yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百五十七話 焦らず、ゆっくりと -【北海道篇】森林学者 高橋延清-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百五十七話焦らず、ゆっくりと

北海道、富良野に、東京大学の演習林があります。
その林長を務め、世界的に有名になった森林学者がいます。
高橋延清(たかはし・のぶきよ)。通称、どろ亀さん。
いつも森の中を泥まみれになって歩くことから、その名がつけられたといいます。
彼が確立した、天然林の育成法「林分施業法」は、国内だけではなく世界の注目することとなり、富良野に研修・見学にくるひとは後を絶ちません。

森には、人間にとって、大きな二つの役割があります。
ひとつは、環境を維持するための公益的な機能。
もうひとつは、木材を生み出す、経済的な機能。
その二つをきっちり分け、人間の手で正しく管理すれば、必ず森林は応えてくれる、それが「林分施業法」です。
針葉樹と広葉樹。さまざまな木々を分類し、その生態を調査する。口でいうのは容易いですが、調べるだけでも至難の技です。
高橋は、森に暮らし、木に寄り添い、森林と対話し、どの木を伐採すればいいのか、一本一本丁寧に検証しました。
彼が残した言葉に、『歳月が流れて』という詩があります。

ここまで生きてきた
いつも要領が悪かった
時には、物笑いのタネとなった
でも、それでもいい、それでいいと
自分に言い聞かせて、やってきた
目標に向かってノロノロと
人の何倍もの汗と歳月をかけてやってきた
樹海の中で生きてきた
大森林に学び
その深きこと
悠久なること
残された命みじかし
生命みじかし…

愚直に森と向き合い、偉業を成し遂げた森林学者・高橋延清が、人生でつかんだ明日へのyes!とは?

森林学者・高橋延清は、1914年ごろ、岩手県に生まれた。
1914年ごろ、というのは、出生届がなかなか出されず、正確な年がわからないからだ。
父は、資格のない医師。母の実家は、寺だった。
次男だった延清は、母の実家の寺に養子に出された。
口減らしということもあっただろう。
寺での暮らしは、快適だった。
跡取りということで、大事に育てられる。
食事も一人前のお膳。白米や卵も出た。
お供えの団子や饅頭も食べ放題。子どもには天国だった。
でも、いざ実家に帰ると、驚くほど貧しい。
住む家は、農家の間借り。
狭い納屋のような場所に両親と兄弟がひしめき合うように暮らしていた。
アワやヒエを食べ、山ブドウやワラビを食べる。
それでも、延清が帰ってくると、姉や兄、弟たちは喜び、みんなで野山を駆け回り、遊んだ。
寺にいると、川で遊ぶのは危険だからと禁止されたが、実家では、みんなで魚をとったり、泳いだりした。
楽しかった。
いつも寺に戻るときがつらかった。
孤独な寺での生活。
友達は、樹齢数百年の大きな五葉松だった。
話しかける。
「今日ね、学校で先生に褒められたよ」
「明日はね、きっと雨だよ」
「あのね、ボクはこのお寺を継ぐんだよ」
木の幹に触れると、落ち着いた。
でも…ある日、延清少年は寺を飛び出すことになる。

森林学者・高橋延清は、幼少の頃、お寺で奇妙な体験をした。
ある秋の夜更け。
聞きなれない音で、目を覚ます。
ごろん…ごろん…。
誰かが、何かが、廊下を走っている。
伯母が言った。
「あれはねえ、魂が迷っているんだよ…」
住職は、寺の鐘を鳴らした。カーン、カーン。
ごろん、ごろんという音は、やんだ。
でも、延清少年は怖くて怖くて仕方ない。
この世には、人知を超えたものがある。肌身で知った。
自然界への畏敬の念が育つ。
ただ、怖いものは怖い。実家に逃げ帰った。
結局、貧しいながらも家族みんなで暮らす。
食べるものはなくても、楽しかった。いつもニコニコ笑った。

小学校に入学。
校庭に、大きな杉の木があった。
延清少年は、やはり語りかけた。
「おはよう。これから、どうぞよろしく」

小学校、中学校、高橋延清は、勉強に身が入らない。
天性の要領の悪さもあり、成績はふるわなかった。
でも、やればできる。
ひとたび集中すれば、あっという間に学年でトップになった。
東京大学に入ったが、出世には興味がなかった。
農学部の教授会に顔を出さないどころか、本郷キャンパスで一度も教壇に立とうとしなかった。
人間同士のせめぎあいより、樹海に身を置くことが好きだった。
大学紛争のときには、高橋を追放せよ!と大きな看板が立てられたが、気にしなかった。
うまく立ち回れないので、いつも矢面にさらされる。
さすがにへこむときもあったが、そんなときは、森の木々たちが励ましてくれた。
「まあ、いろいろあるのが人生だよ。自分の本分を忘れなければ、大丈夫だよ」
富良野の演習林に、理想の森を築き上げた。
それは誰もが真似できることではない。
でも、高橋延清が、特別優秀で才能があったわけではない。
彼は、雨の日も風の日も、深く積もる雪の日も、森に出かけた。泥だらけになりながら。
愚直であること。泥まみれになれること。その覚悟と粘り強さこそ、尊い。
彼は三十六年、森に通い、足腰にガタがきても、それでも木々に話しかけた。
「おはよう、元気か?今日も、一緒に頑張ろうなあ。焦らず、ゆっくりと」

【ON AIR LIST】
MAKE IT WITH YOU / Bread
I'VE BEEN LOVING YOU / The Milk Carton Kids
南の窓から / OLD DAYS TAILOR
LOVE ALL THE HURT AWAY / Aretha Franklin & George Benson

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとアボカドのわさびじょうゆ

今回は、東京大学演習林のある北海道・富良野にちなみ、富良野の特産である、チーズを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとアボカドのわさびじょうゆ
カロリー
185kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 大さじ1
  • アボカド
  • 小1個
  • レモン汁
  • 適量
  • クリームチーズ
  • 40g
  • 【A】しょうゆ
  • 小さじ2
  • 【A】みりん
  • 小さじ1
  • 【A】わさび
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。フライパンに入れ、酒をふって蓋をし、弱火で3、4分蒸す。
  • 2.
  • アボカドは食べやすく切り、レモン汁をかける。クリームチーズは1cm角に切る。
  • 3.
  • 霜降りひらたけ、(2)を軽く和え、器に盛りつける。【A】を合わせて回しかける。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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