yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百六十六話 過去など焼き捨てればいい -【メモリアルイヤー篇】音楽家 アストル・ピアソラ-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百六十六話過去など焼き捨てればいい

今年、没後30年を迎えた、アルゼンチン出身のタンゴの革命家がいます。
アストル・ピアソラ。
幼い頃からバンドネオンを弾くことが大好きだったピアソラは、4歳から15歳までニューヨークに暮らします。
再びアルゼンチンに戻ってきて、たまたまラジオから流れていたタンゴに魅了されました。
彼の言葉を借りれば、「タンゴと恋に落ちた」。
作曲家としても優れていたピアソラは、踊るためのタンゴの概念そのものを崩し、クラシックやジャズとの融合をはかりました。
従来のタンゴを愛していたブエノスアイレスのひとたちから、「こんなのは、タンゴじゃない!」と激しい抵抗を受けても、ピアソラは、自分の革命をやめませんでした。
苛立った一部の過激な若者たちは、ピアソラの家に石を投げ、演奏を妨害したといいます。
移民の街、ブエノスアイレスにとって、自分たちが作り上げたタンゴという文化は、多様性をつなぐ、大切なアイデンティティだったのです。
ピアソラは、晩年、バンドネオン奏者であることにこだわり続けました。
楽器の重さは10キロにも及び、一晩の演奏で2キロ痩せることもある、過酷なパフォーマンス。
ドキュメンタリー映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』の中で、娘に「バンドネオン奏者をやめて、サメを釣る毎日をおくったら?」と聞かれ、「バンドネオンもサメ釣りも、どちらも体力勝負。サメを釣る体力があるんだったら、私はバンドネオンを選ぶよ」と答えました。
彼は、バンドネオンという楽器をたずさえ、音楽にさまざまな改革、革命を起こしましたが、過去を振り返ることを嫌いました。
家族とのバーベキューで、自分の楽譜を燃やす父に、息子がたずねます。
「せっかく作曲したものを、どうして燃やしてしまうの?」
ピアソラは、こう答えました。
「いいか、過去を振り返るな! 昨日、成したことは、ゴミだ!」
ジャンルを超えた伝説の音楽家・アストル・ピアソラが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

アストル・ピアソラは、1921年3月11日、アルゼンチン、マル・デル・プラタに生まれた。
イタリア移民三世。
生まれながらに右足に疾患を抱えていた。
左足に比べ、極端に細い右足。
7回の手術をほどこし、なんとか歩けるようになったが、疲弊した両親は次の子どもをつくることを断念した。
足の具合が一段落した4歳のとき、一家は、ニューヨークに移住。
夢を抱いて渡った新世界だが、貧しかった。
暮らした場所も、貧民街。
父は理髪店をやりながら、マフィアと関係を持ち、裏でカジノをひらいた。
息子の誕生日に、父は、ある楽器を中古で買ってきて、渡した。
「なにこれ、扇風機?」
「違う、これはバンドネオンだ」
「バンドネオン?」
「今日からおまえはこれを練習して、父さんが夕食を食べるとき、傍らで弾いてくれ」
ピアソラは、父を喜ばせたくて、必死で練習した。
父もまた、息子に先生をつけて習わせた。
どんなに音をはずしても、どんなにうまく弾けなくても、父はほめてくれた。
「すごいじゃないか、いやあ、たいしたもんだ。おまえは、天才だ!」
うれしかった。葉巻をくわえながら、目を閉じて自分の演奏を聴いている父の横顔を見るのが、幸せだった。

アストル・ピアソラは、幼い頃、二つのことを習った。
ひとつは、バンドネオン。
もうひとつは、ボクシングだった。
父は、言った。
「いいか、決して待つな。殴られる前に、殴れ!」
それだけ覚えれば、おまえはチャンピオンになれる。
ボクシングでも、父はほめてくれた。
「すごいぞ、あのパンチはよかった。よくがんばった!」
父にほめられるたびに、自信をつけていく。
相変わらず、右足は細かった。
隠すために、ダボダボのズボンを履いた。
その右足を台の上にのせ、そこにバンドネオンを置いて演奏する。
なかなか安定しなかった。
バンドネオンでは、先生にバッハを叩きこまれた。
クラシックを聴きこむ。
さまざまなジャンルの音楽が、ラジオからあふれていた。
徐々に、少年ピアソラの心は、タンゴから離れていく。
あらゆる芸術家を育てる街、ニューヨーク。
そこで、ピアソラの感性は磨かれていった。

19世紀の終わり、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスで、陽気な調べにのせて、男女が踊る文化「タンゴ」が生まれた。
20世紀に入り、ドイツから持ち込まれた哀愁ただよう楽器が、その文化を熟成させる。バンドネオンの登場。
タンゴの歴史は、他国の伝統音楽に比べれば、意外にも浅い。
アストル・ピアソラが、再びタンゴに魅了されたのは、一家がニューヨークからアルゼンチンに戻った、17歳のときだった。
ラジオから流れてきた、「エルビーノ・バルダーロ楽団」の演奏。
体を雷が貫くような感覚。今まで知っているタンゴではない。
ニューヨークで触れたさまざまな音楽が、脳内に響く。
バンドネオンの可能性を感じた。
クラブやキャバレーに自分を売り込み、演奏の機会を得た。
さらに独学で作曲を学び、楽譜に思いをぶつける。
新しいこと、まだ、誰も開けていないタンゴの扉を開く。
場末のダンスホールで、試しに演奏した楽曲が大ブーイングを浴びても、ひるまなかった。
ひとと同じことをしても仕方ない。
自分が生まれて来た意味を見つけるまでは、死ねない。
そのためには、昨日をひきずっていてはダメだ。
常に前を向く。
どんなに揶揄され、非難されても、ステージに立って、今、自分がやりたい曲を演奏する。
アストル・ピアソラは、亡くなる直前まで、右足に10キロにも及ぶバンドネオンを置いた。
かつて、細くてたよりなかった右足は、しっかりと楽器を受け止め、彼の演奏を支え続けた。

【ON AIR LIST】
リベルタンゴ / アストル・ピアソラ五重奏団
アディオス・ノニーノ / アストル・ピアソラ五重奏団
私の隠れ家 / アストル・ピアソラ
天使のミロンガ / アストル・ピアソラ

★今回の撮影は、「名古屋アルゼンチンタンゴクラブ」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
営業時間など、詳しくは公式HPにてご確認ください。
名古屋アルゼンチンタンゴクラブ HP
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと牛肉の赤ワイン煮

今回は、アルゼンチンでよく食べられている食材、牛肉を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと牛肉の赤ワイン煮
カロリー
274kcal (1人分)
調理時間
20分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 玉ねぎ
  • 1/2個
  • にんじん
  • 1/2本
  • オリーブオイル
  • 大さじ1/2
  • 牛もも肉
    (カレー・シチュー用)
  • 140g
  • 赤ワイン
  • 大さじ2
  • 300ml
  • ビーフシチュールウ
  • 2皿分
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。玉ねぎは薄切りに、にんじんは乱切りにする。
  • 2.
  • 鍋にオリーブオイルを熱し、玉ねぎとにんじんと牛肉を炒め赤ワインを振りかけ、霜降りひらたけと水を入れて、煮立ったらアクをとりながら弱火で10分ほど煮る。
  • 3.
  • 火を止めてルウを加えて溶き、再度火にかけとろみがついたら火を止める。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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