yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第六十三話 己の道をゆく -【金沢篇】 哲学者 西田幾多郎-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第六十三話己の道をゆく

石川県金沢市にある『石川四高(しこう)記念文化交流館』。
1886年の帝国大学令により、創設された高等中学校。
東京の旧制一高、京都の三高に次ぎ、金沢に作られたのが、四番目の高等中学、旧制第四(だいし)高等学校です。
記念館は今も、当時の姿を留め、そこに学び通った学生たちの幻影を映し出してくれます。
ここに通い、そして後にここで教授の職を持った偉大な人物がいます。
世界に名を轟かせた日本を代表する哲学者、西田幾多郎。
彼が、四高で教鞭をとっていた頃、足しげく通った場所があります。
金沢市にある卯辰山です。
ひがし茶屋街からもほど近いこの場所に、心を洗うと書く「洗心庵」がありました。
西田は、ここで座禅を組んだのです。
跡地には、ささやかに石碑が建っています。
「西田先生は四高教授のころ、約9年間ここへ参拝され教えを受けました」
そう書かれた案内板のあたりには手つかずの自然が残っています。
木々の匂いがします。鳥の鳴く声が聴こえます。
遠く眼下に川をのぞめば、静かな心が降りてきます。
哲学者・西田幾多郎は、ここで何を思い、何を考えたのでしょうか。
西欧文化の波が押し寄せる中、日本的な心、日本的な精神の根幹をひもといた、西田哲学。
彼の人生は哀しみと苦しみの連続でした。
そんな彼が到達した境地は、こうでした。
「哲学の動機は、人生の悲哀でなければならない」
西田幾多郎が、我々に問いかける、人生のyes!とは?

有名な著書『善の研究』で日本人として初めて体系的な哲学を明示した、哲学者・西田幾多郎は、1870年石川県かほく市に生まれた。
かほく市はかつて、能登地方と加賀地方をつなぐ宿場町として栄えた海辺の街。
西田家は、江戸時代からこのあたりを収める「十村(とむら)」という重職についていた。
父は自宅の一部を開放してこの地最初の小学校をつくった。
自ら校長になり、生徒に教えた。
そんな父を幾多郎は誇らしく思った。
幾多郎の成績はずば抜けていて、本を読むのが好きだった。
順風だった環境が一転するのは、明治時代が始まる頃。
今までの身分や財産は無きものになった。
そんな激動の幕開けに、幾多郎は金沢に行くことを願った。
反対する親を説得してくれたのは、姉の尚だった。
親は尚と共に金沢で暮らすことを条件に承諾した。
しかし、全国に広まったチフスに感染し、姉はわずか17歳でこの世を去った。
幾多郎が味わう最初の辛い哀しみだった。
「できるなら自分が身代わりになりたかった!」
のちに、幾多郎は何人もの大切なひとを失うことになる。
心の傷が彼を駆り立て、彼に心のありようを探求するきっかけを生んだ。
ひとは、傷なくして、何かを手にすることは困難である。

哲学者・西田幾多郎は、金沢で運命的な出会いをする。
北条時敬に数学を教わった。
北条は最高学府、帝国大学を出て石川県専門学校で教鞭をとっていた。
早くから西田の数学の才覚に気が付いた。難しい問題を難なく解く。
書生として可愛がった。
北条は勉強だけではなく、禅も教えた。
「自らを律することができないものは、学問でも道は開けない」
西田は必死に数学を学ぶ。そんな中、彼はある一冊の本に出合う。
井上円了の『哲学一夕話』。
哲学という学問に初めて触れ、衝撃が走った。
自分の存在、考えていること、全てを突き詰めていく。
生きるとは何か、姉が亡くなり、自分が今まだ生きていることの理由とは何か。
哲学は、面白い。
予科から本科にすすむとき、数学か哲学か、どちらかを選ばなくてはならなかった。
恩師・北条は言った。
「哲学者になるには、詩人的な想像力が必要だ。キミにはそういう能力があるかね?キミには数学の才があるのだから、そちらにしなさい」
でも西田は、約束された数学の道ではなく、哲学を選んだ。
困難であろうとも、己の心に背くことだけはしたくなかった。

哲学者・西田幾多郎は、哲学の道に没頭した。
あまりに本を読み過ぎて、目を患い、失明の危機にまで追い込まれても、勉強をやめなかった。
同志、鈴木大拙と哲学について語り、禅を教わった。
帝国大学の哲学科選科を修了し、教師になった。
いくつかの学校を転々として、母校、第四高等学校に職を得たのは、29歳のときだった。
恩師・北条が校長を務めていたので呼んでくれたのだ。
西田はデンケン先生と呼ばれた。デンケンとはドイツ語で考える。
その名のとおり、いつも考えていた。
身の回りのことはかまわず、いつも同じ服を着て、歩きながら本を読んだ。
ひとと違うということを厭わず、己の真理だけを追究した。
部屋の掛け軸にはこう書いた。
「一日不作、一日不食(いちにちなさざれば、いちにちくらわず)」。
世の中のためになることを何もできていない自分に腹が立つ。
そうした中、弟を戦地で亡くし、子供を病で失う。
亡骸に号泣しながらすがっても、事態は変わらない。
大切なひとたちの死に直面するたびに、己に問うた。
「この悲哀を、修練にできるのか?」
我が子の死に、悔やむ自分。もっと何かできたはずだ。
でも、それは自分のおごりなのかもしれないと猛省する。
必要なのは、後悔ではなく懺悔なのかもしれない。
座禅を組み、たどり着いたのが、無という境地だった。
「我が心 深き底あり 喜びも憂いの波も 届かじと思う」
西田はたびたび歌を詠んだ。
全ての感情が届かない深い深い心の底。
今、哀しんでいるのは、哀しみという鏡で心を写しているからではないか。鏡を代えさえすれば、感情も変わるのではないか。
深く深くもぐっていけば、やがて全てのものと一体になる。
絶対的な基準にあるのは、善きこと、誠。
そこのみをはずさなければ、存在に差別も区別もない。
だから日本人は空に浮かぶ雲の気持ちになれた、風に揺れる木々の想いに寄り添えた。
西欧の拡大していく文化ではなく、深く降りて万物と一体化する個性。
西田は迷い人に言うだろう。
あなたの想いを全うしなさい。己の思いに忠実でありなさい。
心に降りて行けば、必ず道は開ける。
「ひとはひと、我は我なりともかくも、我がゆく道を 我はゆくなり」

【ON AIR LIST】
Carry On / Norah Jones
いとしのエリー / サザンオールスターズ
Fragile / Sting
見張塔からずっと / Bob Dylan

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの根菜汁

今回は、哲学者・西田幾多郎が生まれた街、石川県かほく市の特産品である、長芋を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけの根菜汁
カロリー
162kcal (1人分)
調理時間
30分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2~4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 2パック
  • 長芋
  • 30g
  • 人参
  • 20g
  • 大根
  • 50g
  • 長ねぎ
  • 1/2本
  • 油揚げ
  • 1枚
  • 味噌
  • 100g
  • 大さじ2
  • 900㏄
  • しょう油
  • 少々
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。長芋、人参、大根をいちょう切り、油揚げを細切りにする。
  • 2.
  • 長芋、人参、大根を油をひいた鍋に入れ、中火で炒める。水を加えて油揚げを入れ、アクをとり、根菜に火が通るまで煮る。
  • 3.
  • 味噌、しょう油で味を調える。
  • 4.
  • 最後に霜降りひらたけと1㎝幅に切った長ねぎを加えひと煮立ちさせる。(お好みで、しょうが・ごま油を加えることで、体を温め、おいしさを引き立てます。)
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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