yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百三話 かぶりついて仕事せよ! -【盛岡篇】彫刻家 舟越保武-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百三話かぶりついて仕事せよ!

岩手県盛岡市にある『盛岡てがみ館』では、10月9日まで、岩手が誇る芸術家の企画展が行われています。
「舟越保武(ふなこし・やすたけ)の手紙」。
無数の書簡には、日本を代表する彫刻家、舟越保武の創作への苦悩や情熱、意気込みや逡巡が綴られています。
注文を受けても、なかなか思うように制作が追い付かないことを詫びる手紙には、彼の誠実で繊細な人柄が偲ばれます。
『お手紙いただきました。大変ご迷惑をおかけしていることを知っていましたが、いつも曖昧な返事で申し訳ありませんでした。この夏までには以前に作ったものを仕上げ直して設立したいと考えております』。
同じく盛岡市にある岩手県立美術館にも、舟越保武の展示室が常設されています。
そこには画家の松本竣介の絵も一緒に展示されています。
舟越と松本は、同じ年に生まれ、同じ岩手県立盛岡中学校、現在の岩手県立盛岡第一高等学校の同期生でした。
気品と優美さがあふれる女性像やキリスト教にまつわる聖人を、大理石やブロンズという石で表現した彫刻家、舟越。
東京の街を独自のモンタージュ技法でリリカルに描いた画家、松本。
二人の出会いと交流は、舟越ののちの人生に大きな影響を与えました。
36歳の若さで亡くなった親友、松本竣介の分まで、必死に生きようともがいた舟越。
ひとは、若き日に出会った風景、出来事、そして人に、生涯の糧を得るのかもしれません。
石彫りという、まだ日本で誰も本格的に取り組まなかった題材に果敢に挑戦し、戦い抜いた男、舟越保武。
彼が親友に学び、石を彫り続けることでつかんだ人生のyes!とは?

彫刻家、舟越保武は、1912年、岩手県一戸町に生まれた。
父は、敬虔なカトリック信者。地元の駅の駅長だった。
3歳のとき、父の転勤で盛岡に移り住む。
ほどなくして、母が亡くなる。
学業は優秀だった。岩手県立盛岡中学校に入学。
しかし、16歳のとき、右足が骨膜炎にかかる。
二度手術したが、治らない。
痛みに眠れない。右の足首をうまく回せない。
松葉づえの生活を余儀なくされた。
それでも、学校には休まず通った。
と同時に、他のひとと同じように生きられない自分も感じた。
同期に、松本竣介という生徒がいた。
このときはまだ、お互い親しく話をすることはなかった。
17歳のとき、兄からある本をもらった。
世界的な彫刻家、オーギュスト・ロダンの言葉を集めた本。
訳したのはやはり彫刻家の高村光太郎だった。
何気なしに読み始め、体が震えた。感動した。
ロダンの言葉が心に突き刺さった。
「美は、いたるところにあります。美が我々の目を背くのではなくて、我々の目が美を認めそこなうのです」
「芸術とは自然が人間に映ったものです。肝心なことは、鏡を磨くことです」
「自然は常に完全です。決して間違いはない。間違いは、我々の立脚点、視点のほうにある。骸骨にすら、美と完全がある」
さらにロダンは言った。
「情熱を持って君たちの使命を愛せよ。これより美しいことはない。君たちの使命は凡俗の考えるよりも遥かに高い」
「かぶりついて仕事せよ」
かぶりついて、仕事せよ。その迫力に舟越は、涙ぐんだ。

『ロダンの言葉』に感銘を受けた舟越保武は、彫刻に魅かれた。
美術書をよみあさる。見様見真似で、粘土をこねてみる。
ダメだ。うまくいかない。
彫刻の基本がデッサンにあることに思い至る。
来る日も来る日も絵を画いた。
デッサン、スケッチに油絵。彫刻がやりたい。
ロダンのように、高村光太郎のように、彫刻がやりたい。
その思いは強くなり、兄に、東京美術学校、現在の東京芸術大学に進みたいと言った。
師範科を受験するも、2年続けて不合格。
落ち込んだ。もうダメかと思う。
でも、最後のチャンスに彫刻科を受けさせてほしいと再び懇願。
見事、合格を果たした。

上京して、うれしい再会があった。
盛岡中学時代の同期、松本竣介。
彼もまた画家を志し、必死に絵を画いていた。
松本は幼い頃の病気がもとで、耳が聴こえなかった。
舟越が空中に指で字を書いて会話した。
松本はいつも明るかった。落ち込む舟越を励ましてくれた。
舟越が、
「僕の作品には爆発力がないんだ、破天荒な芸術家に憧れるが、全然なれないよ」
というと、松本は言った。
「馬鹿だな、舟越。個性なんてもんは、本来全ての人間に備わっているんだ。何を焦っているんだ。おまえにはおまえにしかできない彫刻があるだろう。たとえば、気品だ。いいか、品格ってやつは、いくらお金を出しても買えないんだ」
二人の親交は、松本が36歳の若さで亡くなるまで続いた。
松本の死を受けて、舟越は思った。
「俺はもう、中途半端は嫌だ。とことんやる。誰もやっていない仕事をやりぬいてみせる。松本、見ていてくれ。俺は負けない」

彫刻家、舟越保武は、練馬のアトリエ近くにあった大理石工場で、赤みを帯びた大理石に出会った。
これだ!と思う。
「この石で彫刻しよう」。
以来、彼は石と格闘する人生を選んだ。
長男を病で失ったことをきっかけに、洗礼を受けた。
キリスト教に関連する作品を次々と作った。
1962年、50歳のとき、『二十六聖人殉教者像』で、第5回高村光太郎賞を受賞。
うれしかった。あこがれのひと、高村光太郎の賞をもらえた。
でも、舟越の闘いの旅はまだ始まったばかりだった。
1967年、東京芸術大学の教授になる。
彫刻の奥深さに、畏れを抱く。やればやるほど、難しい。
くじけそうになるとき、いつも松本竣介の声を聴いた。
「舟越、おまえはおまえの道をいけばいい。大丈夫だ。必ず、道は開ける」。
ローマ法王から賞ももらった。文部大臣賞もいただいた。
東京芸術大学の名誉教授にもなった。
それでも、舟越の思いはただひとつ。納得のいく作品が作りたい。
75歳のとき、脳こうそくで倒れる。右半身が不自由になった。
それでも、左手だけで石を彫り続けた。
夭折(ようせつ)した親友の無念を思い、ロダンの言葉を思い出した。
「かぶりついて、仕事せよ!」
最後まで百点満点の仕事など、あるはずはない。
できなかったこと、やれなかった後悔の思いが、次の仕事を生む。
舟越保武は、最後まで石を削るノミを握り続けた。

【ON AIR LIST】
若者のすべて / フジファブリック
My Immortal / Evanescence
はじまりの日 feat.Mummy-D / スガシカオ
Everything Now / Arcade Fire

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとキャベツのさっと煮

今回は、彫刻家 舟越保武の生まれ故郷、岩手県一戸町で栽培が盛んな、キャベツを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとキャベツのさっと煮
カロリー
114kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • キャベツ
  • 150g
  • さやいんげん
  • 2本
  • にんにく
  • 1片
  • あさり(殻つき)
  • 150g
  • 白ワイン
  • 大さじ3
  • しょうゆ
  • 小さじ2
  • 適量
  • バター
  • 大さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。
  • 2.
  • キャベツはざく切りにし、さやいんげんは3cmの長さに、にんにくは薄切りにする。
  • 3.
  • 鍋にバターの半量を熱してにんにくを炒める。香りが立てばキャベツ、霜降りひらたけ、あさりの順に重ねて入れる。
  • 4.
  • ワインを回し入れて蓋をし、6、7分蒸し煮にする。
  • 5.
  • あさりの口が開いたらさやいんげんを入れ、2、3分煮る。しょうゆ、塩で味を調え、残りのバターを落とす。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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