yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百五十八話 他人に勝たなくていい -【沖縄篇】武術家 松村宗棍-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百五十八話他人に勝たなくていい

琉球王国時代に活躍した、最も偉大な空手の達人がいます。
松村宗棍(まつむら・そうこん)。
今日の、空手の流派・首里手系統のほとんどは、今も松村の流れを継いでいると言われています。
自身も空手有段者の作家・今野敏(こんの・びん)は、渾身の小説『宗棍』で、松村宗棍の生涯を描き切っています。
2020年東京オリンピックで追加種目として正式採用された空手が、実は琉球王国、沖縄が発祥の場所で、その後、中国武術と融合し、全国、あるいは世界に広まったことは意外に知られていません。
東京オリンピック、空手の形の部門で、見事金メダルを獲得したのは、沖縄出身の喜友名諒(きゆな・りょう)でした。
彼の圧倒的な技は世界を魅了し、空手のルーツである沖縄代表として躍動しました。
形とは、全日本空手道一友会によれば、「空手道を学ぶ者の己の表現」。
身体の鍛錬と内面的な精神統一からなる、究極的な自己防御の姿勢なのです。
これこそ、松村が求めた真の姿でした。
強くなりたい、だから空手を習う。
そんな若者を松村は制します。
「空手とは、本来、戦って勝つことではない、戦わずして勝つ。
あるいは、相手を傷つけず、自分も傷つかず、やり過ごす。
空手は人生と同じく、誰かに勝つことが目的ではないのです」
強さとは、ひとに誇るものでも、他人を叩くためのものでもない。
自分の中に強さを蓄えておくのは、むしろ戦わないためであると、松村は説きます。
だからこそ、空手の形は、美しく、荘厳で清々しいのです。
琉球国王の三代にわたるボディガードとして仕え、後進の教育に半生を捧げた、武術界のレジェンド・松村宗棍(まつむら・そうこん)が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

琉球国王の時代から空手を広めた武術家・松村宗棍は、1809年、現在の沖縄県那覇市に生まれたと言われている。
幼い頃から才気煥発。運動神経もずば抜けてよかった。
見よう見まねで空手を学び、近所の子どもの間でも恐れられる存在だった。
宗棍が生まれたのは、首里山川村。
首里は琉球王国の首都で、政治や文化の中心だった。
琉球王府に仕える首里士族は、文武両道を掲げ、武術や芸術に多くの著名人を輩出した。
宗棍も、その風潮を受け、いくら強くても自分から手を出すことを戒めていた。
ただ、大切な友人が痛めつけられているのは、見過ごせない。
10代の前半、己の技をつい使ってしまう。
それを見たのが、佐久川寛賀(さくがわ・かんが)だと言われている。
佐久川は、空手の源流のひとつ、唐手のレジェンド。
唐手佐久川の異名を持つ。
「佐久川の後には彼はなく、後世の世に称せられる人で、力量その他の点において、彼の右に出るほどの人はなかった」と伝えられている。
その佐久川が、宗棍の技を見て、言った。
「おまえはまだ、誰かを倒すために空手を使っている」

空手という文化を作ったレジェンドのひとり、松村宗棍は、幼少の頃、運命的な出会いをする。
それは、後に師匠と仰ぐことになる、武術の大家・佐久川寛賀。
「誰かを倒すために、技を使っている」と言われ、宗棍は不満気な顔をした。
それだけは、自ら律してきたつもりだった。
佐久川は、言った。
「ひとは、強くなれば、それを示したくなる。
技を持っていれば、それを使いたくなる。
でもな、ほんとうの強さは、己の中に蓄えておくものなんだ。
結局、武術は、誰かを倒すためではなく、誰とも争わないためにあるんだ」
幼い宗棍には、理解ができない。
ただ、目の前の人物の圧倒的なオーラには、感服した。
「よかったら、私のもとで修行してみないか」
そう言われ、二つ返事で、「お願いします!」と言った。
それが、佐久川寛賀とも知らずに。
佐久川は、宗棍の身体のしなやかさ、動きの繊細さを、瞬時に見抜いていた。
「私の後継者として育ててみたい」
そう、心に思った。

松村宗棍は、佐久川から多くを学んだ。
師匠・佐久川にいくら打っても、届かぬどころか、打つことさえもできなくなる。
「ひとに打たれず、ひとを打たず、事なきをもととするなり」
そう、教わる。
強くなりたい。誰にも負けない技を身につけたい。
その一心で修行に励んできたのに、勝手が違う。
そもそも、沖縄に空手の試合という発想はなかったと言われている。
空手は、あくまで護身術。
誰かと競い、勝ち負けがつく世界とは一線を画している。
あくまで、大事なのは、自分の心。
内面の充実、鍛錬、精神の成長。
「一緒に、大陸に行こう」
佐久川から誘われた宗棍は、中国に渡った。
そこで彼が学んだのは、武術と医術、すなわち、空手と医学が同じものであるということ。
からだの仕組みを知れば、無駄な攻撃も無意味な戦いも避けられる。
佐久川と北京を訪れ、中国武術を学んだ宗棍は、師匠の真意を悟る。
北京で亡くなった佐久川の遺骨を抱いて、沖縄に戻った宗棍は、真の空手道を説き、弟子たちに言った。
「強さを誰かを打ち負かすことに使ってはいけない。
おまえたちは、誰にも勝たなくていいんだ。
自分に負けないこと、それがいちばん大切なんだ」

【ON AIR LIST】
島唄 / THE BOOM
グローリー・オブ・ラヴ(『ベスト・キッド2』) / ピーター・セテラ
行ち戻い(いちむどぅい) / ジュス
ウージの唄 / かりゆし58

★今回の撮影は、「沖縄空手会館」様、「国営沖縄記念公園(首里城公園):首里城地区・瑞泉門周辺他」様にご協力いただきました。ありがとうございました。

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとやわらかポークの山椒炒め

今回は、沖縄で多く生産されている食材、オクラを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとやわらかポークの山椒炒め
カロリー
187kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 豚ヒレ肉
  • 150g
  • オクラ
  • 5本
  • しょうが
  • 1片
  • 片栗粉
  • 大さじ1
  • ふたつまみ
  • 砂糖
  • 小さじ1
  • しょう油
  • 大さじ1/2
  • 山椒(粉)
  • 小さじ1/2
  • サラダ油
  • 大さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。豚ヒレ肉は厚さ1cmの一口大に切り、塩と砂糖を揉みこんでから片栗粉をまぶす。オクラはガクを切り落とし、斜め半分に切る。しょうがはみじん切りにする。
  • 2.
  • フライパンにサラダ油を強火で熱し、豚ヒレ肉を炒める。両面に焼き色がついたら、オクラ、霜降りひらたけ、しょうがを炒め合わせる。
  • 3.
  • 香りが立ったら鍋肌からしょう油を加えて混ぜ、火を止めて山椒を振り混ぜる。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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