yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百九十一話 信念を曲げない -【宮崎篇】医師 高木兼寛-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百九十一話信念を曲げない

宮崎県宮崎市高岡町の道の駅は、「ビタミン館」と呼ばれています。
この町出身の偉人、「ビタミンの父」と言われる、高木兼寛を記念して名付けられたのです。
高木の銅像は、宮崎県総合文化公園の中にもあります。
日本から、脚気という病を消し去った男は、「ビタミンの父」と呼ばれました。
脚気とは、末梢神経に障害を与え、足にしびれや麻痺を引き起こし、悪化すれば命まで落としてしまう病気。
明治時代初期から後期まで、毎年1万人の命を奪った、原因のわからない不治の病でした。
当時の医学の主流は、ドイツ医学。
陸軍はこれを採用し、脚気は伝染病だという説を信じて疑いませんでした。
その医師の中には、かの森鴎外もいたのです。
高木はドイツではなく、イギリスで医学を学び、海軍の軍医に任命されます。
彼は、脚気は伝染病ではなく、栄養不足からくるものだという説を論じました。
論争は、陸軍対海軍の争いと重なり、両者一歩も譲らぬまま、日清戦争を迎えてしまいます。
結果、日清・日露戦争での陸軍の脚気患者数は、およそ24万5千人、亡くなった兵士は3万人を超えました。
一方、海軍は、患者数がおよそ40人で、死に至った兵士はひとりでした。
高木が、軍艦での食事をパンから麦飯に変え、野菜を積極的にとるように進言した結果です。
そして彼の栄養説のおかげでビタミンが発見され、脚気がビタミンBの欠乏で発生することが証明されたのです。
彼は後輩や部下たちに、いつもこう言っていました。
「病気を診ずして、病人を診よ!」
大切なのは、自分の立場がどうなるかではない。
ひとの役に立てるかどうかだ。
そのためには、いっさい自説を曲げなかった反骨精神が、ときに彼を窮地に追い込みます。
それでも、前に進む。
それでも、信念を曲げない。
日本の医療界に多大なる功績を残した賢人・高木兼寛が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

脚気の治療法を見出し、「ビタミンの父」と呼ばれる医師、高木兼寛は、1849年10月30日、現在の宮崎市高岡町に生まれた。
鎖国していた日本に、この年、イギリスからマリーナ号という軍艦がやってくる。
ペリーが浦賀に上陸し、一気に開国へのカウントダウンが始まるのは、その4年後のことだった。
日本が大きく変わろうとしている気運の中、高木は、この世に生を受けた。
父は、元薩摩藩士の下級武士。
生計を立てるため、大工をしていた。
幼い頃から父を手伝うが、体が弱い。
家でしくしく泣いていると、母が言った。
「泣くのは、おやめなさい。人間、誰もがみんな体が強くなくていいんですよ。弱いものには弱いものの役目っていうものが、必ずあるんだから。大工の手伝いはいいから、学問を一生懸命やりなさい」
母の言葉通り、高木は勉強に精を出した。
当時、薩摩藩の流れをくむ武士の子どもであれば、学業より武術優先が常だった。
でも、高木の両親は、大きく動く日本の未来を担うには、蘭学や古典、歴史や文学が必要であると信じていた。
7歳で「四書五経」を読破。
学校も朝だけでは満足できずに、夕方の年長者のクラスにも参加した。
尊大に知識を自慢することもなかったので、まわりからも可愛がられ、先生にも気に入られる。
ひ弱だった体も丈夫になり、9歳で示現流という薩摩藩に伝わる剣術を学ぶ。
この示現流こそ、高木の精神の根幹を作った。

「ビタミンの父」、高木兼寛が幼い頃習った示現流。
最初に叩きこまれるのは、先手必勝。一撃必殺の極意。
「一の太刀を疑わず」あるいは、「二の太刀要らず」と言われた。
自分が振り下ろす最初の刀に、疑いや迷いを持つな、次の太刀があると思ってはいけない、という教えだった。
次があると思うと、つい、最初の攻撃が中途半端になる。
これがうまくいかなければ、次はないという思いこそ、ひとに強さを授ける。
高木は、幼いながらに、この言葉の正しさを痛感した。
先生にさされる。
迷いながら答えるくらいなら、「わかりません」と大きな声で答えたほうが気持ちもすっきりするし、先生もしつこく叱ったりしなかった。
次々に中途半端な答えを繰り出せば、余計な時間を要し、まわりの心証もどんどん悪くなってくる。
潔さ。
そして、最初に出した太刀を信じる力。
これこそ、彼が乱世を渡っていく、大切な通行手形になった。
12歳で医者になりたいと思う。
村にいた医師の、患者をいたわり、治していく姿に感銘を受けたからだった。
父はもちろん我が息子を医者にできたらと思ったが、ほどなく京都に出向く任務を告げられ、高木が家を守らねばならなくなる。
それから、およそ5年間。
彼はひたすら大工の仕事をして生計を支え続けた。
ただ、医者になるという信念を、一度も忘れることはなかった。

高木兼寛は、17歳でようやく鹿児島の蘭学者、石神良策のもとで医学を学べることになった。
焦りはあった。
でも、自分が医者になることを信じる。
石神に初めて会ったとき、体に電流が走るような感動を覚えた。
「すごい、オーラだ。このひとは、ボクの一生の師匠になるひとに違いない!」
石神もまた、高木の眼光の鋭さに驚いた。
「この子は、ただものではない。世の中を変えるような、偉業を成し遂げる器かもしれない」
もし、この二人の出会いがなければ、日本の脚気事情は深刻の度を増したにちがいない。
石神が、英国医師のウィリアム・ウィリスにつながり、ウィリスが高木のイギリス留学を後押しした。
イギリスで5年修業した高木は、その医療事情、予防医学の啓蒙、そして何より、臨床中心の医学の在り方に驚き、感銘を受けた。
ドイツ医学をひっさげる陸軍には、一歩もひかない。
彼には、確固たる信念があった。
「医学は研究室にいるだけでは、進まない。常に患者に接し、そこから学ぶこと。ボクらは、病を診ているんじゃない。人間を診ているんだ」
高木兼寛が自説を曲げず、信念を通したからこそ、日本から脚気が少しずつ消えていった。

【ON AIR LIST】
BLUE BIRD / 10CC
CLAIR / Gilbert O'Sullivan
DO YOU BELIEVE IN LOVE / Craig David
MEDICINE MAN / Bobby McFerrin

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと夏野菜のカレー

今回は、野菜をたくさん使ったカレーをご紹介します。

霜降りひらたけと夏野菜のカレー
カロリー
551kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • かぼちゃ
  • 200g
  • オクラ
  • 8本
  • パプリカ(赤)
  • 1/2個
  • 塩、こしょう
  • 適量
  • サラダ油
  • 大さじ2
  • 玉ねぎ
  • 1個
  • 豚ひき肉
  • 120g
  • カレールウ
  • 4皿分
  • 3カップ
  • ごはん
  • 4人分
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。パプリカは縦細切りに、かぼちゃは薄切りにする。
  • 2.
  • フライパンにサラダ油大さじ1を熱し、オクラと(1)を焼き、塩、こしょうで調味する。
  • 3.
  • 玉ねぎはみじんに切る。鍋に残りのサラダ油を熱し、玉ねぎを加え、よく炒める。
  • 4.
  • 豚ひき肉を加えて炒め、色が変わったら水を加える。沸騰したらルウを加えて煮溶かす。
  • 5.
  • 皿にごはんを盛りつけ、(4)をかけて(2)のきのこと野菜をトッピングする。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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