yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百二十六話 自分で得たものしか使えない -【三重篇】映画監督 衣笠貞之助-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百二十六話自分で得たものしか使えない

1954年に開催された第7回カンヌ国際映画祭で、日本人として初めて、見事グランプリを獲得した映画監督がいます。
衣笠貞之助(きぬがさ・ていのすけ)。
作品のタイトルは『地獄門』。
主演・長谷川一夫。
審査委員長のフランスの詩人・ジャン・コクトーは、衣笠の、平安時代の色彩美を再現した才能に、最大の賛辞をおくったと言われています。
カンヌ国際映画祭のグランプリは、のちにパルム・ドールと名を変えますが、次に選ばれた日本人は、1980年の黒澤明『影武者』まで待たねばなりませんでした。
もともと、新派の女形。
役者だった衣笠は、映画監督としても頭角を現し、長谷川一夫とは、およそ50本あまりの映画をつくり、日本中の映画ファンを魅了しました。
群を抜いた素晴らしい功績があるにも関わらず、ほぼ同時代の映画監督、小津安二郎や溝口健二と比べると、現代にその名が受け継がれているとはいいがたい現実があります。
小説家の川端康成や横光利一、岸田國士らと、新しい映画芸術を創造しようと、新感覚派映画聯盟を設立。
その中心メンバーとして実験的な映画『狂った一頁』を発表。
日本映画初のアヴァンギャルド映画を監督しましたが、ふたをあけてみれば、大赤字。
結局、売れる映画を創り続けました。
ただ、衣笠は、いつも新しいもの、これまでにないものに興味を持ち、さまざまな手法を試すことには終生、貪欲でした。
生涯、活動写真が大好きな映画青年。
ピュアな心の原点には、ただひとつ、観客を驚かせて楽しませたいという思いがありました。
黎明期から、映画という文化の屋台骨を支え続けたレジェンド・衣笠貞之助が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

映画監督・衣笠貞之助は、明治29年、現在の三重県亀山市に生まれた。
六男二女の四男だった。
亀山は、江戸時代、伊勢亀山藩の城下町として栄え、鈴鹿峠を越えるための重要な宿場町としてにぎわっていた。
貞之助の実家は、煙草問屋。
お金には困らない、それなりに裕福な暮らし。
母は、歌舞伎と新派劇、共に大好きで、貞之助が幼い頃から一緒に連れて行った。
小学校を出て私塾に通うようになると、貞之助もすっかり演劇にのめり込む。
特に新派が楽しかった。
歌舞伎の模倣や、小説の脚色が多かったが、子どもにもわかりやすく、勧善懲悪があり、色恋や人情ものがあった。
大人たちは、笑い、泣いた。
津市にある曙座に行った帰りには、今見てきたばかりの芝居を真似してみせた。
母は、貞之助が演じる姿を見て、お腹を抱えて笑う。
そんな母の姿を見るのが好きだった。
15歳を過ぎた、ある寒い夜、火鉢をつつく母に、彼は打ち明けた。
「お母さん、ボク、ひとつ、夢ができたよ。あのね、役者になりたいんだ。役者になって全国を回りたいんだよ」
芝居好きの母は、きっと賛成してくれるだろうと思った。
しかし、母は、冷たい視線で貞之助を真っすぐ見つめ、こう言った。
「馬鹿なことを言うんでないよ。芝居っていうのはね、見て面白いもんで、自分で演って、何が面白いもんですか」
がっかりした。
父が反対するのはわかっていたが、母はきっと理解してくれると信じていた。
役者への夢は消えるどころかどんどん膨らみ、18歳の春、ついに彼は家出を決行した。

小津安二郎や溝口健二と同じ時代を生きた映画監督のレジェンド・衣笠貞之助は、若かりし頃、役者になろうと思った。
18歳の4月、新橋行きの切符を握りしめ、家出した。
汽車が、ある駅で停車する。
曇った窓をこすると、ホームの柱に「おおがき」と書いてあった。
大垣駅。停車時間は2分だけ。
小雨が降っている。
駅のすぐそばに「柿羊羹」の店があり、その軒下に芝居のポスターがつるしてあった。
『新派有無会公演』
有っても無くてもいいような芝居…そんな意味か…。
そう思いつつ、気がつくと、汽車を飛び降りていた。
大事に握りしめていた切符は、捨てた。
その瞬間、彼の人生が大きく変わる。
ポスターにあった劇場に行ってみた。
近くの宿を片っ端からあたる。
どこかに一座が泊まっているはずだ…。
ようやくたどり着いた。
雨もりのする天井。
二階の奥の間に通された。
座長らしきひとは、頭がつるりとはげた男性。
貞之助が座るなり、「この芝居はお金になりませんよ」と言った。
「歳はいくつ?」
「18です」
「そう、いいね、これからだね。実はいい娘役がいなくて困っていたんだ。ひとつ、勉強してみなさい」
どうやら、女形の志願者に間違われたらしい。
こうして、若き衣笠貞之助は、女形の役者として舞台にあがった。

衣笠貞之助は、女形の役者になったが、もちろん経験もなく、演技の基礎も知らない。
座長は言った。
「新派の役者っていうのはな、自分自身で演技を会得するしかないんだよ。歌舞伎のように、決まった所作や型がないからなあ。自分で編み出して工夫するよりほかに、道はない。どうやったら道が見つかるかって? そりゃおまえ、熱心に見ることしかないねえ。人の演技を、たくさんたくさん見るんだよ。みんなそれぞれ特徴がある。その長所だけをもらって、自分のもんにしていくんだ。最初は、真似でいい。真似して吸収してから、自分のもんにしていくんだよ」。
必死で見た。
先輩たちの演技。目、首の動き、肩、腰の回し方。
やがて、気づいた。
そうか…心なんだ。
心が動いていないと、演技は動かない、見たひとの気持ちも動かない…。
衣笠貞之助の映画の原点は、幼いころ見た芝居と、自らの演技経験にあった。
常に観客を驚かせること。そして、心をつかむこと。
そのためには、自分が学ばなくてはいけない。
新しいものに挑戦していなくてはならない。
彼は、多くの観客を呼ぶための大衆映画も数多く監督したが、刀がない時代劇や、斬新な音楽と字幕だけで感情を表現する前衛映画も撮った。
とにかく、芝居が好きだった。
若い俳優に語りかけた。
「役者っていうのはさ、結局、自分自身で演技を会得するしかないんだよ」。

【ON AIR LIST】
白日 / King Gnu
明日への挑戦(Take Me To The Next Phase part1&2) / アイズレー・ブラザーズ
役者(Le Comedien) / 石丸幹二
映画監督 / 斉藤和義

★今回の撮影は亀山市歴史博物館様にご協力いただきました。ありがとうございました。

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと豚肉のしゃぶしゃぶ

今回は、亀山市でも盛んに栽培されている、梅を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと豚肉のしゃぶしゃぶ
カロリー
177kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 豚薄切り肉
  • 150g
  • みょうが
  • 1本
  • 2粒
  • しょう油
  • 少々
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐし、霜降りひらたけがかぶる位の熱湯を用意し、1分ほど茹でザルにあげる。小皿に茹で汁を小さじ4とっておく。みょうがは小口切りにして、サッと洗う。
  • 2.
  • 残りの茹で汁に水を足し沸騰直前まで温め、豚肉を入れ火を通し、ザルにあげ、肉が大きい場合は食べやすい大きさに切る。
  • 3.
  • 梅をたたき、とっておいた茹で汁でのばし、しょう油で味を調える。
  • 4.
  • 器に霜降りひらたけと豚肉を盛り、みょうがを散らして、(3)を添える。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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