yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三十三話 角を捨てない -【京都篇】 芸術家 北大路魯山人-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三十三話角を捨てない

「器は、料理の着物」という有名な言葉を残した、北大路魯山人は、京都市上賀茂北大路町に生まれました。
陶芸家、画家、篆刻家、料理家、美食家。
彼を表す言葉はさまざまですが、ひとことでいえば、当代きっての芸術家。
その多様さ、作品の多さ、領域の深さは、他に類をみません。
今もなお、ひとびとをひきつけてやまない、彼のチカラ。
しかし、旺盛な創作欲の中、彼には常に悪評がつきまとっていました。
傲慢、横柄、虚栄。
世界に名だたるピカソまでも罵倒する、雷のような物言いに、ひとびとは怖れをなし、また尻込みし、去っていくものも少なくありませんでした。
どんなに偉い社長や役人だろうと、容赦しない態度。
「馬鹿者!帰れ!貴様のようなやつに用はない!」
「なにやってんだ!この盗人が!」
「おまえの顔など、二度とみたくもない!」
その叱責や怒号は、ときに逆鱗に触れ、彼はさまざまなものを失ってきました。
それでも、彼は、自らの『角(かど)』を捨てませんでした。

魯山人の人生を丁寧に論じたことで知られる、美術評論家の白崎秀雄は、こんなふうに語っています。
「魯山人にとって生涯消えることがなかった性格、要素は、角ではないか。篆刻も、鈍角ではなく、鋭角に彫る。陶器も四方の鉢を好み、料理にも角を立てた」。
常人は、角を捨てます。
常人は、角をけずることで、世間と調和し、世界に溶け込みます。
しかし、ここに角を生涯持ち続けた男がいます。
どんなにけなされ、嫌われ、うとましく思われても、捨てなかったもの。
北大路魯山人が、自らの角を手放すことがなかったわけとは?
そこに見えてくる、彼にとってのyesとは?

北大路魯山人、本名、北大路房次郎は、1883年、京都の上賀茂神社のお社に生まれた。
魯山人は、母の不貞によって生まれた。
妻の妊娠を知った父は、自ら命を絶ってしまう。
「自分は、生まれてはいけない子供だった」。
その思いは、魯山人を生涯苦しめることになる。
母は、魯山人を生んだあと、失踪。行方不明になる。
彼は放置され、やがて、巡査にもらわれるが、その巡査もいなくなり、妻も病死する。
生まれながらにして、ひきとり先を転々とする魯山人。
そんな中、3歳のときに見たつつじが忘れられないと彼は言う。
養ってもらっていた家の姉に、手をとられのぼった上賀茂神社東側の山。
そこに咲き乱れる真っ赤なつつじの光景は、彼の目に、鮮烈な印象を残した。
もらわれていく先で、虐待も受けた。
信じるひと、絶対的に心をゆだねることができるひとが、どこにもいない。
最もそれを必要とするときにそれを得られないと、何かを損なうことがある。
魯山人の心に、角が育ち始めた。
龍が、ゆっくりと、首をもたげた。

北大路魯山人は、6歳のとき、ようやく養子になった。
京都竹屋町の木版師、福田武造にひきとられ、福田姓を名のった。
福田家では、率先して炊事を手伝った。
それが料理に触れるきっかけになった。
10歳で尋常小学校を出ると、丁稚奉公に出された。
ある日。奉公先からの使い走りの途中。
路地の先にある料理屋の行燈看板の文字に、心うたれた。
ひとふで書きの亀の絵と、流れるような文字。
「なんて綺麗なんだろう」。
そのフォルム、シンプルだけどひとの心をつかんで放さない存在感。
幼い魯山人は、いつまでもそこに立ち尽くした。
絵が画きたい、字を書きたい。
絵の学校に入るお金はない。
魯山人は、書道コンクールに作品を出した。
それが何万の中から見事選ばれ、受賞。
次々と応募して、賞金を稼ぎ、そのお金で絵筆を買った。

21歳のとき、日本美術協会主催の美術展覧会に出品した、千の文字の文と書く『千字文』が、1等2席を受賞。
初めて世間に認められる扉が開いた。
町の書家として名をなしていた、岡本太郎の祖父にあたる、岡本可亭の内弟子になった。
その腕の確かさで、あっという間に、師匠より稼ぐようになる。
稼いだ金は、道具や骨董、美味しいものの食べ歩きに使い果たした。
こうして、彼は自らの中に角を育て、補強していった。

北大路魯山人は、生涯に6度、結婚したが全て破綻した。
2人いた男の子は早くに亡くし、たったひとりの娘には裏切られ、晩年、会うこともなかった。
「オレは・・・さびしいんだ」
近しいものに、つぶやくように云う彼の姿があった。
ラジオから流れてくる心温まるホームドラマを聴いて、嗚咽するほど、泣いた。
あふれる涙をぬぐうことも忘れて、泣いた。
家庭が欲しかった。あったかい家族がほしかった。
でも、彼の中の龍は、吠え続け、他者を寄せ付けない。
彼が育んだ角は、家庭には余計なものだった。
龍を、角を、芸術に捧げること。
そうするしかなかった。
そうすることでなんとかバランスを保った。

誰にも愛されず、誰にも祝福されなかった幼少期が、彼を奮い立たせる。
魯山人は、必死に言い続けた。
yes、yesと。
「誰かが言ってくれないなら、オレは自分で自分に云ってやる!」
「おまえは、生まれてきてよかった。だから捨てるな。無くしてはいけない。角を。心の中でうごめく、龍を」
彼は、角をとらない。丸くしない。
魯山人は、最後まで、怒り、戦いぬいた。

【ON AIR LIST】
Isolation / John Lennon
紅い花 / UA
Fragile / Sting
High And Dry / RADIOHEAD

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとオクラの梅だれ

生涯『角』を捨てることなく、陶器も四方の鉢を好んだという、北大路魯山人。そんなエピソードにちなみ、四方の鉢にオクラの鋭い角が際立つ、この料理をご紹介します。

霜降りひらたけとオクラの梅だれ
カロリー
71kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • オクラ
  • 5本
  • 長芋
  • 60g
  • 大さじ2
  • 梅干し
  • 1個
  • 【A】薄口しょうゆ
  • 小さじ2
  • 【A】みりん
  • 小さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐし、長芋は千切りにする。梅干しは叩いておく。
  • 2.
  • フライパンに、オクラを入れて酒をふり、蓋をして弱火で2、3分蒸し茹でする。霜降りひらたけを入れて更に3、4分蒸す。
  • 3.
  • 火が通れば水気を切って冷まし、オクラは小口切りにする。
  • 4.
  • 具材を器に盛りつけ、叩いた梅、Aを合わせたたれを回しかける。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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