yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百五十六話 襷をつなぐ -【長野篇】作詞家 山川啓介-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百五十六話襷をつなぐ

長野県南佐久郡小海町。
北八ヶ岳と奥秩父山塊の間に位置するこの町で幼少期を過ごした、作詞家がいます。
山川啓介。
青春ドラマの主題歌として大ヒットした、青い三角定規の『太陽がくれた季節』、火曜サスペンスのエンディング曲『聖母たちのララバイ』、ゴダイゴの『銀河鉄道999』や、矢沢永吉の『時間よ止まれ』など、名曲は枚挙にいとまがありません。
その歌詞のあたたかさ、やさしさ、会話調の言葉づかいは、多くのファンを魅了しました。
昨年7月、72歳でこの世を去った彼の原点は、幼少期を過ごした小海町の松原湖にあります。
澄んだ風に湖面を揺らす、この静謐な湖のほとりに、ある歌碑が建てられています。
『北風小僧の寒太郎』。
NHK「みんなのうた」で大人気だったこの歌を作詞したのも、山川啓介です。
彼は本名の井出隆夫の名前で子ども向けの童謡も、数多く作詞しました。
歌碑に近づくと、センサーが反応して、あの懐かしいフレーズが流れます。
「北風小僧の、寒太郎……寒太郎」
山川の心の中には、いつも、冬の松原湖があったのかもしれません。
寒い風が吹きつける。
一面、雪で真っ白。何もない。何も見えない。
ただ、風の音だけが聴こえる。ヒューン、ヒューン。
奇しくも、その歌碑の近くには、小学校の先生で歌人だった祖父、井出八井(いで・はっせい)の石碑もあります。
山川には、ひとつの流儀がありました。
新しい才能に襷(たすき)をつなぐ。
若いひとを鼓舞し、激励し、チャンスを与え、愛する音楽を守ろうとした男、作詞家・山川啓介が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

作詞家・山川啓介は、現在の長野県佐久市に生まれた。
幼少期を過ごしたのは、小海町。松原湖が遊び場だった。
同年代の子どもが少ない。ひとりで遊ぶことが多かった。
強烈に印象的なのは、冬。八ヶ岳から吹き降ろす、冷たい風がやってくる。
枯れ枝を吹き飛ばす。湖の水面が、幾重にも波紋で乱される。
山川は、木の電信柱に耳をつけた。なんともいえない音が鳴っている。
風の音。ヒューン、ヒューン。電信柱が泣いている、と思った。
でも、何度もその音を聴いていると、ひとりぼっちであることを忘れられた。
まるで遠くから自分に会いにきてくれる、友達の挨拶に聴こえた。
ヒューン、ヒューン。こんにちは。やあ、元気かい?
自然界は、音であふれている。
それは、こちらが寄り添えば、優しい音楽にも聴こえる。
山も野も、川も湖も、そして風も、そこに悪意はない。
山川は、こんなふうに語っている。
「子ども向けの曲も、青春歌謡も、大人の歌も、僕の詞の根底には、性善説があるように思います。人間は生まれながらにして悪ではない。食べ終わったあとに残るあじわいは、いつも、おいしい、であってほしいんです」。
だから山川は、火曜サスペンス劇場のエンディング曲の発注があったときも、最初に考えたのは、どんな事件であっても殺伐としたまま終わってほしくない。
そこには、レクイエムが、ララバイが必要だ。

作詞家・山川啓介は、高校時代、ラジオの深夜放送で洋楽を聴き、音楽の素晴らしさにはまった。
特にミュージカル音楽に興味を持つ。
『五つの銅貨』という映画が大好きだった。
「音楽って、すごい!ひとの心をここまで動かすことができるんだ!」
早稲田大学文学部に入ってからは、自分で詞を書き始めた。

ある日、クラスメートから「オレの彼女がさあ、ミュージカルで主役やるんだよ、チケット買ってくれよ」と誘われた。
見てみると…ひどい。話の筋も音楽も最低だった。
正直にクラスメートに告げると、次の日、喫茶店に呼び出される。
行ってみると、ミュージカルサークルの連中がびっしり待っていた。
まずい…。
そう思ったがリーダーから「意見を聞かせろよ」と迫られ、思い切って本心をぶちまけた。
一瞬の静寂があったあと、リーダーが言った。
「だったら、おまえが書けよ」

そうして作詞、脚本を手掛けるようになった。
最初は見よう見まね。
岩谷時子、永六輔の詞を読み込む。
「なんだ、難しい言葉を使う必要なんてないんだ。話し言葉でいいんじゃないか」
ミュージカルサークルだけではなく、アマチュアバンドにも曲を提供した。
そのうち、レコード会社に出入りをするようになり、デビューのきっかけになるいずみたくと出会った。
いずみたくは、無名の新人にチャンスを与えてくれた。
全く売れなくても、いつも機会を与え続けてくれた。

作詞家・山川啓介は、無名の若手に優しかった。
彼自身、無名時代にチャンスを与えてもらったことが大きかったが、彼の中の思いもあった。
それは、つなぐということ。
ひとの一生は限られている。
もし何か愛するものに触れたなら、守るべきものを見つけたなら、それは次世代に襷をつながなくてはいけない。
だから、山川は、若手に自分の席を譲った。

ある脚本家がいた。
彼はある歌手のコンサートで朗読劇を担うことになる。
恐れ多いが、頑張って書いた。
なぜならコンサートの全体構成をしているのは、山川啓介。
山川は、無名の彼に言った。
「君は、すごい才能を持っているよ。僕には書けない。頑張りなさい」
大御所がそこまで言ってくれるのを聞いて、脚本家は恐縮したが、それだけでは終わらなかった。
山川は、翌年のコンサートのすべての構成を彼に任せるようにした。
自らは退き、山川は彼に言った。
「時代は移り、世代が変わっていくことが健全なんだよ。昔の人間が、ふんぞりかえっていたら、大切なものは守れないんだ。先輩たちを、越えなさい」
そうして山川啓介は、矢沢永吉のエピソードを語った。
「当時、詞も曲も自分で創らないとニューミュージックにあらずというときに、矢沢さんはね、僕にこう言ったんだよ。『俺よりうまく詞をかくやつはたくさんいる。無名でもいいから、俺の思いをわかってくれるやつに、詞をまかせたい。山川さん、詞を書いてください』」

【ON AIR LIST】
太陽がくれた季節 / 青い三角定規
聖母たちのララバイ / 岩崎宏美
銀河鉄道999 / ゴダイゴ
時間よ止まれ / 矢沢永吉

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの柚子こしょう炒め

今回は、山川啓介の故郷、長野県佐久市でこの時期収穫されている野菜、じゃがいもを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけの柚子こしょう炒め
カロリー
153kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • じゃがいも
  • 1/2個
  • 万能ねぎ
  • 少々
  • 柚子こしょう
  • 小さじ2
  • 大さじ2
  • 大さじ2
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。
  • 2.
  • じゃがいもはマッチ棒くらいの太さに切って水にさらす。
  • 3.
  • 強火のフライパンに油をひき、水切りしたじゃがいもを炒め、霜降りひらたけを加えて半分くらい火が通ったら、酒で溶いた柚子こしょうで味付けをしてさっと炒める。
  • 4.
  • 小口切りにした万能ねぎを散らす。
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ARCHIVE

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RECIPE LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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