yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百二話 見たままをうつす力 -【千葉篇】画家 山下清-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百二話見たままをうつす力

千葉県、我孫子駅にある立ち食い蕎麦の人気店、『弥生軒』。
この店で働いたとされる、放浪の画家がいます。
山下清(やました・きよし)。
弥生軒は、昭和3年に創業。当初は、我孫子駅構内で弁当を販売していました。
山下清は、昭和17年からおよそ5年間、住み込みで働いていたと言われています。
弥生軒の初代社長は、戦中、戦後の食べ物がない時代を経験。
来るものは拒まずの精神で、ただお腹いっぱい食べられそうだ という目的だけでやってきた山下を、こころよく受け入れました。
山下は、3歳のとき、病で生死の境をさまよい、その後遺症で軽い言語障害、知的障害を患います。
弥生軒でまかされたのは、弁当を売ることでもお金を勘定することでもなく、たとえば、大根切り。
店のひとにお願いされると、包丁を華麗に操り、最後の芯のところギリギリまで切ったそうです。
繊細でひとなつっこく、いつも笑顔で、周囲を和ませました。
突然、ふらりといなくなったかと思うと、必ず半年後に戻ってくる。それを5年間、繰り返したといいます。
その間に、山下は、画家として脚光を浴び、画伯になっていました。
弥生軒のみんなが「すごいねえ、立派になったねえ」と言っても、どこ吹く風。
「ボクは何も変わらないんだけどなあ」と、必死に大根を切ります。

弁当に掛ける掛け紙に絵を画くことになり、春夏秋冬、我孫子の自然を描きました。
手賀沼公園の秋を画いたあと、病に倒れ、49歳で他界。
冬の掛け紙は、永遠に描かれることはありませんでした。
放浪に出かける前の晩は、決まってこう言ったそうです。
「今夜は、月がきれいですね。星もきれいですね」
半ズボンに坊主頭、リュックを背負っておにぎりを食べる、放浪の画家・山下清が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

裸の大将、日本のゴッホと言われる放浪の画家・山下清は、1922年3月10日、東京・浅草で生まれた。
翌年の関東大震災で一家は焼きだされ、両親の郷里、新潟市に移り住む。
3歳のとき、重い消化不良になる。
歩けない。動けない。
何度も命の危険にさらされるが、持ちこたえる。
半年後、病気は治ったが、軽い言語障害を患う。
うまく話すことができない。
一家は戻り、山下清は浅草の小学校に入った。
知的障害も患っていることがわかった。
いじめられた。
クラスのひと、まわりの大人、みんな、彼の言葉、動きを真似て笑った。
腹が立つ、悔しい、という感情より、恥ずかしい、哀しい、が先にやってきた。
「どうして、ボクはひとと違うんだろうな」
あまりに侮辱を受けるので、コンプレックスは怒りに変わった。
言葉ではなく、手を出してしまう。
暴れた。
そのことで返って周囲との溝を深めてしまう。

10歳で、大好きだった父が亡くなる。
そのショックも重なり、彼はますます孤独になっていった。
父は、満足に字が書けない彼に、絵を教えた。
「清、字なんてどうでもいいよ。絵を画いてごらん。おまえが見て感じたことを、ただ、この紙に移せばいい」
絵を画いているときだけ、世界とつながることができた。
絵を画いているときだけ、大好きな父さんに会えた。

放浪の画家・山下清の母は、すぐに再婚した。
新しい父は、清に、「いじめたやつには、こいつで制裁を加えればいい」とナイフを渡した。
清はナイフを振り回し、学校にいられなくなる。
やがてたどり着いたのが、千葉県八幡町の養護施設、八幡学園だった。
そこでの授業で、山下清は運命的な出会いをする。
「ちぎり絵」。
赤、青、黄色、色とりどりの折り紙を好きなように千切って、画用紙に貼る。
他の生徒がハサミで切るのに、山下は手で千切った。
細かく、細かく、指で千切る。
夢中になる。誰よりも熱心に向き合った。
しかも、その絵の完成度、配色の素晴らしさに先生が驚いた。
「この子は、いったいどこでこれを学んだんだろう…」
難しいことは考えない。
山下はただ、父の言葉を反芻していただけだった。
「おまえが見て感じたことを、ただ、この紙に移せばいい」
『お化け』、『花火』、『遠足』、『虫の集まり』。
黙々と折り紙を千切り、貼っていく。
「ちぎり絵」を始めてから、彼の性格がどんどん穏やかになっていった。
もともと、争いを好むタイプではない。
ようやく、本来の場所に戻ることができた。
まわりのひとが、褒めてくれる。
うれしかった。
初めて、他人に、生きていることを認めてもらった。
何より、自分の絵を見て笑顔になってくれるひとがいると、ほっこりと、幸せな気持ちになった。

山下清は、18歳から放浪を始めた。
きっかけは、徴兵検査。
戦争に行くのが嫌だった。
誰かが大声で怒鳴ったり、強くいがみあったりするのが嫌いだった。
逃げる。嫌なことから、とことん逃げる。かつて自分を苦しめたものから逃げる。
旅は、よかった。
世界は色であふれている。
どんな町にも、絵にしたい風景があった。
特に花火が好きだった。
夜空に舞う、たくさんの色たち。
花火大会があると聞けば、すぐに出向いた。
その場で画くことはほとんどない。
宿や家に戻り、記憶力を頼りに画いた。
思い出すと、幸せな気持ちになった。
それを絵に残すと、さらに幸せが何倍にもふくらんだ。

後年、八幡学園にゲストとして呼ばれた。
園長に、生徒たちの「ちぎり絵」を見て、批評してやってくださいと頼まれる。
全ての絵を丁寧に見たあと、彼はただひとこと、こう言った。
「ぜんぶ、うまいです」
「いやいや、何かアドバイスか批評を」と言われても、「いや、ぜんぶうまいです」としか言わなかった。

彼は、のちに記している。
「放浪をやめるというと、お母さんや弟や妹が喜ぶので、放浪はあまりよくないことなのだと思います。でも、ボクは放浪をしてしまいます。気がつくと、外に飛び出してしまうのです。花火大会に行きたくなってしまうのです」

彼は、花火の向こうに、お父さんを見ていたのかもしれない。
画いた絵をほめてくれた、お父さんの笑顔に、会いたかったのかもしれない。

【ON AIR LIST】
旅をしませんか / 空気公団
YOU MAKE ME FEEL LIKE DANCING / Leo Sayer
LOVE OF MINE / Bardo Martinez
FREE UP / Los Lobos

【撮影協力】
あびこの魅力発信室・アビシルベ
https://www.city.abiko.chiba.jp/miryoku/

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと鮭のかぶら蒸し

今回は、千葉で多く生産されている野菜、かぶを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと鮭のかぶら蒸し
カロリー
150kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • かぶ
  • 2個
  • 生鮭
  • 1切
  • 卵白
  • 1個分
  • 水溶き片栗粉
  • 適量
  • ひとつまみ
  • 【合わせ出汁】
  • 出汁
  • 200cc
  • みりん
  • 25cc
  • 薄口しょうゆ
  • 25cc
作り方
  • 1.
  • かぶはすりおろし、水気を軽く切る。鮭は一口大に切る。
  • 2.
  • (1)のかぶと白く泡立てた卵白を混ぜ、軽く塩をする。
  • 3.
  • 器に鮭の切り身、(2)、ほぐした霜降りひらたけを入れ、ラップをする。 お湯を張ったフライパンに器を入れ、蓋をして中火で10分蒸す。
  • 4.
  • 小鍋に【合わせ出汁】を入れ強火にかけ、水溶き片栗粉を加えとろみをつけ、蒸しあがった(3)にかける。
  • recipe LIST

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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