yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第六十九話 弱点を武器に変える -【熊本篇】 俳優 笠智衆-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第六十九話弱点を武器に変える

映画『男はつらいよ』シリーズの御前様、そして何より小津安二郎作品の看板役者として日本の映画界を牽引してきた重鎮、俳優の笠智衆(りゅう・ちしゅう)は、熊本県玉名市に生まれました。実家は浄土真宗のお寺。
もし彼が小津監督に出会うことがなかったら、名優・笠智衆は存在しなかったと言われています。
熊本弁は、終生治らず、彼のデビューを遅らせる要因になりました。
派手な演技で大衆をわかせることもありませんでした。
史上最高の大根役者とまで言われました。
ほぼ10年間に渡る松竹での大部屋ぐらし。
口下手で、アピールするのが苦手。
でも、笠智衆は、唯一無二の役者になり、映画史に刻まれる名演技で記憶に残る存在になりました。
小津作品以外にも、黒澤明、木下恵介、岡本喜八、山田洋次など、巨匠と呼ばれる映画監督から熱烈なラブコールを受け、出演しました。
朴訥(ぼくとつ)であること、熊本弁が抜けないこと、ある意味、弱点とも思える特質を、全て武器に変えたことにいちばん驚いているのは、笠智衆、本人かもしれません。
随筆家の山本夏彦は、こんなコラムを書いています。
「笠智衆がゆっくり語るというが、あれはゆっくりの「ほど」を越えている。笠は朴訥を売り物にして、人格者好きの女の見物をとりこにした。役者に修身の権化を求めるのは戦前にはなかったことだ」。
そんな揶揄(やゆ)も、時間が払拭します。
今もまだ、彼の演技の深みには誰もが共感し、驚愕します。
そんな名優・笠智衆が、人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

俳優、笠智衆は、1904年、熊本県玉名市に生まれた。
生家は、浄土真宗のお寺。父は住職だった。
5つ上に兄がいたが、気性が荒く、父と喧嘩ばかりしていた。
なんとなく、寺を継ぐなら自分なんだろうと思っていた。
でも、信心が足りない自分を知っていたので、住職になる適性はないと判断した。
「とにかく、住職以外なら、どんな職業でもかまわない」
そう思った。
地元の旧制中学を卒業すると、大学進学を理由に、熊本を出た。
東洋大学のインド哲学科に入学。
入ったはいいが、授業はサボり続けた。
学校というものがそもそも気性に合わない。
みんなで学ぶという雰囲気が辛かった。
熊本時代からの友人と早稲田界隈に部屋を借り、毎日、だらだらと過ごす。
ある日、友人が、新聞広告を笠に見せた。
「松竹キネマ・俳優研究生募集とある、おまえ、これ、受けてみんか?」
笠は、即座に答えた。
「俳優なんて、馬鹿なこつ」
友人は畳みかけるように続ける。
「ぬしは、坊さん以外なら何になってもよかと言うたじゃろうが。どうせ落ちるんじゃ、社会勉強のつもりで行ってみれ。それに、笠もなかなかええ男だし」
笠は、その言葉に背中を押され、受験する。結果は合格。
こうして、俳優・笠智衆の試練の日々が始まった。
偶然を必然に変える力、ひとはそれを奇跡という。
でも、奇跡ではない。
それは、血のにじむような努力が裏打ちしているのである。

大正13年、松竹・蒲田撮影所の所長に就任した城戸四郎(きどしろう)は、映画会社自らの手で役者を育てるという強い思いから、俳優研究所を創設した。
その一期生、笠智衆は、学校嫌いにも関わらず、研究所に足しげく通った。
撮影所に出入りする役者の変わったいでたちが刺激的だった。
ただ、座学は面白くなかった。
講師が教壇に立ち、拳を突き上げて、こんなふうに言う。
「ここに幸福がある。これが幸福だ。さあみんな、嬉しい顔をしてみろ!」
わけがわからない。
それがいったい何のたしになるのか、理解できなかった。
研究所に慣れた頃、父親の訃報を受け取る。享年、61。
ふるさと熊本に帰った。
このまま、自分は寺の住職になるしかないのかな、そう考えた。
でも、蒲田の撮影所に戻りたい。
別に心からなりたいと思ったわけでもないのに、俳優への未練が沸き上がってきた。
結局、兄に住職を押し付け、自分は東京に戻った。
出席日数は足らなかったはずなのに、笠は卒業生に名を連ねていた。
そうして彼は晴れて、松竹・蒲田撮影所の正式社員に採用された。

俳優になったとはいえ、笠智衆は、大部屋に所属した。
大部屋とは、いわゆるエキストラ的な役回りや、その他大勢の役者の集団。
毎日、その日の撮影の予定表を見て、指定された現場に行く、その日暮らしの名のない俳優だった。
しかも給金は安かった。
笠智衆は、大部屋を辞める決意をする。
結婚して所帯を持ったからだ。
やがて子供も生まれ、毎月の給金の大切さを知る。
基本は九州男子。男は家族を養っていかねばならない。
笠は、役者を辞めて、再び熊本に帰り、真綿づくりの仕事に従事する。
せっかく叔父さんに紹介してもらった仕事だったが、所詮、武士の商法。うまくいかない。
しかも、離れれば離れるほど、役者への想いが膨らむ。
またしても、蒲田に舞い戻った。
ただ、この転職が、笠に覚悟をもたらした。
「もう迷わない。オレは、役者で一生やっていく!」
小津安二郎監督に見いだされたが、今度は熊本弁が抜けない。
周囲から、方言が抜けないのは、耳が悪いからだと怒られる。
どんなに治そうと思っても、治らない。
小津も笠にダメだしを続けた。出演する誰よりも厳しくやり直し。
NGの王様と言われた。それでも、小津は笠を使い続けた。
もしかしたら、小津も自らの不器用さを、笠に重ね合わせていたのかもしれない。
笠智衆は、小津にくらいついた。彼の覚悟が、弱点を不思議な味に変えていった。
へこたれても、何度もはいあがる覚悟。それこそが弱みを強みに変えることに、笠は気づいた。
俳優、笠智衆は、そうして映画史に残る名演技を刻んだ。

【ON AIR LIST】
懐かしき恋人の歌 / Dan Fogelberg
ニューヨークの夢 / The Pogues & Kirsty MacColl
Wonderful Christmastime / 羊毛とおはな
Hallelujah / Leonard Cohen

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと玉ねぎのコンソメ煮

熊本県玉名市のお寺に生まれた、俳優 笠智衆。今回は、玉名市の特産物である、ミニトマトとスナップエンドウを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと玉ねぎのコンソメ煮
カロリー
73kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 玉ねぎ
  • 1個
  • ミニトマト
  • 4個
  • スナップエンドウ
  • 4個
  • 1と1/2カップ
  • 固形コンソメ
  • 1個
  • 適量
  • パセリ
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。玉ねぎは横半分にし、スナップエンドウは筋を取る。
  • 2.
  • ミニトマトは楊枝で穴をあけ、ボウルに入れて熱湯を注いだ後、冷水にとって湯むきする。
  • 3.
  • 鍋に霜降りひらたけ、玉ねぎ、水、コンソメを入れて火にかけ、火が通るまで弱火で10分ほど煮る。
  • 4.
  • ミニトマト、スナップエンドウを入れて、3、4分煮込み、塩で味を調える。
  • 5.
  • 皿に盛りつけ、刻んだパセリを散らす。
  •  
  • ※冷やしてもおいしくいただけます。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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