなく彼を襲い、小学校は長期欠席。
たまに学校に出ても、勉強にはついていけない。
知らない漢字ばかりで、読めない。同級生に馬鹿にされる。激しいコンプレックス。
「ボクは、ダメな人間なんだな、きっと。生きていてもいいことなんか、ないのかな」。

学校を休んでいるとき、たまたまラジオから落語が流れてきた。
面白かった。ひきこまれた。徳川無声(とくがわ・むせい)という弁士による宮本武蔵にも、夢中になった。
語りに癒され、語りに希望をもらう。
学校の休み時間に、友達に話芸を披露するようになった。
雨の日が、うれしかった。
というのは、雨が降ると体育の時間は「お話の時間」に変わる。
担任の先生が「田所、今日もなにかひとつ、頼むよ」という。
クラスのみんなが「待ってました!」と手を叩く。
うれしかった。唯一の優越感。そらで覚えた落語を話した。
ウケた。笑ってくれた。田所少年は、ぼんやりと思った。
「これが、ボクの生きる道なのかもしれない」

名優・渥美清が、子どもの頃なりたかった職業は、船乗りだった。
下町育ち。近所の豆腐屋の息子が、マドロスのような恰好をして世界中の港の話をした。
どこそこでは砂糖なんか珍しくないから雨に流されても誰も拾わないんだ、とか、どこそこの空は高く青く、鳥なんか飛んでてすごいんだ、とか、どこそこの国ではみんな裸で暮らしているんだ、などとウットリ語る。
聴いているだけでワクワクした。世界中を旅してみたい。
物心ついてからずっと病気がちだったので、見知らぬ世界に飛びだしたいという強い欲求があった。
でも、母親に激しく反対された。泣いて怒る。
「20歳になれば、どうせ兵隊にひっぱられちまうんだから、何もわざわざ、自分から志願して船乗りになることなんかない!お母さんはね、そんな危ない仕事は、ゼッタイ許さないからね!」
父親は賛成してくれた。
「どうしても、こいつがなりたいなら、いいじゃねえか。なりたいもんがあるだけ上等ってもんよ」。
後年、渥美が俳優になりたいと言ったときは、両親の意見が逆転した。
「役者かい、いいんじゃないか、おまえがどうしてもやりたいなら。命をとられる危険な仕事じゃなさそうだし」と母親は言い、父親はこう言った。「役者だぁ?ダメだダメだ!いつだったか、白塗りの顔をして農家に風呂をもらいにくる、ドサ回りの役者を見たことがある。あれはフツウの人間のする技じゃねえ。やめとけ、やめとけ!」
結局、渥美は、役者の道を志す。
幼い頃、自分に生きるチカラをくれた、フィクションの世界に飛び込む覚悟をもった。

渥美清の本名は、田所康雄。17か、18の頃読んだ小説に、渥美悦郎(あつみ・えつろう)という登場人物がいて、カッコいい名前だなと思った。
特に、悦郎という響きに洗練さを感じた。
下町育ちの彼は、いつもみんなから「ヤッチン」と呼ばれた。
「悦郎なら、エッチャンかあ…エッチャン、いいなあ、よし芸名は、渥美悦郎だ!」
浅草のストリップ劇場の幕間に芝居をする劇団に入る。
座長が挨拶して、「ただいまより演じますのは」、と紹介するときに、「渥美…渥美…」。なぜか、悦郎という名前を忘れ、とっさに、こう言った。
「渥美、清でございます」。
以来、芸名は、渥美清になった。
渥美は、踊り子たちに人気があった。誰のことも下に見ない。
わけ隔てしない。笑顔で声をかけ、励ます。
役者として目が出ない渥美が落ち込んでいると、ある踊り子が「すっごく当たる占い師さんがいるから、一緒にいこうよ」と誘った。
彼女は、渥美を元気づけたかった。
その占い師は、悪い事を言わないので有名だった。
二人で浅草の裏路地を目指す。しかし、占い師の男性はこう言った。
「あんた、役者は諦めたほうがいいなあ。芽は出ないよ」
落ち込む渥美に、踊り子は泣いて謝った。「ごめんね、ごめんね」。
彼は言った。「いいんだよ、誰に望まれて始めたことじゃない。オレはオレの気が済むまでやってみるよ」。
浅草で演じている舞台を、ある広告代理店のひとが見て、テレビにひっぱってくれた。初めての映像の世界。
渥美は、かつての先輩の言葉を思い出していた。
「おまえは泥棒には向かねえ顔だ。一度見たら、忘れらんねえからな」
頑張った。夢中で演じた。やがて渥美は、車寅次郎に出会う。
そこには、自分がいた。自分の役割があった。
世の中からはじかれそうになり、まっとうに生きられない。
それでも、誰かを笑顔にしたくてたまらない。
葛飾柴又。『寅さん記念館』には、今日も多くのファンが足を運ぶ。
生涯、役割を全うした、あのひとに背中を押してもらいたくて。

【ON AIR LIST】
Forever Young / 竹原ピストル
Sloop John B / The Beach Boys
Come Fly With Me / Frank Sinatra
さすらい / 奥田民生

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの牛すき煮

下町育ちの渥美清は、近所の豆腐屋の息子が話す世界中の港の話を、ワクワクしながら聴いていたそう。今回は、豆腐を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけの牛すき煮
カロリー
310kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 牛肉(薄切り)
  • 120g
  • 焼き豆腐
  • 1/3丁
  • 長ねぎ
  • 1/2本
  • 春菊
  • 1/2束
  • 白滝
  • 1/3袋
  • 【A】しょうゆ
  • 大さじ3と1/2
  • 【A】みりん
  • 大さじ2
  • 【A】酒
  • 大さじ2
  • 【A】砂糖
  • 大さじ2
  • 【A】水
  • 1/2カップ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。
  • 2.
  • 春菊は縦4等分に、長ねぎは斜めに切る。焼き豆腐は一口大に、白滝はざく切りにする。
  • 3.
  • 鍋に【A】を入れ、霜降りひらたけ、春菊、焼き豆腐、白滝を入れて火にかける。煮立ったら7、8分煮る。
  • 4.
  • 長ねぎを入れて5分程煮込み、牛肉を広げて入れ、更に2、3分煮たら火を止める。
  • ※お好みで生卵をつけたり、七味をふっていただく。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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