yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百二十五話 動くことを怖れない -【先駆者篇③】美容家 メイ牛山-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第二百二十五話動くことを怖れない

戦前の日本に、アメリカ・ハリウッドのメイク術や美容法を持ち込み、日本人女性の美を生涯にわたって追及した美容家がいます。
メイ牛山。
脚本家の小川智子(おがわ・ともこ)が記したメイ牛山のノンフィクションのタイトルは、こうです。
『女が美しい国は戦争をしない』。
小川はその著書の中で、メイ牛山のこんな言葉を紹介しています。
「ちゃんと、鏡、見ている? 朝、出がけにちらっと見るくらいじゃだめよ。全身が映る姿見で、一度じっくり自分を観察してごらんなさいな。客観的になることが、おしゃれの、つまり礼儀の第一歩。自分の美点を発見して、磨きをかけるのよ」
トレードマークは、お団子ヘア。
愛くるしい笑顔と、ひとを包み込む優しさ。
96歳で亡くなるまで、現役の美容家として活躍しました。
物心ついたときにまず彼女が感じたのが、周りとの違和感でした。自分は他のひとと違う。
外国人のように濃い顔立ち。
友だちの心の声が全て聴こえてしまうほどの圧倒的な感性。
母の着物の帯をバッグにしてしまうアグレッシブな美的感覚。
でも、そんな孤独を彼女はバイタリティで押し流したのです。
晩年、彼女は言いました。
「若いうちは、体が働くんです。汗をかいて苦労してもいいんです。思いっきり働いたら身になるんです、将来。そして、ある程度成人して中年になったら、精神が働くんです。経験からくるもので、頭を使う年齢でしょうね。そして、私のような年寄は長年の経験から、霊がはたらくんです。霊感とか勘とかいうやつね。いいか悪いか考えるまえに、見えてくるんです、不思議とね。それぞれのポジションで、それぞれの年齢や責任にあわせてがんばってほしいですね」
前だけを見据え、絶えず走り続けた美容界のパイオニア、メイ牛山が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

美容界の先駆者、いち早く海外の美容法を取り入れた美のカリスマ、メイ牛山は、1911年1月25日、現在の山口県防府市に生まれた。
5歳のとき、父を亡くす。腸チフスだった。
弟も母も罹ったが、父だけが亡くなった。
父の不在を、どう受け入れていいのかわからない。
母は、女手ひとつで子どもたちを守った。
母が必死に働く姿を見て、幼いメイ牛山は思う。
「少しでもお母さんの役に立ちたい。お母さんを少しでも楽にさせてあげたい」
このときの思いが、彼女の心にしっかりと刻まれた。
誰かの役に立つ。
それがメイ牛山にとって「労働」の始まりであり、終着点になった。
姉は美人で、自分は少し変わった顔をしていると思っていた。
なので自分が前に出るより、誰かを綺麗にするにはどうしたらいいかを考える癖がついた。
友だちの髪型、着ている服が気になる。
ちょっとアドバイスすると、途端に輝きだす瞬間を体感した。
家の近所の寺で花嫁さんごっこをするときも、綺麗な顔立ちの友だちを飾り付けてあげると、幸せな気持ちになった。
自分の顔は、彫りが深く、目がギョロっとして、外国人のようだ。可愛くない。
鏡を見るたびに思った。
それでも絶望することはない。
ご先祖に外国人がいればいいのにと夢想してワクワクした。
「私は、私」「他のひとと違うから私がここにいる意味があるんだ」
そう、思った。
母は、そんな彼女に「おまえは働き者で器用だから、きっと農家のいいお嫁さんになるわねえ」と言った。
「案外、そういうものかもしれない」
幼いメイ牛山は、母の言葉をぼんやりと信じた。

日本美容界のパイオニア、メイ牛山の母は、なんでも手作りで与えてくれるひとだった。
へちまを絞って、美顔水をつくる。
着物はひと晩で縫ってくれた。
そんな母に裁縫を教わり、幼いメイ牛山は開眼した。
「手仕事って面白い! 自分が想像したものを作っていくのって楽しい!」
母の着物の帯で気になるものがあった。
牡丹の柄。
黒地に薄紅、だいだい、白の牡丹の花が咲き誇る。
派手な絵柄ゆえ、母がそれを締めることはなかった。
「あれを、ハンドバッグにしたら、どんなにか素敵だろう…」
そう思うと、居ても立っても居られない。
ハサミを取り出し、ジョキジョキと切り刻む。
柄のどの部分を中心に持ってくるかは、頭の中に構想ができていた。ハンドバッグは完成したが、布のきれはしを見て、祖父が怒鳴る。
「お母さんの大切な帯を! なにしてる! 高いんだぞ! これは大切な帯なんだぞ!」
しょんぼりして夕食の支度をした。
仕事から母が帰ってきた。
叱られるだろうと身構える。
でも、母は叱らなかった。
叱るどころか、褒めた。
「すごいねえ、素敵だねえ」
さらにどこに出かけるにも、そのハンドバッグを腕に抱え、こう自慢した。
「見てください、ウチの娘がつくったんですよ、誰にも教わらずにねえ、すごいでしょう。帯をハンドバッグにするなんて、いったい誰が思いつくと思います? 娘は、それをやってのけたんです。ねえ、すごいでしょう」

96歳まで現役の美容家として活躍したメイ牛山は、自身が経営する美容学校の若者に言った。
「とにかく、なんでもいいから思ったとおりにやってみなさい!」
ある10代の女の子が、ダチョウのような頭をして学校に来た。
同級生たちは笑った。
でも、メイ牛山は褒めた。
「いいじゃない、どんどんやんなさい。髪の毛なんて、すぐにまた生えてくるんだから。失敗したっていいの」
ダチョウ頭の女の子は、はにかむように笑った。
メイ牛山は、何も動かないこと、何もしないのに批判だけするのを嫌った。
「人生は一回きりなんだから。若いうちに試したほうがいいの。失敗をたくさんしたほうが、財産になるの」
誰だってひとに嫌われたくない。仲間外れになりたくない。
でも、周りに合わせるがあまり、せっかくの個性が失われていくことを、彼女は憂えた。
「もしあのとき、自分が作った渾身のハンドバッグを、母があんなふうに褒めてくれなかったら、私は今ここにいないかもしれない」
メイ牛山は、泣き言ひとつ言わずに自分を育ててくれた母のように働いた。
そして、母が、規格外の自分をひたすら褒めてくれたように、若いひとを褒めた。
「いいわねえ、そんな発想、あなたにしかできないんだから大事にしなさい」
「思い切り、切ってみればいいじゃない、髪の毛。ダメでもまた生えてくるから。私なんかね、若い頃、髪を切りすぎて丸坊主になったこともあるし、パーマを失敗して髪の毛が焼け焦げたこともあるわよ。でもね、やってみないとわからないから面白いのよ、人生は」

【ON AIR LIST】
THE MOST BEAUTIFUL GIRL IN THE WORLD / PRINCE
UNPRETTY / TLC
ROSES AND ROSES / Sarah Vaughan & Dori Caymmi
WHATEVER WILL BE, WILL BE (Que Sera,Sera) / Doris Day

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけのミートローフ

山口県防府市で盛んに栽培されている野菜、玉ねぎを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのミートローフ
カロリー
572kcal (1人分)
調理時間
30分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 合びき肉
  • 300g
  • 玉ねぎ
  • 1/2個
  • ブロッコリー
  • 1/2株
  • 赤パプリカ
  • 1/2株
  • 小さじ1/2
  • こしょう
  • 小さじ1/4
  • 1個
  • 【A】赤ワイン
  • 100ml
  • 【A】ケチャップ
  • 大さじ3
  • 【A】ウスターソース
  • 大さじ3
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。玉ねぎはみじん切りにする。ブロッコリーとパプリカは食べやすい大きさに切る。
  • 2.
  • ボウルに合びき肉・塩・こしょうを加え、粘りが出るまでよくこね、玉ねぎと卵を加えて混ぜる。
  • 3.
  • パウンド型の耐熱容器にラップを敷き、タネ、半量の霜降りひらたけ、タネの順に重ねてラップでくるむ。
  • 4.
  • (3)・残りの霜降りひらたけ・ブロッコリー・パプリカを耐熱皿にのせ電子レンジ(600W)で5分程加熱する。きのこ・野菜を取り出し、ミートローフはそのままレンジの中に5分おき、粗熱が取れてから食べやすい大きさに切る。
  • 5.
  • 耐熱容器に【A】を入れ、ラップをせずに5分程加熱しソースを作る。
  • 6.
  • 野菜と共に皿に盛りソースを添える。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる