yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百二十四話 自分から目を離さない -【三重篇】画家 フランシスコ・デ・ゴヤ-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百二十四話自分から目を離さない

三重県のJR津駅から歩いて10分ほどのところにある三重県立美術館は、三重県とスペイン・バレンシア州との友好提携が結ばれたことを契機に、1992年からスペイン美術がコレクションに加えられました。
中でも、ある画家の『闘牛』を描いた銅版画の連作は、全国でも類を見ない貴重な展示になっています。
その画家とは、ディエゴ・ベラスケスと並び、スペイン最大の画家と言われる、フランシスコ・デ・ゴヤ。
ラ・タウロマキア、闘牛を、ゴヤは生涯、愛しました。
彼は、闘牛の歴史を辿りつつ、過去の名場面を思い出し、膨大な素描にしたためました。
目の前の決定的なシーンを、さっと描く素描。
もともと宮廷画家としてエリート街道を歩いていたゴヤにとって、素描は無縁のものでした。
しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いだった46歳のとき、彼は、重病に倒れ、ベートーヴェンのように聴覚を失ってしまうのです。
コミュニケーションをうまくとれない歯がゆさや苛立ちを、彼は素描することで解消していきました。
素描は、彼に自由な発想をもたらし、さらに時代や風俗を写し取る魔法を授けました。
代表作『裸のマハ』『着衣のマハ』や、数多くの肖像画、時代の目撃者として戦争を描く冷静な視線が有名ですが、一貫して彼が心を砕いたのは、美しいものだけではなく、悪や人間の醜さ、黒い部分から目をそむけない、ということでした。
その真骨頂が、晩年の『黒い絵』シリーズ。
『我が子を喰らうサトゥルヌス』という絵の凄みは、発表当時からセンセーショナルを巻き起こし、今もなお、私たちの心に、人間の業について、生きるということについて問いかけてきます。
もし彼が聴覚を失うことがなかったら、これほどまでに自由で奥深い領域に辿り着けなかったのではないか、そう考える見識者もいます。
ゴヤは、じっと見つめました。
時代を、人間を、そして、自分を。
革命と動乱のスペインを生きた伝説の画家、フランシスコ・デ・ゴヤが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

スペイン最大の画家、フランシスコ・デ・ゴヤは、1746年3月30日、スペイン北東部の村、フェンデトードスで生まれた。
父は代々の職人家系。
鍍金師、メッキを生業としていた。
母は、下級貴族の末裔。
教養こそ大切だと思い、我が息子には、それなりに立派な教育を受けさせようと思ったが、父は反対。
手に職さえあれば、生きていけると考えていた。
ゴヤが7歳のとき、父の工房があるサラゴサに移り住む。
サラゴサは、農業や灌漑事業の発展がいちじるしく、活気にあふれた街。
12歳で、修道会が経営する学校に入学。
勉学より、野山を駆け回る狩猟を好んだ。
母は、ゴヤを落ち着かせるため、画家ジョセフ・ルサンの画室に入門させる。
幼い頃から絵を画くのが好きだった。
しかし、来る日も来る日もデッサンばかり。
窮屈だった。自由に絵が画きたい。
3年間、修業して悟った。
「絵は、誰かに教わるもんじゃない、自分を見つめ、感じたままを写すものだ」

スペインの画家、ゴヤの少年時代は、貧しさの中にあった。
父が破産。
家を追われる日々も体験した。
なんとかひとりで生きていかねばならない。
16歳で職業画家として活動を始める。
聖堂の扉絵の修復。
教会の壁画の手伝い。何でもやった。
当時、画家としての成功は、宮廷画家になることだった。
そのためには、王立美術アカデミーに入ることが先決。
17歳で奨学生試験を受けるが、不合格。
20歳のときに再度挑戦するが、これも失敗に終わる。
2回とも、実技審査で、審査員が誰ひとり、ゴヤに一票を投じなかった。
その結果には深く傷ついたが、そんなときは、自画像を描いた。
自分を見つめ、自分の心と対話する。
ゴヤには、父親に似た、外に向かう攻撃性もあったが、母親に似た、内省的で思慮深い一面もあった。
自画像を画いていると、すっと心が落ち着いた。
濁った川の水が、やがて透明度を取り返すように、彼は再び、自分を信じることができた。
「誰も認めてくれないなら、自分で自分を高めるだけだ」
ゴヤは、内装の仕事を掛け持ちして、必死にお金を稼ぐ。
そのお金で、イタリアを目指した。
ローマ、ヴェネツィア、ナポリ、フィレンツェ。
古代彫刻やルネッサンス、バロックの名作を片っ端から模写した。
膨大なデッサンは、スケッチブック83冊にも及ぶ。
やがて彼は、パルマの美術アカデミー主催のコンクールで、選外ながら佳作を獲得。
手応えを感じた。
イタリアの風が、ゴヤの心を解き放った。

イタリアでのわずか1年半の滞在で、ゴヤは自信を得た。
スペインに戻ると、意欲的に仕事に精を出す。
ピラール礼拝堂のフレスコ画。
魂を込めた。
絶賛され、次にアウラ・デイ修道院の内壁にマリアとキリストの連作を描く。
これも大好評。
やがて、宮廷画家フランシスコ・バイユーに認められる。
バイユーの妹と結婚。
ついに、サラゴサから憧れの街マドリードへの進出が叶った。
最初の仕事は、王家の離宮を飾るタピスリーの下絵を画くこと。
63点の下絵を、完璧に描き切る。
ゴヤには、野心があった。
スペインでいちばん有名な宮廷画家になること。
自分を認めなかったアカデミーに復讐したい。
そんなときも、自画像を画く。
ぎらついた眼差し。
これが自分だ、なんとしても名声を手に入れたい、自分の姿だ。
目を背けない。
全ての自分を確認しながら、前に進む。
それが流儀だった。
やがて注文が殺到。
マドリードで最も忙しい宮廷画家になった。
金と地位、名誉。
もう少ししたら、全て手に入る。
そう思っていた、46歳のとき、突然、病に倒れた。
聴覚を失う。
そのときも、自画像を画いた。
「オレは、何か間違っていた…。名声のために画いたんじゃない、画くことが好きだっただけだ」
彼は、なけなしの金でイタリアを廻ったときのように、素描を大切にするようになった。
聴覚を失ったばかりのときの自画像。
そこには、少年のように輝く瞳があった。

【ON AIR LIST】
闘牛場に吹く風 / ジプシー・キングス
フランシスコ・ゴヤ・イ・ルシエンテス、画家 / マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ(作曲)、山下和仁(ギター)
デッサン / 安全地帯
人生を忘れて / フリオ・イグレシアス

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの吹き寄せ揚げ

今回は、旬の食材を使った、こちらの料理をご紹介します。

霜降りひらたけの吹き寄せ揚げ
カロリー
118kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 銀杏
  • 4粒
  • 里芋
  • 1個
  • ごぼう
  • 長さ5cm
  • にんじん
  • 15g
  • 片栗粉
  • 適宜
  • すだち
  • 2個
  • 揚げ油
  • 適宜
  • 適宜
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。里芋は薄切りにし、さっと洗う。ごぼうは縦に薄切りにし松葉切りにする。にんじんは紅葉型に切り抜く。すだちは半分に切り、切り込みを入れる。
  • 2.
  • 鍋に揚げ油を入れ、さらに里芋、ごぼう、にんじんを入れ熱し、中温になるまで揚げる。
  • 3.
  • 銀杏は中温で素揚げにし、霜降りひらたけは片栗粉をまぶしカリッとなるまで揚げる。
  • 4.
  • 全体に塩をふり、皿に盛り合わせ、すだちを添える。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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